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風狂奇談倶楽部の活動記録や雑考など

魔王ベリト閣下でもわかる『胎界主』読書会 第二回——初見殺しの第1話「使い魔」を読もう

 はじめに

独特の世界設定と入り組んだ伏線でカルト的な人気を誇る尾籠憲一(旧・鮒寿司)先生・作のWeb漫画『胎界主』。

三部構成のうち、現在は第二部が完結し、本編とは独立した短編が連載されています。

2020年連載開始予定の第三部を控え、新たな情報も出て来たこのタイミングで胎界主にチャレンジ!ということで、『風狂通信 Vol.5.5』に掲載した、特殊ルール本格ミステリとしての側面に光を当て、都内某所で開催された『胎界主』入門読書会記事数回に分け特別転載

連載目次

基本的には、今回は第1部第1話を、第三回で第19話と第12話を扱う予定です。前回は『胎界主』の全体の概観を与える概説でしたが、番外編として、読書会の際に用いたレジュメも公開予定!第一回の内容と大きく被るところがありますが、時系列はレジュメの方がハッキリしているので、合わせてお読み下さい。

  •  第一回 『胎界主』ってこんな話

  • 番外編 読書会レジュメ(適宜御参照の事)

  • 第二回 第1部第1話「使い魔」(今回)
  • 第三回 第19話「絶対失敗神獣グレムリン」/第12話「運ぶ力」/おわりに

参加者(読んでいる順)

  • 彩菱:主催者。ミステリ読みに『胎界主』を布教しようと目論む。
  • 伏見:2部まで読了。読んでいる勢として呼ばれた。
  • 秋好:第3話まで読んだ。
  • 荒岸:第1話でリタイア。理不尽な先輩に拉致された。
  • 白樺:未読。彩菱がTLで話題にしているのだけ知っている。
  • 五月:未読。名前とTwitterで流れてくるキャラ画像だけ知っている。 

前回はこちら 

 

※以下本編のネタバレを含みます。各行左に示されたページと対照しながらお読み頂くことをお勧めします。

第一話「使い魔」

http://taikaisyu.com/01/06.jpg

彩菱 では何話か見ていきましょうか。

一同 いえーい!

秋好 一話が一番意味がわからない。

白樺 我々初読でどれだけわかるか見てみましょうか。

彩菱 (プロジェクタに本編を投影する)これ、DLSite で売ってる高画質有料版です*1

白樺 綺麗な奴売ってるんだ!

彩菱 では、第一部「アカーシャ球体」第一話「使い魔」読んで行きましょう。

本文
0001,
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彩菱 「見るがいい、それが真実だ──」これはまあ、意味深な伏線ですね。これ、主人公・稀男の若い頃……というか赤ちゃんの頃です。

白樺 まあそうだろうね。こういうのは主人公かラスボスの子供の時だよね。こうやって始まったら、バットマンかペンギンだよ。

バットマン ビギンズ (字幕版)
 
1

彩菱 四葉のクローバーをかざすとグニャ〜って変な顔になる。何故かというと、稀男は純粋な人間じゃなくてバンシーとの混血で、しかも〈ニス〉と呼ばれる出来損ないなんですね。

秋好 バンシーってなんだっけ?

彩菱 〈ロックヘイム〉に住んでいる妖精の一種です。実際に、ヨーロッパでは「バンシーの啜り泣きが聞こえると誰かが死ぬ」っていう伝承があります。

白樺 聞いたことある気がする。

彩菱 稀男は赤ちゃんの時に妖精とすり替えられた、いわゆる〈取り替えっこチェンジリング〉ってやつですね。

秋好 これは何処なの?

彩菱 これは稀男が生まれたばっかりの時の、鮒界市です。

白樺 現代日本じゃないの?

彩菱 作者の尾籠先生は懐古趣味があって、一万円札が聖徳太子だったりするので、そういうもんだと思っといてください。基本的に稀男たちが活躍しているのは現代ですが、これはその十年ちょっと前、くらいに思っといてください。

伏見 昭和80年、みたいな。

彩菱 そうそう。絶対に平成って言わない。『さよなら絶望先生』みたいな感じ。

白樺 大正九十何年みたいな。

秋好 こんなの商業誌だったら「わかりにくすぎるよ」って言われちゃうよね。

2

彩菱 で、赤子稀男が握ったクローバーに重なる形で、現代になりました。稀男はいま飯を喰いにレストランに向かってますが……不穏ですね。店主は気絶させられてるし、ヤバいヤクザの兄貴分みたいな奴が目隠ししてナイフでトントンってやってる!

3

彩菱 「町田さん!幾ら私でも庇い切れないよ!」……っていってる時点で幾つか説明が必要なんですけど。

白樺 大丈夫?これ初見で読んだら何も説明ないんでしょ。

彩菱 「お嬢さん、町田はもう久松組のモンじゃねえ、連合の枝なんだ」──これ、連合っていうのは、悪魔の支配下にあるヤクザ組織です。

白樺 うんうんわかるよ。久松組が一番下で、その上に連合があるんだなっていう雰囲気は伝わってくる。

彩菱 いや、実は違います。久松組は悪魔に喧嘩売ってる東郷家の配下で、町田は敵対するところに身売りしようとしてるんですね。で、わかりづらいんですが、「町田はもう久松組のモンじゃねえ」つってる横にいるこの澄ました顔の男──実はこいつ町田じゃないんですね。

五月 町田じゃないの!?

