2015年アイドル楽曲マイベスト20〈シングル編〉
前回に引き続き、今回は今年のアイドル楽曲マイベスト〈シングル編〉です。
一応縛りとして、2015年にシングルとしてリリースされたものの中から、前回の〈アルバム編〉に入れなかったアイドルの楽曲を20曲選び、独断と偏見でランキングにしてみました。
ご託はなしでさっさといきましょう。
続きを読む2015年アイドル楽曲マイベスト10〈アルバム編〉
クリスマスも終わり、今年も残すところあと5日ですね。
年の瀬になると、今年を振り返る的な意味で各所で様々な年間ベスト的なものが発表されるわけですが、小説に関するものだけでもランキング本が乱立していて、Twitterや個人ブログまで含めると到底チェックしきれません。
で、自分でも今年一年を振り返ってみようと思うんですけど、今回はいま書いておかないと触れずに終わってしまいそうな〈2015年楽曲・マイベスト〉……だと広すぎて絞りこめないので、〈2015年アイドル楽曲マイベスト10〉をやりたいと思います。
読んで字のごとく、今年アイドルが発表した楽曲で自分が聴いたものの中から、シングル10曲とアルバム10枚を独断で選び、今年の10曲、今年の10枚として紹介するというベタベタなやつです。
まずはアイドル楽曲〈アルバム編〉から。
続きを読む倒叙はじめて物語! ――2015年・新刊倒叙ミステリ勝手に反省会その1【白樺】
白樺香澄「えーと、きのこのラグースパゲティと半熟卵のミートソースボロニア風、たらこソースシシリー風にほうれん草のクリームスパゲティにキャベツのペペロンチーノ。あっ、全部大盛で。あーもう面倒くさいんでメニューのここからここまで全部お願いします」
一条薫「こんにちはっ。どなたか団体さんと待ち合わせですか?」
白樺「あらら、お久しぶりです。えっと、1年生の一条さん……だっけ」
一条「覚えててくれたんですね!後期クイーン座談会の一発キャラ扱い*1だったのに」
白樺「しかし、あんなことがあってよく帰って来れたね……」
一条「そこはそれ、後期クイーン的設定リブートが行われた事にして下さいよ。JJマックはもう居ないんですよ!」
白樺「まぁ良いけど……それで、今日はどうしたの?」
一条「白樺先輩、私に倒叙ミステリについて講義して下さいっ!」
白樺「また何なの、一体」
一条「私、サークルで友達とケンカしちゃって。その子、2015年の新刊ベストは倒叙もの短編集の『掟上今日子の挑戦状』だって言うんですよ。今年の一位はノーベル平和賞受賞待ったなしの名著『王とサーカス』に決まってるじゃないですか!」
白樺「う、うん……続けて。」
一条「倒叙ものなんて犯人が誰かって驚きもないし、話のバリエーションだって限られてくるし、ぶっちゃけ華がないじゃないですか。そんなのを一位に挙げるなんてどうかしてる、『王とサーカス』の深いメッセージ性が解らない奴は受精から人生やり直した方が良い、って裸に剥いて縛って天井から吊して4時間くらい問い詰めたらその子、泣いちゃって。……ちょっぴり悪いことしちゃったかなと思ったんで、彼女の気持ちを解ってあげたいんです」
白樺「え、何その全盛期の連合赤軍みたいなやつ。一条ちゃんってサイコパスなの?」
一条「ですから先輩! 倒叙ミステリの面白さを教えて欲しいんです!」
*1:ワセミス架空1年生の一条薫ちゃんについてはワセダミステリクラブの同人誌『みすてる7.0』収録「後期クイーンなんて怖くない」を要チェック!(現在入手困難)
【予告】倒叙ミステリ“七つの大罪”とは何か ――2015年・新刊倒叙ミステリ勝手に反省会
聖書など、『刑事コロンボ』のパクリにすぎない。 ヴォルテール
こんばんは!明日はいよいよ第二十一回文学フリマ東京ですね!白樺香澄です。
1ヶ月以上〈刑事コロンボVS日高屋〉をほっぽらかしておいて単発記事です。たぶん前後編。
もうすぐ年末ランキングのシーズンだし、読んだ本の個人的オススメランキングを作ろうかなと思い立ったのですが、嬉しかったことには今年は倒叙ミステリの新刊がすごく多かった!
