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遂にエラリー・クィーンを読むぞ 第2回『フランス白粉の秘密』──華のある殺人、あと飛行機に乗る時は不味い日本酒に気を付けよう

まえせつ

エラリー・クィーンを読むぞという趣旨のこの連載も遂に二回目。前回の公開から大分時間がたってしまいそろそろ二日坊主の噂も立ち始めて16日目の事、漸く公開です!

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という訳で、今回採り上げるのは『フランス白粉の秘密』。

実際には、第一回分を書いた帰りの飛行機から読みはじめて、メモも書き進めていたからすぐ公開出来る筈だったんだけど、ちょっと予定が狂った。というのも、帰りの機上で日本酒を呑んでしまったのだ。幼い頃以来はじめての海外旅行、それも単独渡航だったのでテンションが上がっていたのもあるし、また伝説的なパズル作家・芦ヶ原伸之氏のコラムで読んだ「日本酒の事を英語圏の人間は Sakeと書いて〈サーキー〉と呼ぶ」という知識を試してみたかったのもあった。 あと、最近の発見として酩酊状態でミステリを読むと存在しない伏線と存在しない推理が存在しない行間から湯水のように溢れ出してくるというものがあって、この過程を書き留めてみたかったというのがあった(何もクィーンでそれをやらなくても……という感じだ)。

でまあそういう訳で飛行機で飲酒しながら読む予定だったんだけど……まあ飛行機で呑める日本酒の質というのは高が知れていて、また機体は小刻みに揺れるという訳で、すっかり悪酔いしてしまってこの試みは見事潰えることとなってしまったのであった。皆さんも飛行機で日本酒を呑む際にはくれぐれも御用心を。

閑話休題。作品の話をしましょ。

あらすじ:華のある事件

19XX年のニューヨーク五番街のデパート、フレンチ百貨店。この大型百貨店のショーウィンドウでは、今まさにフランス人家具デザイナー、ポール・ラヴリー(not ヴァレリー)の設計による最新式の収納型ベッドのデモンストレーションが行われようとしていた。そして正午、係の女性がボタンを押すと──迫り出してきたベッドと共に、銃弾を打ち込まれた女性の屍体が現れた! 女性はフレンチ百貨店社長夫人であることがすぐに判明。遺留品からは継子のスカーフと、時を前後して失踪した連れ子・バーニスの持ち物が発見される。次々と明らかになるフレンチ家の事実。無能な〈民間人〉警察委員長のおもりはリチャード警視に任せて、エラリーが導き出した真相とは!?

……とまあ、あらすじを纏めてみるとこんなに短かくなってしまう。というのも、本編のミステリとしてのキモは無数の緻密な手掛かりの網だからだ。全部書いてたら長くなるかネタバレになってしまうので、まあこんな物かなと。

現象面だけ見てみると、今回の事件は前作に比べて華があると思う。前回のサスペンス劇上演中の劇場での殺人の発覚というのも面白い舞台設定ではあるんだけど、なんせ本作では白昼堂々、衆人環視の下で射殺体が発見されるのだ。ドラマチック!凝った見立てとか首切りがある訳ではなくても、この状況設定だけでかなり興奮する。 勿論、状況設定だけでなく、発見後からエラリーの見せるロジックも冴えていて良い。

あと、途中でエラリーが現場検証に自ら赴くんだけど、ここでベルリン市長から贈られた探偵ひみつ道具箱(ツァイス製)みたいなのを取り出す。関係者の一人でエラリーの旧友であるウェストリーと一緒に捜査してるんだけど、ここの二人の掛け合いがアメリカの通販番組みたいで結構ツボに入った。このシーンだけ取り出して映像作品を誰か作って欲しい(エラリー直販!)。

