【予告】倒叙ミステリ“七つの大罪”とは何か ――2015年・新刊倒叙ミステリ勝手に反省会
聖書など、『刑事コロンボ』のパクリにすぎない。 ヴォルテール
こんばんは!明日はいよいよ第二十一回文学フリマ東京ですね!白樺香澄です。
1ヶ月以上〈刑事コロンボVS日高屋〉をほっぽらかしておいて単発記事です。たぶん前後編。
もうすぐ年末ランキングのシーズンだし、読んだ本の個人的オススメランキングを作ろうかなと思い立ったのですが、嬉しかったことには今年は倒叙ミステリの新刊がすごく多かった!
私が手に取っただけでも、大倉崇裕先生の『福家警部補の追及』に、小島正樹先生の『浜中刑事の妄想と檄運』。円居挽先生の『シャーロック・ノート』も倒叙の色濃い作品でしたし、西尾維新先生が『掟上今日子の挑戦状』で倒叙を書いたのは驚きました。さらに、この文フリのエアミス研さんの新刊が「倒叙ミステリ特集」だったり、倒叙ファンにとってはなんとも嬉しい1年!
…..Just one more thing.
しかし、今年の倒叙新刊を俯瞰すると一つだけ言いたいことが。
読む作品読む作品、なんだか「例のあのネタ」を使ってるパターンがやけに多くありませんでしたか?
具体的に言うとネタバレになってしまうので後に回しますが、上記4作品中3作品が同じネタで被ってて、さらに非倒叙の本格作品でも1例、見つけちゃったんですよ「名前を言ってはいけないあのネタ」を!年4ペースですよ!今年1年だけで松尾詩朗先生の執筆ペースを上回ってるってことだよ!
何が起こった倒叙ミステリ界。ここはコロンバー*1の端くれとして、「倒叙ミステリかくやあらん」と世に問うておいた方が良いのではないか!とはた迷惑な使命感に燃え出した白樺香澄です。(自己紹介)
と言う訳で倒叙ミステリ勝手に反省会。「倒叙ミステリ“七つの大罪”とは何か」スペシャルが、来週からはっじま~るよ~!(たぶん)
遂にエラリー・クィーンを読むぞ 第3回『オランダ靴の秘密』──西洋のミサワと名探偵ジューナのボジョレー・ヌーヴォー
クィーンを頭から読んでいく本シリーズも漸く3本目。なんかだいぶ間が空いてしまった感がありますが、まあそこはそれ。
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と、いう訳で、今回は国名シリーズ第三作『オランダ靴の秘密』。
- 作者: エラリー・クイーン,竹中,越前敏弥,国弘喜美代
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2013/03/23
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (9件) を見る
で、前回までは比較的細かくメモを取って読んでたんだけど……ちょっと今回は時間的余裕がなかったので、最初の1/3以外は一気読みにしてしまいました。という訳で、今回は手短に終えたいなと思います。ロジックの良作としての噂は以前から聴いていたので、もう少し精密に読めればよかったのだけど……。次回は『ギリシャ棺』なのでがんばりたい。
あらすじ
大富豪アビゲイル(アビー)・ドールンの設立した病院〈オランダ記念病院*1〉を訪ねるエラリー。医長を務める旧友のジョン・ミンチェンに、捜査上の助言を求めに来たのだ。ミンチェンの医学的なアドヴァイスのお陰でエラリーの抱えていた謎は電話一本で(!)解決。折角なので記念病院の中をミンチェンに案内して貰うことに。
折しも今朝、病院のパトロンであるアビー・ドールンがインスリン注射を忘れたせいで階段から落ちてしまい、昏睡状態のまま緊急手術が行われようとしていた。エラリーはミンチェンに誘われてその手術を見学することになる。執刀医は、アメリカ一の外科医とも呼ばれるフランシス・ジャニー外科部長。ジャニー医師はドールンから昔から息子同然に育てられ、海外留学などの資金援助も貰っており、アビーから多額の遺産が遺される約束にもなっているという。 エラリーらが見学席に就き、アビーが手術室に運び込まれ、手術が今にも始まろうとしていたが……なんと、アビーは細い針金で絞殺されていたのだ!