私が手に取っただけでも、大倉崇裕先生の『福家警部補の追及』に、小島正樹先生の『浜中刑事の妄想と檄運』。円居挽先生の『シャーロック・ノート』も倒叙の色濃い作品でしたし、西尾維新先生が『掟上今日子の挑戦状』で倒叙を書いたのは驚きました。さらに、この文フリのエアミス研さんの新刊が「倒叙ミステリ特集」だったり、倒叙ファンにとってはなんとも嬉しい1年!
…..Just one more thing.
しかし、今年の倒叙新刊を俯瞰すると一つだけ言いたいことが。
読む作品読む作品、なんだか「例のあのネタ」を使ってるパターンがやけに多くありませんでしたか?
具体的に言うとネタバレになってしまうので後に回しますが、上記4作品中3作品が同じネタで被ってて、さらに非倒叙の本格作品でも1例、見つけちゃったんですよ「名前を言ってはいけないあのネタ」を!年4ペースですよ!今年1年だけで松尾詩朗先生の執筆ペースを上回ってるってことだよ!
何が起こった倒叙ミステリ界。ここはコロンバー*1の端くれとして、「倒叙ミステリかくやあらん」と世に問うておいた方が良いのではないか!とはた迷惑な使命感に燃え出した白樺香澄です。(自己紹介)
と言う訳で倒叙ミステリ勝手に反省会。「倒叙ミステリ“七つの大罪”とは何か」スペシャルが、来週からはっじま~るよ~!(たぶん)
遂にエラリー・クィーンを読むぞ 第3回『オランダ靴の秘密』──西洋のミサワと名探偵ジューナのボジョレー・ヌーヴォー
クィーンを頭から読んでいく本シリーズも漸く3本目。なんかだいぶ間が空いてしまった感がありますが、まあそこはそれ。
fukyo-murder.hatenablog.com fukyo-murder.hatenablog.com
と、いう訳で、今回は国名シリーズ第三作『オランダ靴の秘密』。
- 作者: エラリー・クイーン,竹中,越前敏弥,国弘喜美代
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2013/03/23
- メディア: 文庫
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で、前回までは比較的細かくメモを取って読んでたんだけど……ちょっと今回は時間的余裕がなかったので、最初の1/3以外は一気読みにしてしまいました。という訳で、今回は手短に終えたいなと思います。ロジックの良作としての噂は以前から聴いていたので、もう少し精密に読めればよかったのだけど……。次回は『ギリシャ棺』なのでがんばりたい。
あらすじ
大富豪アビゲイル(アビー)・ドールンの設立した病院〈オランダ記念病院*1〉を訪ねるエラリー。医長を務める旧友のジョン・ミンチェンに、捜査上の助言を求めに来たのだ。ミンチェンの医学的なアドヴァイスのお陰でエラリーの抱えていた謎は電話一本で(!)解決。折角なので記念病院の中をミンチェンに案内して貰うことに。
折しも今朝、病院のパトロンであるアビー・ドールンがインスリン注射を忘れたせいで階段から落ちてしまい、昏睡状態のまま緊急手術が行われようとしていた。エラリーはミンチェンに誘われてその手術を見学することになる。執刀医は、アメリカ一の外科医とも呼ばれるフランシス・ジャニー外科部長。ジャニー医師はドールンから昔から息子同然に育てられ、海外留学などの資金援助も貰っており、アビーから多額の遺産が遺される約束にもなっているという。 エラリーらが見学席に就き、アビーが手術室に運び込まれ、手術が今にも始まろうとしていたが……なんと、アビーは細い針金で絞殺されていたのだ!
現場を封鎖させ、警視らを呼び寄せるエラリー。前後の状況から、犯行は控室で行われたものと推定される。 そして、犯行時間の前後に、控室ではジャニー医師と思しき人物が目撃されていたのだ!しかし、ジャニーは犯行時間前後、ちょうどスワンソンと名乗る人物と面会しており、アリバイはあったと主張する。加えて、犯人が遺棄したと思しき制服ズボンと靴が発見され、その靴の特徴がジャニーの歩き方の癖と一致しなかったため、エラリーらは何者かがジャニーに成り済まして犯行に及んだものと推測する。しかし、ジャニーはアリバイを保証する筈のスワンソンの正体について口を割ろうとせず、疑惑は深まる。
時間ばかりが過ぎてゆき、事態が混迷を極める中、スワンソンの正体を明かさせるため、警視は一計を案じる。しかし翌日、思いも掛けない展開が捜査陣を待ち受けていた──!!