あと、このフレンチ百貨店のサイラス・フレンチ社長は〈悪臭悪習撲滅委員会〉なる組織の重鎮を勤めているんだけど、実はフレンチ一族はもう悪習が蔓延りまくってるということが段々わかってくる。殺されたかみさんの連れ子は実は麻薬常習者であることが発覚して、まあ社長以外ほとんどみんな気付いてる感じだし、ウェストリーや実娘のマリオンによれば、かみさんと取締役の一人が不倫関係にある疑惑があって、別の取締役はヤク中の連れ子を狙ってるし、フレンチ一家っていうよりとんだハレンチ一家じゃねえか。サイラスかわいそうすぎる……。っていうか気付けよ……。

無能の〈民間人〉警察委員長

今回絶好調のエラリーと好対照なのがリチャード警視。っていうかまあ前回も苦悩していたけれど、あれは息子が側にいないよぉ寂しいよぉっていうBL的な苦悩だったのに対し、今回は実務上の悩みだ。最近就任した〈民間人〉の新警察委員長があらゆることに首を突っ込んでは現場をしっちゃかめっちゃかにするのでめっちゃイライラしてるのだ。 この警察委員長は、冒頭でエラリーが披露するささやかな現場特定のロジックすら理解出来ないと周りから思われているらしく、「この場は俺が引き止めるから、お前は先に行けーッ!」とばかりに盾になってエラリーに本命の現場検証に向かわせるリチャード警視。バトル漫画かよ。かっこいいよ。

欲を云えば、もう少しこの警察委員長が謎解きの本筋に関わってくるといいなー、とか、もっと現場を掻き乱してくれたら気が気じゃなくなって面白かったかもしれない。まあ、そうなったら謎解きどころじゃないかもだけど……。

謎解きについて

前回の宣言通り、今回は初読なので推理を組み立てながら読んでみた。

以下、ネタバレを含みます。

私の推理

読みながらとったメモ(の改良版)は末尾に添付したので、それを参照。

恐らく犯人の特定に使えそうな要素は以下の通り:

  • アリバイの問題:犯人は23:30〜09:00の間にアリバイのない者
    • グレイはほぼアリバイがあるといえるが、詳細な時刻は自己申告。
  • 鍵の問題:バーニスが鍵を「紛失」していたことを知らず、自分や親鍵を使う訳に行かなかった者。
    • 夜間鍵ではなく「他の人の鍵」を欲しがったということから、バーニス自身の鍵が必ずしも必要だったのではない。
    • そもそも「自分の鍵を取りにいかせる」という電話をした/させたということは、その時点でバーニスが自分の鍵を持っていないことを知っていたということである。
    • 偽バーニスの声は誰か?夫人が一番血縁的にあり得るが、ずっと家におり、関係者はその時間家にいなかった("誰かが話しかけている")ため除外可能か。
    • マリオンはどうか?女性であり、当該時間外出していた。しかし、「バーニスがいないの事が意外」な反応をしている。
    • 残る女性はゾーン夫人しかいない。或いは裏声(だったらキレる)。
  • 仕事の問題:09:00から10:00の間にすべきことがあった者の中に犯人がいる。
  • 習慣の問題:バーニスの煙草の吸い方や身形へのこだわりを知っていたものは犯人ではない。
    • この事からも、犯人は被害者やバーニスの習慣に詳しくないと思われる。
    • トラスクはバーニスを狙っており、バーニスがヤク中なのも気づいてたくらいだから、除外して良さそう。
    • バーニスの父であるカーモディーも除外していいだろう。
  • 本の問題:ウェスが控えた暗号本が机上に放置されていた
    • 入念に指紋の手入れなどしている犯人であれば、もし本の意味を知っていれば何らかの手を打つはず。それをしていないということは、犯人は本の意味を知らない →スプリンガーは除外

以上を鑑みて、犯人たりうるのは、

  • マーチバンクス
  • ゾーン(夫妻)

電話の声がゾーン夫人と思われること、不倫関係にありある程度家庭の内情を知りえたことから、状況証拠的にゾーン夫妻が黒に近いと思われるが……。ちょっと絞りきれなかった。