現場を封鎖させ、警視らを呼び寄せるエラリー。前後の状況から、犯行は控室で行われたものと推定される。 そして、犯行時間の前後に、控室ではジャニー医師と思しき人物が目撃されていたのだ!しかし、ジャニーは犯行時間前後、ちょうどスワンソンと名乗る人物と面会しており、アリバイはあったと主張する。加えて、犯人が遺棄したと思しき制服ズボンと靴が発見され、その靴の特徴がジャニーの歩き方の癖と一致しなかったため、エラリーらは何者かがジャニーに成り済まして犯行に及んだものと推測する。しかし、ジャニーはアリバイを保証する筈のスワンソンの正体について口を割ろうとせず、疑惑は深まる。
時間ばかりが過ぎてゆき、事態が混迷を極める中、スワンソンの正体を明かさせるため、警視は一計を案じる。しかし翌日、思いも掛けない展開が捜査陣を待ち受けていた──!!
感想:国名ー・ヌーヴォー
前書きの部分で「この事件めっちゃ難しかった」みたいなことが書いてあるんだけど、『ローマ』『フランス』にも似たような事が書いてあったし、なんかどんどんインフレが起きてる気がする。ボジョレー・ヌーヴォーかよ。という疑惑があったので、取材班はこれまでの「前書き」での本編への言及について調べてみた:
『ローマ帽子の秘密』
-
- 「エラリーのたぐいまれなる才能が生き生きと発揮された一例である。 *5」
『オランダ靴の秘密』
- 困難をきわめた今回の謎解きにおいて、エラリーはまちがいなく知力を最大限に発揮している。
- 迷宮のごときモンティ・フィールド事件の捜査でも、複雑きわまりないフレンチ殺害事件の捜査でも、これほどの驚くべき知性は必要とされなかった。
- 現実であれ小説のなかであれ、かくも鋭い推理をもって犯罪心理の蒙昧たる深みを探り、悪辣な策略のもつれの糸をほぐした者は、かつてなかったと私は確信している。*6
いったいこの先どうなっちゃうんだ……。番組ではこの問題について今後も継続的に調査する予定です。
渦中の人・ジャニーと西洋のミサワ、クナイゼル
キャラクターの話をしよう。 『ローマ』ほどじゃないけど、警視の躁鬱っぷりというか多重人格っぷりは本作も健在。 最近の若者かよってくらい(狙って)突然キレる。職人技。
あと、今回のキーパーソンであるヨーロッパ系の山師っぽい「天才」冶金学者クナイゼルのキャラが面白い。っていうか怪しすぎる。こいつ、ジャニーの共同研究者でアビーから金貰って共同研究してるんだけど、「科学者だから感情とかないわー 科学者だからなー 死とかどうでもいいわー」っていうっぽい感じのキャラで、エラリーとヨーロッパことわざ合戦みたいなことをして遊んでたと思ったら、変なロジックで「次狙われるの俺だ!!!助けて!!!!」って警視の下に駆け込んできたりする。感情、あるじゃん。西洋のミサワかよ。そんなクナイゼルを見て思うところもあったのか、「僕も一歩間違えたらああなってたのかなぁ……」っていうエラリーもかわいい。
実際問題として、このクナイゼルの合金研究が本当に価値のあるものなのかは不明だけど、そもそもジャニーも天才外科医とはいえ、専門外の合金の研究をパトロンから資金貰って病院内に設備設えてやったりするのかな?この辺り、もの凄い勢いで詐欺に遭ってる臭いがプンプンだ。っていうか合金創るのに重金属とかも使うだろうし、それって病院の中なんかで扱って問題出ないんだろうか……?公害とかに大らかな時代を感じる。
そもそも、ジャニーはこのクナイゼルとの研究以外にも、ミンチェンとアレルギー疾患に関する専門書を執筆している。これはもう超極秘プロジェクトで、存在じたいは知られているんだけど、症例とかの具体的な資料に触れるのはミンチェンとジャニー、それからジャニーの助手・プライス看護婦だけという徹底ぶり。ジャニー働きすぎでしょ。ってか秘密多すぎ。アビーに気に入られてるとはいえ、病院を私物化しすぎているきらいがあるし、そりゃ研究費も打ち切られるってもんですよ。
脇役たちの描写