感想:国名ー・ヌーヴォー
前書きの部分で「この事件めっちゃ難しかった」みたいなことが書いてあるんだけど、『ローマ』『フランス』にも似たような事が書いてあったし、なんかどんどんインフレが起きてる気がする。ボジョレー・ヌーヴォーかよ。という疑惑があったので、取材班はこれまでの「前書き」での本編への言及について調べてみた:
『ローマ帽子の秘密』
-
- 「エラリーのたぐいまれなる才能が生き生きと発揮された一例である。 *5」
『オランダ靴の秘密』
- 困難をきわめた今回の謎解きにおいて、エラリーはまちがいなく知力を最大限に発揮している。
- 迷宮のごときモンティ・フィールド事件の捜査でも、複雑きわまりないフレンチ殺害事件の捜査でも、これほどの驚くべき知性は必要とされなかった。
- 現実であれ小説のなかであれ、かくも鋭い推理をもって犯罪心理の蒙昧たる深みを探り、悪辣な策略のもつれの糸をほぐした者は、かつてなかったと私は確信している。*6
いったいこの先どうなっちゃうんだ……。番組ではこの問題について今後も継続的に調査する予定です。
渦中の人・ジャニーと西洋のミサワ、クナイゼル
キャラクターの話をしよう。 『ローマ』ほどじゃないけど、警視の躁鬱っぷりというか多重人格っぷりは本作も健在。 最近の若者かよってくらい(狙って)突然キレる。職人技。
あと、今回のキーパーソンであるヨーロッパ系の山師っぽい「天才」冶金学者クナイゼルのキャラが面白い。っていうか怪しすぎる。こいつ、ジャニーの共同研究者でアビーから金貰って共同研究してるんだけど、「科学者だから感情とかないわー 科学者だからなー 死とかどうでもいいわー」っていうっぽい感じのキャラで、エラリーとヨーロッパことわざ合戦みたいなことをして遊んでたと思ったら、変なロジックで「次狙われるの俺だ!!!助けて!!!!」って警視の下に駆け込んできたりする。感情、あるじゃん。西洋のミサワかよ。そんなクナイゼルを見て思うところもあったのか、「僕も一歩間違えたらああなってたのかなぁ……」っていうエラリーもかわいい。
実際問題として、このクナイゼルの合金研究が本当に価値のあるものなのかは不明だけど、そもそもジャニーも天才外科医とはいえ、専門外の合金の研究をパトロンから資金貰って病院内に設備設えてやったりするのかな?この辺り、もの凄い勢いで詐欺に遭ってる臭いがプンプンだ。っていうか合金創るのに重金属とかも使うだろうし、それって病院の中なんかで扱って問題出ないんだろうか……?公害とかに大らかな時代を感じる。
そもそも、ジャニーはこのクナイゼルとの研究以外にも、ミンチェンとアレルギー疾患に関する専門書を執筆している。これはもう超極秘プロジェクトで、存在じたいは知られているんだけど、症例とかの具体的な資料に触れるのはミンチェンとジャニー、それからジャニーの助手・プライス看護婦だけという徹底ぶり。ジャニー働きすぎでしょ。ってか秘密多すぎ。アビーに気に入られてるとはいえ、病院を私物化しすぎているきらいがあるし、そりゃ研究費も打ち切られるってもんですよ。
脇役たちの描写
あと、マスコット的存在であるジューナが本作ではそれまで以上にクローズアップされている。エラリーの推理に突破口を開く助言をした褒美にエラリーから変装キットを貰うんだけど、それでエラリーに「お前は誰だ!いますぐでてけ!」と言わしめるまで見事な変装をしてみせる。ジューナ、お茶目。っていうかエラリー小心すぎる。こういった点も、これまでに比べてキャラクターが活き活きと動いて見えて、小説としての深みが出て来たといえるかもしれない。
ところで本作、合間合間にアビーの娘・ハルダとドールン家の専属弁護士・フィルのカップルの噛み合わない短い会話が三人称視点で入る。フィルはなんか必死にアビーを宥めようとするんだけど凄く逆効果なこといっちゃってそれに気付いてなかったりするので、すごくイライラする。結局この辺りは推理に寄与していない気がするし、そもそも「作中エラリー視点で解ける」前提で挑戦状が挟まれているのがクィーンの革新的な所だという話なので、このシーンはオマケな訳だけど、結局なんだったんだろう。単にカップルにイライラしてくださいね〜〜〜っていう嫌がらせだったんだろうか。勿論、関係者の動きを二人の会話から説明したりはしているんだけど。