エラリーの推理

以下、劇中解決編でエラリーが述べた順番とは前後するけど、エラリーの推理の筋を整理したものを以下に掲げる。

  • 屍体はなぜショーウィンドーに隠したのか?
    • 12時すぎまで確実に屍体の発見を遅らせるため。それまでにしておかなくてはならないことがあった。
    • 店の開店は9時であり、会議は10時からだと犯人は知り得たのだから、普通ならば開店まで身をひそめてすぐに外に出て行けば屍体を移す必要はない。
    • つまり、犯人は九時以降もデパートに残る必要があった。従って犯人はデパートの関係者
  • では「しておかなくてはならないこと」とは何か?
    • 書籍係スプリンガーの暗号本などから、この事件の背後には麻薬組織があることがわかっている。
    • しかも、屍体発見当日の朝にはまだ警察に絡繰りがバレていなかったにも関わらず、取引は中止されている。
    • 従って、誰かが麻薬暗号の絡繰りがバレつつあることを誰かが察知し、連絡を入れたものと思われる。
    • そしてその証拠とは、ウェストリーがアパートメントに不正証拠として確保していた不揃いの暗号本に外ならないだろう。
    • 従って仲間に報せたのはアパートメントにいた犯人である。
    • 犯人がすぐにしなくてはならなかったこととは、正にこの「絡繰りがバレつつある」ことの連絡であったろう。
  • ウェストリーは6週間前からブックエンドに証拠の本を確保していたので、6週間前から犯行以前までの間アパートメントに入り得た人物はもっと以前に気付けた可能性が高く、ほぼ除外出来る
  • また、ぞんざいな帽子や靴の扱い、消えていた剃刀から犯人は少なくとも女性ではないことがわかる。
  • 以上の要素から女性と取締役の面々は容疑圏から除外される。
  • フランス人であり、国内の麻薬組織との接触を持ち得ないラヴリーも除外。
  • ……とやっていっても良いが、エラリーは〈ブックエンドに付着していた指紋検出用の粉末〉に着目し、一気に一人に絞った。
    • 指紋検出粉末のような捜査試料を使うことが出来、なおかつ携帯していても職業上不審ではない人物。また、スプリンガーに直ちに逃げるよう連絡が可能であり、上記のアパートメント入場の条件を満たすもの……それはデパート探偵クラウザーしかいない!

なるほど綺麗な推理。特に前段のアパートメントの立ち入り期間の条件やデパート関係、麻薬組織の関連で人をスッパスッパ斬っていくところはとても気持ち良い。「麻薬組織がもぬけの殻」の描写はサスペンスじゃなくてちゃんと伏線として機能しているのにはもっと気付いてもよかったなあ。悔しい。

しかし後半の「指紋検出粉末」から一気に一人に絞るのは、うーん……ちょっと乱暴?別に探偵じゃなくても良くない?という感じはした。まあ、現代は東急ハンズにでもいけば誰でも指紋検出キットが買えちゃったり大人向け子供科学雑誌に付録でついてきちゃう時代なので、その辺りの感覚のズレなのかもしれない。個人的には前半の削ってくシーンが「消去法のゲーム」と作中では呼ばれてるけど気持ち良くて良いと思う。

女の声は「雇った」というのはまあ、妥当だけど、それでいいのか……と少し思った。それと今回ぼくは取締役の二人を最後容疑者に残しちゃった訳だけど、よく考えたら前日のうちに連絡票が回っている訳で、そうするとアパートメントを殺害現場に選ぶわけないよなあ、と気付いた。あと、後半の方でアリバイ表を作ったんだけど、あんまり役に立たなかった上に、アリバイの言及がない人は外してしまったのでほかの容疑者に対する容疑を抜かしてしまった……。こういう表をつくるのも難しいなあ(探偵二人出て来たら一方は犯人だろうというメタな読みはあったけど)。

あと推理しようと思って読書メモを読み返すと、結構「これはいいだろう」と思った部分の抜けとかがあって苦労する(あ、この伏線メモり忘れてる……とか)。この辺りをしっかりとやるのは、まだまだ鍛錬が必要そうだなあ。

ということで、また次回!