あと、マスコット的存在であるジューナが本作ではそれまで以上にクローズアップされている。エラリーの推理に突破口を開く助言をした褒美にエラリーから変装キットを貰うんだけど、それでエラリーに「お前は誰だ!いますぐでてけ!」と言わしめるまで見事な変装をしてみせる。ジューナ、お茶目。っていうかエラリー小心すぎる。こういった点も、これまでに比べてキャラクターが活き活きと動いて見えて、小説としての深みが出て来たといえるかもしれない。
ところで本作、合間合間にアビーの娘・ハルダとドールン家の専属弁護士・フィルのカップルの噛み合わない短い会話が三人称視点で入る。フィルはなんか必死にアビーを宥めようとするんだけど凄く逆効果なこといっちゃってそれに気付いてなかったりするので、すごくイライラする。結局この辺りは推理に寄与していない気がするし、そもそも「作中エラリー視点で解ける」前提で挑戦状が挟まれているのがクィーンの革新的な所だという話なので、このシーンはオマケな訳だけど、結局なんだったんだろう。単にカップルにイライラしてくださいね〜〜〜っていう嫌がらせだったんだろうか。勿論、関係者の動きを二人の会話から説明したりはしているんだけど。
着実に成長していくシリーズ
あと、これはネタバレになっちゃうから詳しくはいえないけれど、本作でははじめて二人目の被害者が出る。これは今までの二作にはなかった展開で、それによって全体の展開に緩急がついてよかったと思う。っていうか今までずっと一人の被害者とロジックのみで間を保たせていたのは凄いなあと逆に思う。解説によれば、『オランダ靴』は初期の中ではかなりのベストセラーになったらしいけど、指摘されている病院という舞台の新しさ以外にも、被害者が増えたのも要因の一つじゃないだろうか。人が沢山死ぬとテンションが上がるし。
そして、上で述べたように、僕は本作ではメモをそんなに取れなかった。以下でちょっとだけ詳しく触れるけれど、それでも十分に納得出来るほど本作のロジックは単純でしかし強力なものだった。もちろん、こうした綺麗なロジックの構築手腕は先立つ二作にも十分に認められるけれども、その見せ方は作を追って巧いものになっていっていると思う。
謎解きについて
以下、ネタバレを含みます。
*1:何がどうオランダを記念しているのか最後までよくわからない
*2:『ローマ帽子の秘密』p.17
*3:『ローマ帽子の秘密』p.24
*4:同上
*5:『フランス白粉の秘密』p.22
これ単体ではあんまり事件そのものの困難さの修飾にはなっていない。
しかし、これより前に散々エラリーの非凡さを強調しているので、実質的にその複雑さを強調しているといえる。
*6:以上、いずれも『オランダ靴の秘密』p.10より
対決!刑事コロンボVS日高屋チキチキ10番勝負! 第3試合「二枚のドガの絵」vsW餃子定食(執筆者:白樺)
こんばんは!皆さんご無沙汰しています。白樺香澄です。
締め切り間近の新人賞の原稿をヒィヒィ言いながら書いてるうちに気付けば前回から一ヶ月も空いてしまいましたごめんなさい。
サークルの後輩に「正気なんですか?」と真顔で問われたこの企画も第3試合!
BS-TBSさんでの再放送がいよいよ始まり、
「二枚のドガの絵」は屈指の人気作だし、せっかくならBSでの放送に合わせて更新してTBSさんに大いに感謝されよう。そして次回の情熱大陸で白樺香澄ちゃんを取り上げてもらおうと思っているうちに、あら、もう『二枚のドガの絵』は放送されちゃったんですか、そうですか。しょんぼり。
……気を取り直してさっそく注文。「W餃子定食」(620円)がやってきました!
壮観です。熱々を一口でほおばるには勇気が要るビッグな餃子が12個!
おまけの小皿をキムチか唐揚げから選べるのですが、今回は「よりカロリー!」「より肉!」という私の人生の基本方針から迷わず唐揚げをチョイス。
ちょっと「解る人」ぶってみて、まずはメインの餃子をお醤油付けずに一口。
カリカリの焼き目がついた、もっちりと厚い皮の食感は文句なし。
中の具はおうちで作る餃子なんかに比べると少し淋しいかな?
でも、噛みしめると肉汁のコクと、キャベツ&ネギの甘みが濃厚なスープになって口いっぱいに広がります!これは美味しい!