着実に成長していくシリーズ
あと、これはネタバレになっちゃうから詳しくはいえないけれど、本作でははじめて二人目の被害者が出る。これは今までの二作にはなかった展開で、それによって全体の展開に緩急がついてよかったと思う。っていうか今までずっと一人の被害者とロジックのみで間を保たせていたのは凄いなあと逆に思う。解説によれば、『オランダ靴』は初期の中ではかなりのベストセラーになったらしいけど、指摘されている病院という舞台の新しさ以外にも、被害者が増えたのも要因の一つじゃないだろうか。人が沢山死ぬとテンションが上がるし。
そして、上で述べたように、僕は本作ではメモをそんなに取れなかった。以下でちょっとだけ詳しく触れるけれど、それでも十分に納得出来るほど本作のロジックは単純でしかし強力なものだった。もちろん、こうした綺麗なロジックの構築手腕は先立つ二作にも十分に認められるけれども、その見せ方は作を追って巧いものになっていっていると思う。
謎解きについて
以下、ネタバレを含みます。
*1:何がどうオランダを記念しているのか最後までよくわからない
*2:『ローマ帽子の秘密』p.17
*3:『ローマ帽子の秘密』p.24
*4:同上
*5:『フランス白粉の秘密』p.22
これ単体ではあんまり事件そのものの困難さの修飾にはなっていない。
しかし、これより前に散々エラリーの非凡さを強調しているので、実質的にその複雑さを強調しているといえる。
*6:以上、いずれも『オランダ靴の秘密』p.10より
対決!刑事コロンボVS日高屋チキチキ10番勝負! 第3試合「二枚のドガの絵」vsW餃子定食(執筆者:白樺)
こんばんは!皆さんご無沙汰しています。白樺香澄です。
締め切り間近の新人賞の原稿をヒィヒィ言いながら書いてるうちに気付けば前回から一ヶ月も空いてしまいましたごめんなさい。
サークルの後輩に「正気なんですか?」と真顔で問われたこの企画も第3試合!
BS-TBSさんでの再放送がいよいよ始まり、
「二枚のドガの絵」は屈指の人気作だし、せっかくならBSでの放送に合わせて更新してTBSさんに大いに感謝されよう。そして次回の情熱大陸で白樺香澄ちゃんを取り上げてもらおうと思っているうちに、あら、もう『二枚のドガの絵』は放送されちゃったんですか、そうですか。しょんぼり。
……気を取り直してさっそく注文。「W餃子定食」(620円)がやってきました!
壮観です。熱々を一口でほおばるには勇気が要るビッグな餃子が12個!
おまけの小皿をキムチか唐揚げから選べるのですが、今回は「よりカロリー!」「より肉!」という私の人生の基本方針から迷わず唐揚げをチョイス。
ちょっと「解る人」ぶってみて、まずはメインの餃子をお醤油付けずに一口。
カリカリの焼き目がついた、もっちりと厚い皮の食感は文句なし。
中の具はおうちで作る餃子なんかに比べると少し淋しいかな?
でも、噛みしめると肉汁のコクと、キャベツ&ネギの甘みが濃厚なスープになって口いっぱいに広がります!これは美味しい!
少し冷めるとパリパリ感はなくなっちゃうものの、かわりに皮が具の脂とスープを吸ってもっちもちになり、味わいが変わってこれまたグッド!
中華屋さんぽい「皮が美味しい餃子」になるのです。
なるほどこれが、“ちょい飲み”ユーザーからも評判の高い日高屋さんの餃子なんですね!
……これを書いてる間にも、思い出して食べに行きたくなっちゃいます。
続きを読む
遂にエラリー・クィーンを読むぞ 第2回『フランス白粉の秘密』──華のある殺人、あと飛行機に乗る時は不味い日本酒に気を付けよう
まえせつ
エラリー・クィーンを読むぞという趣旨のこの連載も遂に二回目。前回の公開から大分時間がたってしまいそろそろ二日坊主の噂も立ち始めて16日目の事、漸く公開です!