読書メモ

第一話 初動捜査と発見現場検証

第1話

  • 無能な〈民間人〉新警察委員長の悪口。
  • 最近ある事件がエラリーの助言で解決。被害者の靴を犯人が手で動かしていたため、変な足跡がありえない位置についていた。(気付けよ!)

第2章

  • 会議場に電話したマリオン・フレンチが「少し疲れているよう」。後述する前夜のゾーン夫妻との会談が尾を引いているのか?
  • 火曜日11:45、家政婦のホーテネンスがフレンチ夫人とバーニス・カーモディーの行方が知れないことに気付きフレンチ氏に電話するが、社長は取り合わない。

第3章〜第11章 初動捜査

  • 12:15。特別デザイン格納式ベッドのデモンストレーションの際にベッドから二箇所から出血したフレンチ夫人の屍体が現れ、一時騒然。
  • ヴェリー、建物を封鎖して従業員を留めておき、不在の従業員のリストを作成するよう支配人に指示。
  • 現場からは兇器のピストルが見付からず。

第12章 まとめ

  • 夫人の屍体は口紅が引きかけ。遺留品に〈C〉の刻印のある口紅があったが、夫人のものとは色が違っている。
  • 出血のあまりの少なさ、照明器具の不足などから、ショーウィンドウは犯行現場でない可能性が高く、マリオンのスカーフ、引きかけの口紅だったことなどから、被害者は社長アパートメントで化粧中に殺害されたと思われる。
  • なぜ定期的に見回りがきて照明もないショーウィンドウに屍体を移したか?エラリーは二つの推理を開陳する。
    1. 犯行現場を誤認させるため
    2. 実演の始まる12時きっかりまで屍体を隠しておくため
  • 以上の推理を理解する力もない "民間人" 警察委員長が視察に来るので、警視が一階で足止めをしているうちにエラリーとウィーヴァーとでアパートメントへ。
    • アパートメントと一階を繋ぐエレベータには血痕なし
  • 社長アパートメントの鍵の問題:以下の親族+秘書ウィーヴァーしか鍵は持っておらず、それぞれ名前が金のプレートで付されている。それとは別に、親鍵が控室にあり。
    1. サイラス・フレンチ社長
    2. ウィニフレッド・フレンチ(被害者)
    3. マリオン・フレンチ(社長連れ子)
    4. バーニス・カーモディー(被害者連れ子)
    5. ウェストリー・ウィーヴァー(社長秘書)
  • 夫人の遺留品には夫人の鍵はなかった。→犯人が持ち去ったか?
  • 夫人の連れ子、バーニス・カーモディーの行方は杳として知れず。

第2話 アパートメントの捜査(13〜19)