少し冷めるとパリパリ感はなくなっちゃうものの、かわりに皮が具の脂とスープを吸ってもっちもちになり、味わいが変わってこれまたグッド!
中華屋さんぽい「皮が美味しい餃子」になるのです。
なるほどこれが、“ちょい飲み”ユーザーからも評判の高い日高屋さんの餃子なんですね!
……これを書いてる間にも、思い出して食べに行きたくなっちゃいます。
続きを読む
遂にエラリー・クィーンを読むぞ 第2回『フランス白粉の秘密』──華のある殺人、あと飛行機に乗る時は不味い日本酒に気を付けよう
まえせつ
エラリー・クィーンを読むぞという趣旨のこの連載も遂に二回目。前回の公開から大分時間がたってしまいそろそろ二日坊主の噂も立ち始めて16日目の事、漸く公開です!
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という訳で、今回採り上げるのは『フランス白粉の秘密』。
- 作者: エラリー・クイーン,越前敏弥,下村純子
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2012/12/25
- メディア: 文庫
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実際には、第一回分を書いた帰りの飛行機から読みはじめて、メモも書き進めていたからすぐ公開出来る筈だったんだけど、ちょっと予定が狂った。というのも、帰りの機上で日本酒を呑んでしまったのだ。幼い頃以来はじめての海外旅行、それも単独渡航だったのでテンションが上がっていたのもあるし、また伝説的なパズル作家・芦ヶ原伸之氏のコラムで読んだ「日本酒の事を英語圏の人間は Sakeと書いて〈サーキー〉と呼ぶ」という知識を試してみたかったのもあった。 あと、最近の発見として酩酊状態でミステリを読むと存在しない伏線と存在しない推理が存在しない行間から湯水のように溢れ出してくるというものがあって、この過程を書き留めてみたかったというのがあった(何もクィーンでそれをやらなくても……という感じだ)。
でまあそういう訳で飛行機で飲酒しながら読む予定だったんだけど……まあ飛行機で呑める日本酒の質というのは高が知れていて、また機体は小刻みに揺れるという訳で、すっかり悪酔いしてしまってこの試みは見事潰えることとなってしまったのであった。皆さんも飛行機で日本酒を呑む際にはくれぐれも御用心を。
閑話休題。作品の話をしましょ。
あらすじ:華のある事件
19XX年のニューヨーク五番街のデパート、フレンチ百貨店。この大型百貨店のショーウィンドウでは、今まさにフランス人家具デザイナー、ポール・ラヴリー(not ヴァレリー)の設計による最新式の収納型ベッドのデモンストレーションが行われようとしていた。そして正午、係の女性がボタンを押すと──迫り出してきたベッドと共に、銃弾を打ち込まれた女性の屍体が現れた! 女性はフレンチ百貨店社長夫人であることがすぐに判明。遺留品からは継子のスカーフと、時を前後して失踪した連れ子・バーニスの持ち物が発見される。次々と明らかになるフレンチ家の事実。無能な〈民間人〉警察委員長のおもりはリチャード警視に任せて、エラリーが導き出した真相とは!?