fukyo-murder.hatenablog.com fukyo-murder.hatenablog.com
という訳で、今回採り上げるのは『フランス白粉の秘密』。
- 作者: エラリー・クイーン,越前敏弥,下村純子
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2012/12/25
- メディア: 文庫
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実際には、第一回分を書いた帰りの飛行機から読みはじめて、メモも書き進めていたからすぐ公開出来る筈だったんだけど、ちょっと予定が狂った。というのも、帰りの機上で日本酒を呑んでしまったのだ。幼い頃以来はじめての海外旅行、それも単独渡航だったのでテンションが上がっていたのもあるし、また伝説的なパズル作家・芦ヶ原伸之氏のコラムで読んだ「日本酒の事を英語圏の人間は Sakeと書いて〈サーキー〉と呼ぶ」という知識を試してみたかったのもあった。 あと、最近の発見として酩酊状態でミステリを読むと存在しない伏線と存在しない推理が存在しない行間から湯水のように溢れ出してくるというものがあって、この過程を書き留めてみたかったというのがあった(何もクィーンでそれをやらなくても……という感じだ)。
でまあそういう訳で飛行機で飲酒しながら読む予定だったんだけど……まあ飛行機で呑める日本酒の質というのは高が知れていて、また機体は小刻みに揺れるという訳で、すっかり悪酔いしてしまってこの試みは見事潰えることとなってしまったのであった。皆さんも飛行機で日本酒を呑む際にはくれぐれも御用心を。
閑話休題。作品の話をしましょ。
あらすじ:華のある事件
19XX年のニューヨーク五番街のデパート、フレンチ百貨店。この大型百貨店のショーウィンドウでは、今まさにフランス人家具デザイナー、ポール・ラヴリー(not ヴァレリー)の設計による最新式の収納型ベッドのデモンストレーションが行われようとしていた。そして正午、係の女性がボタンを押すと──迫り出してきたベッドと共に、銃弾を打ち込まれた女性の屍体が現れた! 女性はフレンチ百貨店社長夫人であることがすぐに判明。遺留品からは継子のスカーフと、時を前後して失踪した連れ子・バーニスの持ち物が発見される。次々と明らかになるフレンチ家の事実。無能な〈民間人〉警察委員長のおもりはリチャード警視に任せて、エラリーが導き出した真相とは!?
……とまあ、あらすじを纏めてみるとこんなに短かくなってしまう。というのも、本編のミステリとしてのキモは無数の緻密な手掛かりの網だからだ。全部書いてたら長くなるかネタバレになってしまうので、まあこんな物かなと。
現象面だけ見てみると、今回の事件は前作に比べて華があると思う。前回のサスペンス劇上演中の劇場での殺人の発覚というのも面白い舞台設定ではあるんだけど、なんせ本作では白昼堂々、衆人環視の下で射殺体が発見されるのだ。ドラマチック!凝った見立てとか首切りがある訳ではなくても、この状況設定だけでかなり興奮する。 勿論、状況設定だけでなく、発見後からエラリーの見せるロジックも冴えていて良い。
あと、途中でエラリーが現場検証に自ら赴くんだけど、ここでベルリン市長から贈られた探偵ひみつ道具箱(ツァイス製)みたいなのを取り出す。関係者の一人でエラリーの旧友であるウェストリーと一緒に捜査してるんだけど、ここの二人の掛け合いがアメリカの通販番組みたいで結構ツボに入った。このシーンだけ取り出して映像作品を誰か作って欲しい(エラリー直販!)。
あと、このフレンチ百貨店のサイラス・フレンチ社長は〈悪臭悪習撲滅委員会〉なる組織の重鎮を勤めているんだけど、実はフレンチ一族はもう悪習が蔓延りまくってるということが段々わかってくる。殺されたかみさんの連れ子は実は麻薬常習者であることが発覚して、まあ社長以外ほとんどみんな気付いてる感じだし、ウェストリーや実娘のマリオンによれば、かみさんと取締役の一人が不倫関係にある疑惑があって、別の取締役はヤク中の連れ子を狙ってるし、フレンチ一家っていうよりとんだハレンチ一家じゃねえか。サイラスかわいそうすぎる……。っていうか気付けよ……。
無能の〈民間人〉警察委員長
今回絶好調のエラリーと好対照なのがリチャード警視。っていうかまあ前回も苦悩していたけれど、あれは息子が側にいないよぉ寂しいよぉっていうBL的な苦悩だったのに対し、今回は実務上の悩みだ。最近就任した〈民間人〉の新警察委員長があらゆることに首を突っ込んでは現場をしっちゃかめっちゃかにするのでめっちゃイライラしてるのだ。 この警察委員長は、冒頭でエラリーが披露するささやかな現場特定のロジックすら理解出来ないと周りから思われているらしく、「この場は俺が引き止めるから、お前は先に行けーッ!」とばかりに盾になってエラリーに本命の現場検証に向かわせるリチャード警視。バトル漫画かよ。かっこいいよ。
欲を云えば、もう少しこの警察委員長が謎解きの本筋に関わってくるといいなー、とか、もっと現場を掻き乱してくれたら気が気じゃなくなって面白かったかもしれない。まあ、そうなったら謎解きどころじゃないかもだけど……。
謎解きについて
前回の宣言通り、今回は初読なので推理を組み立てながら読んでみた。
以下、ネタバレを含みます。
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