  • アパートメントのドアの特徴:外から鍵を開けて、「押し開け」る。そのまま放置しておくとひとりでに勢いよく締まり、自動的に施錠される。
  • 夫人の引きかけの口紅本体はアパートメントで発見。また、遺留品の色違いの〈C〉口紅はバーニス・カーモディーのものであると各停し、更にめっちゃひねると上物のヘロインが見付かった。
  • ウィーヴァー:浴室の剃刀の刃が一枚なくなっていると証言。昨日の時点で替刃がないことに気付き、最後の一枚は本体に付けっぱなしにしていた筈だったという。
    • 調査結果:剃刀には指紋を拭き取った形跡があり。
  • 遊戯室のカードテーブルでは〈バンク〉で遊んだ形跡があった。ウィーヴァー「関係者では被害者とバーニスしか遊ばない」
    • テーブルの上にはバーニスが特注した煙草の吸殻が根元まで吸い尽された状態で何本かあった。
  • 家政婦による被害者とバーニスの足取りの証言
    • 被害者とバーニスは朝10時起床、着替えた後軽食を摂る。
    • 午後2時過ぎまで二人は音楽室で過ごしていた。出てきたときに被害者はバーニスに二階で着替えるよう命令。セントラルパークに出掛ける予定だった。
    • しかしバーニスは手早く着替えをすませると、母を撒いて買い物に勝手に出かけた。
    • それを聞いた被害者はショックを受け、部屋にこもった。夕食以外はずっと部屋にいて、バーニスが心配で二度電話をかけようとしたがやめた。被害者は23:15ごろ出かけた。
  • 女中と家政婦への質問
    • バーニスの帽子が見付かるが、鍔を下にして入れてあったため形が崩れていた。女中と家政婦はちゃんと鍔を上にして仕舞うようだが、ウェスは下にして仕舞った。
    • バーニスの靴も見付かるが、靴も形が崩れる形で仕舞ってあり、三者とも帽子の場合と同様の仕舞い方をした。
    • 女中と家政婦「バーニスはとても身形に気を使う人だった」 →帽子や靴を仕舞ったのは本人ではない可能性が高い。
    • まだ行方はわかっていないのに、バーニスのことを女中も家政婦も過去形で喋るのが気になる。
    • 家政婦「アパートメントには被害者のものは全てあるけど、バーニスの持ち物である鍔なし灰色トーク帽と踵の低い灰色の子山羊革靴がない」
  • フレンチの机の上にウェスのタイプした会議の連絡票。「手配済み」だということを社長に伝えるために置いておく習慣だという。 エラリー「謎がひとつ解けたよ」→犯人が場所を変える必要性に気付けた理由か?→その通りだった(後述)
  • フレンチの机の上の本は内容も客層もバラバラで読んだ形跡もないし、本棚の本ともそぐわない。関係者にも興味がありそうな人間なし。
  • 社長が二ヶ月前に贈られたブックスタンド二つのうち、一方だけ緑のフェルトがひどく褪色し、接着部分に指紋検出用の粉末が付着していた。
  • pp.230-231:エラリーテレビショッピング。ドイツの警察が御礼に拵えてくれた探偵道具!ほしい!
  • ウィーヴァー「フレンチ家はハレンチ家」

第3話 フレンチ家での捜査(第20〜24話)

  • 月曜は女中がバーニスの部屋を整える暇もなかった。ベッドメイクが終わったら吸殻の処分もさせずに追い出したという。銘柄はアパートメントのものと同じだが、根元まで吸わずにすぐ火を消したものばかり。
    • 本話後半のマリオンの証言「バーニスは煙草をスパスパ吸う性質で、ほんの5、6口だけで潰してしまう」
  • 家政婦の証言:被害者発見の前日、バーニスは鍵を失くしたといって家政婦に合鍵の作成を頼んでいた。しかし、バーニスが出掛けた後の午後三時半から四時ごろ、バーニス自身から「使者を遣るので私の鍵を持たせてくれ。今晩アパートメントに行きたい」と電話がありいぶかしんだ。「親鍵を使ったら」といったが反応捗々しからず。他人の鍵を手に入れてほしそう?電話口で誰かが自称〈バーニス〉に話し掛けている感じがしたが、今思えばそもそもバーニスではなかったのではないかと思う。
    • 失くしたと思っていた鍵は、エラリーが毛皮のコートの内ポケットから発見。エラリーは会う人会う人から鍵を巻き上げていく。
  • フレンチに尋問したが、机上の本は本人の記憶全く違っていた。
  • エラリーによるこれまでのまとめ
    • 犯行現場はアパートメント。アパートメントに証拠が遺されすぎており、隠す気もなさそうなので、ショーウィンドーに屍体を移したのは場所偽装ではなく、発見を一定時間まで遅らせるため。
    • 警備の条件などから、犯人は人目を盗んでデパートに忍び込んだ後、翌火曜朝九時まで館内に留まっていたと思われる。会議連絡票を見て屍体の隠匿を計ったと思われる。
    • ブックスタンドのフェルトは、夫人が机に座った状態で撃たれ、背面に血が付着したためフェルトが付け替えられたことを物語っている。
    • 現場の工作から、犯人はバーニスに罪を被せようとしており、彼女自身も事件に巻き込まれていることがわかる。