……とまあ、あらすじを纏めてみるとこんなに短かくなってしまう。というのも、本編のミステリとしてのキモは無数の緻密な手掛かりの網だからだ。全部書いてたら長くなるかネタバレになってしまうので、まあこんな物かなと。
現象面だけ見てみると、今回の事件は前作に比べて華があると思う。前回のサスペンス劇上演中の劇場での殺人の発覚というのも面白い舞台設定ではあるんだけど、なんせ本作では白昼堂々、衆人環視の下で射殺体が発見されるのだ。ドラマチック!凝った見立てとか首切りがある訳ではなくても、この状況設定だけでかなり興奮する。 勿論、状況設定だけでなく、発見後からエラリーの見せるロジックも冴えていて良い。
あと、途中でエラリーが現場検証に自ら赴くんだけど、ここでベルリン市長から贈られた探偵ひみつ道具箱(ツァイス製)みたいなのを取り出す。関係者の一人でエラリーの旧友であるウェストリーと一緒に捜査してるんだけど、ここの二人の掛け合いがアメリカの通販番組みたいで結構ツボに入った。このシーンだけ取り出して映像作品を誰か作って欲しい(エラリー直販!)。
あと、このフレンチ百貨店のサイラス・フレンチ社長は〈悪臭悪習撲滅委員会〉なる組織の重鎮を勤めているんだけど、実はフレンチ一族はもう悪習が蔓延りまくってるということが段々わかってくる。殺されたかみさんの連れ子は実は麻薬常習者であることが発覚して、まあ社長以外ほとんどみんな気付いてる感じだし、ウェストリーや実娘のマリオンによれば、かみさんと取締役の一人が不倫関係にある疑惑があって、別の取締役はヤク中の連れ子を狙ってるし、フレンチ一家っていうよりとんだハレンチ一家じゃねえか。サイラスかわいそうすぎる……。っていうか気付けよ……。
無能の〈民間人〉警察委員長
今回絶好調のエラリーと好対照なのがリチャード警視。っていうかまあ前回も苦悩していたけれど、あれは息子が側にいないよぉ寂しいよぉっていうBL的な苦悩だったのに対し、今回は実務上の悩みだ。最近就任した〈民間人〉の新警察委員長があらゆることに首を突っ込んでは現場をしっちゃかめっちゃかにするのでめっちゃイライラしてるのだ。 この警察委員長は、冒頭でエラリーが披露するささやかな現場特定のロジックすら理解出来ないと周りから思われているらしく、「この場は俺が引き止めるから、お前は先に行けーッ!」とばかりに盾になってエラリーに本命の現場検証に向かわせるリチャード警視。バトル漫画かよ。かっこいいよ。
欲を云えば、もう少しこの警察委員長が謎解きの本筋に関わってくるといいなー、とか、もっと現場を掻き乱してくれたら気が気じゃなくなって面白かったかもしれない。まあ、そうなったら謎解きどころじゃないかもだけど……。
謎解きについて
前回の宣言通り、今回は初読なので推理を組み立てながら読んでみた。
以下、ネタバレを含みます。
続きを読む対決!刑事コロンボVS日高屋チキチキ10番勝負! 第2試合「歌声の消えた海」vsニラレバ炒め定食(執筆者:白樺)
さてさて、コロンボvs日高屋、第二試合は「歌声の消えた海」vsニラレバ炒め定食!
懲りずに遊びに来て下さったあなたに感謝!
皆さんは「ニラレバ」と呼んでますか?それとも「レバニラ」?
中華系チェーン店では、「日高屋」「餃子の王将」が「ニラレバ」、
「大阪王将」「オリジン東秀」「福しん」は「レバニラ」を名乗っています。
創業の年代などもバラバラで、法則性はなさそう……(「王将」と「大阪王将」が対立しているのは面白いですが)
私は「レバニラ」派なのですが、中国語では「韭菜炒牛肝」。
つまり、頭から直訳していけば「ニラレバ」が正しい訳で、日本でもかつてはそちらが完全に主流だったそうです。
調べてみると「レバニラ」という「誤用」を全国に広めたのは赤塚不二夫先生だとか!
バカボンのパパの好物が「レバニラ炒め」なんですよね!
『天才バカボン』の影響で「レバニラ」という言い回しが広まり、今ではグーグル検索でも、
レバニラ炒め 約 380,000 件
ニラレバ炒め 約 292,000 件
と「レバニラ」が優勢。Wikipediaの項目でも「レバニラ炒め」になっています。
「レバニラ」というのは、一種のズージャ語だったのですね!
1970年代。赤塚先生をはじめ、筒井康隆御大や山下洋輔さんといった「ジャックと豆の木」文化人たちが活躍した、「大衆文化」の最も華やかなりし時代を今に伝えるインデックスが、「レバニラ炒め」なのかもしれません。
それは『刑事コロンボ』が、アメリカにおける「テレビ文化」の台頭を象徴する番組でありながら、古き良きハリウッド黄金時代へのリスペクトに満ちあふれていることと、よく似ていますね。
似ていますよね?似ているんです。
つまりレバニラ炒め=刑事コロンボだったのです!!
続きを読む越境するお笑い芸人・ジャンル小説編
今年一月、お笑いコンビ・ピースの又吉直樹が『文學界』2月号に小説「火花」を発表すると 、同誌は発売二日目に創刊以来初となる増刷を決定、累計四万部という異例の部数を発行することになった。さらに、三月に「火花」が書籍化されるやいなや 、発売一ヶ月も経たぬうちに発行部数三十五万部に到達、翌月には三島由紀夫賞の候補に入った。そしてついに、「火花」は芥川賞の候補にまでなり、見事第一五三回芥川賞の栄誉に輝いたのである。芥川賞史上、お笑い芸人の受賞は又吉が初めてであった。「火花」は増刷に増刷を重ね、8月の時点でいよいよ200万部を突破したらしい。出版業界はまさしく又吉フィーバー状態だ。
又吉は別格だとしても、お笑い芸人たちがメディアの壁を越境し、創作の幅を広げているのは間違いない。ところが、芸人の書いた小説は多々あれど、意外とジャンル小説は少ない印象を受ける。麒麟・田村裕の『ホームレス中学生』や品川庄司・品川の『ドロップ』を筆頭に、青春小説や自伝的小説な小説が多く、ミステリやSF、ホラーといったジャンルのものはあまり書かれていないのではないか。そこで本稿では、お笑い芸人が書いたジャンル小説――もっと云ってしまえばミステリ――と呼びえる作品のものを集め、いくつか紹介してみたい。
コント仕掛けのスペシャリスト
藤崎翔『神様の裏の顔』『私情対談』(角川書店)
板倉俊之『トリガー』『蟻地獄』(リトルモア)
渡部健『エスケープ!』(幻冬舎)
第34回横溝正史ミステリ大賞受賞作『神様の裏の顔』は、作者の〈元お笑い芸人〉という経歴が話題になった。二〇一〇年までセーフティ番頭というコンビで六年間芸人として活動していたらしい。
清廉潔白、教育者として自らの全てを捧げた神様のような教師、坪井誠造が逝去した。その通夜には、彼を慕う多くの人々が押し寄せ、悲しみの涙を流した。ところが、集まった参列者たちが故人を回想していくうち、神様の思いも寄らなかった人間像が浮かび上がっていく……。
ディスカッションを積み重ねることでそれまで見えていた景色が塗り替えられていくという構成には、 紛れもなく本格としての面白さを感じる。あとは書きぶりをユーモラスと取るかどうかで評価が変わってくるだろう。
今年の六月に刊行された二作目『私情対談』は、人気女優とベストセラー作家、サッカー選手、バンドメンバーなど六つの対談・鼎談を描きながら、それぞれが密接に繋がり、裏に隠された驚くべき真実が明らかになっていくという構成。表の顔と裏の顔というテーマは前作と共通しているが、本作の方がより技巧的である。
ところで、横溝賞の選評のなかで、選考委員の道尾秀介は『神様の裏の顔』に対して次のように述べている。
故・桜塚やっくんさんの小説『美女♂men』や、アンジャッシュ渡部健さんの『エスケープ!』のように語り口が非常に愉快で、ユーモアのセンスは見習いたいほどだった。これがミステリー小説として、インパルスの板倉俊之さんの『蟻地獄』の域にまで達していれば文句なしだったのだが。
道尾がここまで持ちあげる『蟻地獄』とは一体どういう小説なのか。
二村孝次郎は、幼馴染の大塚修平とともにカジノでの大儲けを計画する。二人は不正賭博で大金を手に入れるが、イカサマを見破られ、カジノオーナーの柏木にたっぷりと痛めつけられてしまう。修平を人質にとられ、五日後までに三百万円を準備するように要求された孝次郎は、死体の臓器を売って金をつくろうと、単身青木ケ原樹海へ足を踏み入れるが……というあらすじ。
矢継ぎ早に盛り込まれたアイディアでスピーディに展開していく、気持ちの良いエンターテイメント(内容は気持ちの良いものではないが)である。細かい伏線を至るところに張り巡らせ、次々と回収していく手さばきは、今まで小説を読んでこなかった(本人談)人間のものとは思えない。
ちなみに、デビュー作の『トリガー』は、〈射殺許可法〉の制定された日本を舞台にした近未来ハードボイルドだ。各都道府県に一人ずつ配置された拳銃所持者(トリガー)の活躍や葛藤を、連作短編形式で様々な視点から描いており、文章こそ拙いものの、アイディアの盛り込み方など達者である。『蟻地獄』の物語の運び方からしても、個人的に板倉は短編小説向きの作家ではないかとも思う。