第4話 詰めの捜査とアリバイ調べ(第25〜36章)

  • バーニスの足取り(デパート探偵クラウザーの単独調査)
    • バーニスは家を出てからウェストエンド・アヴェニューと72丁目通りの角でタクシーに拾われ、ホテル・アスターまで行って待たせると、立派な身形でスーツケースを持った背の高い金髪男と合流。セントラルパークを突っ切る途中で二人はおり、マサチューセッツナンバーの箱型の濃青色セダンに乗って全速力でアップタウンへ向かったという。
    • 警察が裏取りをするが、この証言以上の結果は得られず。
  • 机上の謎の本の正体が判明
    • 各本の裏見返しの右上隅に年月日が書いてあり、その曜日と著者のラストネームの最初の二文字が一致していた。
    • 日付は日曜を飛ばして八日ごとに進んでおり、六冊目があると仮定すると、それは屍体の発見日に一致する。
    • ウェスの証言「ウェスが書籍部担当スプリンガーの不正経理を調査していたら、残業の企業風土はないのに遅くまで残って、ある棚の本の著者名さいしょ二字に線をひいて、日付と所番地を書き込んでいたのを発見。ウェスはその内容を控えて、複製をしていた。六冊目の本物はウェスが確保し、その後のスプリンガーを尾行したが誰とも会わず帰宅後は一度も出て来なかった」
    • エラリーの推測:麻薬組織の下っ端は曜日が固定されると怪しまれるので、八日ごとにズラして一定の棚の本を買って密売現場の情報を仕入れることになっていたのだろう。こうすれば、スプリンガーと下っ端は顔を知らなくてもいい。
  • ウェスの証言に基づいて取引場所と思しき場所を急襲するが、すでにもぬけの殻。四、五日前に白人が借りたらしいが、屍体発見日の朝11時に何の連絡もないまま突然引き払っていったという。客と思しき白人10人くらいが午後にきたが、閉まっているのをみて帰った。
    • この手入れが失敗して五分後、スプリンガーは急に「気分が悪く」なりデパートから逃走。

アリバイ調べ

  • 概要は別表参照。 f:id:fukyo-murder:20150922204547j:plain
  • 警視:唯一の正規出入口は夫人以外通っていないことがわかり、警備の手薄な搬入口は23:30に閉る。開店は09:00なので、23:30〜09:00にアリバイのないものなら誰でも犯人でありうる。
    • 別表の整理に基づけば、グレイは犯人でない可能性が高い。(但し時刻は自己申告なので微妙;しかし特に補足はないので問題ないか?)
  • 以下、アリバイ以外の詳細
  • マリオンは「ハレンチ家」の真相をゾーンに問い質しにいっていた。ゾーン夫人に脅迫されて退散。
  • ゾーン夫妻は最初マリオンのことを喋らなかった。
  • ヴィンセント・カーモディー(被害者の前夫)は娘のバーニスの行方以外何も興味ない。娘が麻薬常習者であることを知っており、被害者に相談していた。
  • トラスクのアリバイガバガバすぎわろたw バーニスが薬中なのには気付いていた。
  • グレイ「もし麻薬依存に気付いても夫人はフレンチには報告しなかっただろう」 エラリー「それは娘の財産分与分を確保したいから?」 グレイ「まあ彼女は悪い意味じゃなく計算高いから、はい」

解決編について

  • 机上の空論としてサイラスが運転手に偽証させた可能性を検討して見せたのは、厳密さのためでもあるし、同様の理由でグレイを疑う必要のないことをそれとなく示すためだった。
  • 単なる下っ端のスプリンガーがこんなに犯行の詳細を打ち明けられてる訳なくない?ハッタリなんだろうけど。