一方、道尾が「語り口が非常に愉快」と引き合いに出した渡部健『エスケープ!』は、アンジャッシュのコントをそのまま小説にしたような内容である。
〈僕〉ことシュウは会社の内定も決まり、チカゲという可愛い彼女もいる大学生。将来は順風満帆に思われたが、刺激のない平凡な毎日に味気なさも感じていた。あるとき、たまたま目にした雑誌記事がきっかけで、シュウは空き巣の計画を練り始める。かつてない情熱で入念に企てた犯行計画。しかし、忍び込んだ家の中で、シュウは見知らぬ男と鉢合わせることになる。
少ない登場人物たちのあいだに誤解やすれ違いを生じさせ、その勘違いから物語を進めていくというシチュエーションの作り方は抜群に巧い。ただ、シチュエーションコントに小説的肉付けを加えているだけに感じるのが欠点といえば欠点か。
暴走堕天使
滝沢秀一『かごめかごめ』(双葉社)
鳥居みゆき『夜にはずっと深い夜を』『余った傘はありません』(幻冬舎)
マシンガンズ・滝沢の『かごめかごめ』は、E★エブリスタ電子書籍大賞2013双葉社賞を受賞したホラーサスペンスだ。
神原喜代美のストーカーである〈オレ〉は、同じく神原のストーカーであった高井真郷を殺害、死体をバラバラに解体する。遺体を少しずつ処分しながら、ストーカー行為を継続するオレであったが、あるとき神原の捨てたゴミの中から、オレに宛てたメッセージが出てくる。さらに、オレの部屋のドアには不気味な手形が残され、死体を置いてある浴室には何者かが入った痕が……。
有吉弘行は本書の帯に、「支配していると思っていると、実は支配されていたりする。人間関係ってそんなもん」という言葉を寄せている。その言葉どおり、本作の肝は〈支配する者〉と〈支配される者〉が次第に入れ替わってゆく恐怖感だろう。中盤の展開には唖然とさせられるが、その先の読めない展開や、途方もない法螺の吹き方など、ストーリーテラーとして光るものがあるように感じた。
鳥居みゆきの小説は、あえて分類すればサイコホラーと云えなくもないが、厳密には特定のジャンルに収まらない。
処女小説『夜にはずっと深い夜を』は、連作短編ともショートショートとも散文詩とも云えるような作品集で、汚いものが嫌いな母(「きれいなおかあさん」)や、自分の名前に絶望している女(「幸子」)など、どこか壊れていたり病的なコンプレックスを抱えた女たちの物語が綴られている。全編言葉遊びとブラックユーモアに満ちており、不条理でありながら、各編が有機的に関連しあうというしたたかな面も見られる。
二作目の『余った傘はありません』も似たような形式を採用しているが、前作よりは連作短編という枠組みが意識されているように思われる。四月一日に生まれた双子の姉妹の人生を描きながら、各短編が伏線となり、最後に一本につながるという趣向は巧みで、ミステリファン向きであろう。
面白推理文庫
ビートたけし『ギャグ狂殺人事件』(作品社)
タモリ『タレント狂殺人事件』(作品社)
〈面白推理文庫〉という叢書から二冊を紹介。
〈面白推理文庫〉とは何か。カバー袖には、「本シリーズでは、各分野でもっとも活躍されておられるエキスパートが、みずから虚構と事実の膜を開くという根底的な発想のもとに、さらに古今東西の名作に挑み、エキスパートならではの過激なパロディ化をはかります」と説明されている。なんとも胡散臭くて八〇年代的。
さて、まずは『ギャグ狂殺人事件』のあらすじから。ある日たけしのもとに、お笑い芸人の姿を模した人形と、マザーグースのような奇妙な歌が送られてくる。そしてその後、いかりや長介や萩本欽一、タモリ、談志ら人形のモデルとなった芸人たちが、歌に沿って立て続けに殺されていってしまう。なぜ人形はたけしに送られてきたのか。たけしは犯人からの挑戦を受け、事件の謎を追う。
十人のコメディアンがいたってよ
一人が火事で焼け死にゃあ
残りは九人に決まってらあ
本作を本格ミステリとして読むのは難しいが、ミステリパロディとしてはなかなか面白いものになっている。前述のあらすじからわかるとおり、事件の設定はアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』パロディであり、莫迦ばかしい見立てによって実在の有名人たちが次々と殺されていく展開は、ブラックな笑いもあって、ミステリ好きならそれだけで十分楽しめることだろう。それだけに留まらず、個々の殺害方法に関しては山田風太郎やエラリー・クイーンを下敷きにするなど、ミステリファンへの丁寧な目配せも堪らない。
次いで『タレント狂殺人事件』。テレビ番組『今夜は最高!』のプロデューサー・須沼が病院で毒殺された。死体はなぜか病院の外の側溝で発見され、病室からはお笑い芸人の九十九一の指紋が検出された。九十九が行方をくらますなか、今度は清純派歌手の柏崎裕美が殺され、現場には九十九のネクタイが残されていた。
周辺関係者の不審な動きや、謎のメッセージ〈991〉など、ミステリとしての骨格は意外としっかりしている。伏線もしっかりと張られており、『笑っていいとも!』のテレフォンショッキング内で九十九の無実が語られるなど、盛り上げどころを正しく心得ているのも好印象。また、『ギャグ狂』にも共通することだが、事件の真相に芸人(芸能人)ならではの悲哀というべきものが設定されており、ラストにそこはかとなく苦い余韻を漂わせているのも良い。
なお『ギャグ狂殺人事件』は高田文夫の筆によるものらしい。
たけし軍団
そのまんま東『ビートたけし殺人事件』(太田出版)
ガダルカナル・タカ『フェアウェイの罠 ゴルフトーナメント殺人事件』(太田出版)
最後に、たけし軍団メンバーの手による作品を二つ。
『ビートたけし殺人事件』は、ビートたけしの失踪から物語がはじまる。警察をあてにせず、自分たちで殿(たけし)を見つけ出そうと動き出すたけし軍団。そんな折、東の自宅近所で浮浪者の殺される事件が起きた。しかもその手には、殿の写った古い写真が握られていた……。一方、残された謎のメッセージ「しやうじや」を手がかりに、某局のスタジオへ向かったたけし軍団は、そこで顔の潰れた死体を発見する。
文章こそ拙いが、本格ミステリとしての骨格は案外真っ当で、抑えるべきところは抑えてあるのにびっくり。何より、暗号や顔のない死体、密室殺人、「名探偵、みなを集めてさてと云い」のお約束にのっとった解決シーンなど、本格ミステリのガジェットが満載なのが嬉しい。最後にはトンデモな事件の背景が明らかになり、一気にキワモノSFミステリへと転化するのもご愛敬。
ちなみに、続編として『明石家さんま殺人事件』『伝言ダイヤル殺人事件』というものもあるが……。
『ビートたけし殺人事件』の大ヒットに影響を受け、ガダルカナル・タカが執筆したのが『フェアウェイの罠 ゴルフトーナメント殺人事件』である。
伊豆で開催されるゴルフトーナメントのラウンドレポーターを任されたたけし軍団のタカは、初日の六番ショートホールでジャンボ尾崎から「誰かがオレのプレーの妨害をしている」と囁やかれる。そして二日目の朝、コース内の崖下から暴力団員の死体が発見された。果たして、ジャンボのプレーの妨害となにか関係しているのだろうか。ジャンボに頼まれ、タカは探偵の真似事を開始する。
ジャンボ尾崎をはじめ、プロゴルファーたちが実名で登場するゴルフミステリーである。正直なところ、ミステリとしては大したことないが、ゴルフ小説としてはたいへん面白く読めた。ゴルフに魅せられた者たちが語るゴルフ哲学、彼らが織りなすドラマは、ルールすらよくわかっていない門外漢にとっても読みごたえ充分。ゴルフを扱ったミステリというより、ゴルフこそがミステリなのだと思わされる佳品だ。今年刊行された国内ゴルフミステリ(河合莞爾『救済のゲーム』や平石貴樹『松谷警部と三ノ輪の鏡』)と読み比べてみるのも一興だろう。
(※この文章は、 『風狂通信vol.2』掲載の拙文「越境するお笑い芸人(ジャンル小説篇)」をブログ記事用に改稿したものです)
(秋好)