彩菱 違います。「町田は久松組のモンじゃねえ」っていってる人が町田です。

五月 ……えー!?

    一同、騒然

彩菱 初見殺しその一「町田の一人称が町田」。界隈では「町田トラップ」として、とみに有名です。

    一同、爆笑

白樺 マジか、そんな叙述トリック仕込まれてるの!?

五月 どうみてもあのトントントントンの人が町田でしょ!

彩菱 このトントントントンの人は、連合からヘッドハンティングに来てるヤバい奴。この「幾ら私でも庇いきれないよ」っていってるのは久松組の若頭の娘なんですね。

白樺 多少庇える立場にいる人なんだ。

彩菱 でもこんなことされたらもう庇い切れない。で、このチリンチリ〜ンっていうのは稀男が入ってきた音ですね。「連合行きゃあ町田は『幹』になれるんだよォ!」

五月 これが町田……

彩菱 自分のことです、これ。

白樺 すげえなじゃあ、トントントントンってしたひとは、町田でもなければ主人公でもないんだ……。ゾッとするよ。

彩菱 違うんです、何でもないです(笑)この町田じゃない人が「チッ町田、追っ払ってこい」って言って、町田の一人称が町田ということを知らないと、エッ町田って誰なの!?となるという……

秋好 そういうことか……

彩菱 「亡くし屋だ……」

白樺 この「亡くし屋」っていうのが、さっきいってた奴ね。

五月 いのちの緒の能力だ。

白樺 「若頭は来やあせん!」……若頭でもないんだこの白いやつ……ゾッとするよ……

伏見 誰でもない。

4

彩菱 「それとも俺が『アンダルシアの犬』観せてやろうか」ヤクザが『アンダルシアの犬』引用するわけですね。

伏見 「アンダルシアの犬」って何ですか。最後美術館で死ぬ奴ですか?

白樺 それフランダースの犬

五月 よくわかるね!?

白樺 ちょっと考えちった。っていうかアレ教会だから、美術館じゃないから。……映画だっけ?

秋好 シュルレアリスム映画ですね。

白樺 目を剃刀で切るシーンが有名ですよね。

五月 あれ観てるとめっちゃウエーッってなる。

フランダースの犬: 徳間アニメ絵本36

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彩菱 「助けて……」実はこの台詞、めっちゃ重要です。稀男は「助けて」って言われるとどんな奴でも助けないといけないんです。

五月 助け「ないといけない」?

彩菱 彼は自我があやふやなので、「助けて」っていわれたら相手を助ける「人を助ける者」というのを、仮の自我の礎に置いてるんです。

白樺 で、で、その後?

彩菱 そのあと指をサッとやる。「毒か?毒針だな?」とかいってる内に……

5

五月 「コトリ」……

秋好 早いよ!

白樺 え、死んじゃったの?タンタンタンタンの人死んじゃったの!?

彩菱 タンタンタンタンの人死にました

伏見 タンタンタンタンの人なんだったんですかね結局。

五月 ヘッドハンティング屋さん……?

彩菱 と、僕は思っています

五月 「僕は思っています」って!

一同 (笑)

秋好 説明はないの?

彩菱 ない(笑)

白樺 二部が終わってもこの人が誰だったかは誰も教えてくれないの!?

彩菱 たぶん連合の偉いひとなんだと思います、このひとは。

白樺 若頭ほどではないけど偉いひとなんだ。

彩菱 で、地元ヤクザへの挑発的な意味で幹部の娘の手をトントントントンやってたわけですね。

伏見 地元ヤクザは娘の手トントントントンやられてビビるんですか?

一同 (笑)

白樺 「こいつすげえなあ」で終わりだよ(笑)

彩菱 「俺達には出来ねえなあ」つって。

伏見 近所の高校生のお兄ちゃんがヨーヨーで技出すようなもんですよ。

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彩菱 ヨーヨーの世界観はちょっとよくわかりませんが(笑)、触りもせずに亡くしてしまったと。

白樺 なんでこのコトリって死ぬところだけさいとう・たかおプロみたいなの(笑)でもいいね、面白い。

彩菱 で、「火曜のオヤツはこの店と決まっている」といってオヤツを食べるわけですね。

白樺 コブラみたい。

ゴルゴ13

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6

彩菱 (ページを捲って)「第一部 アカーシャ球体」!

白樺 いやあすごかったな。

秋好 この時点でまだ誰が主人公よくかわからないという。

彩菱 そう(笑)

白樺 いやでも怖かった……町田の一人称が町田って……。震え上がったよ!

    一同、爆笑

白樺 まさかトントントントンやってる奴が、町田でも主人公でもなく三ページで死ぬと思わなかったもん。凄い漫画だなこれ……

彩菱 ほんとビックリ。一話目が初読キラーなんですよ。

秋好 最初のボスっぽいもんね。『ONE PIECE』でいうアルビダさんみたいな。

五月 たしかに。

白樺 そうそうそう。バギーくらいの奴だろうなって思うもん。

彩菱 すぐ死んじゃうんですね、ところが。

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7

彩菱 ところかわって。子供がなんか悪魔呼ぼうとしている話ですね。

白樺 なんで?厨二

五月 厨二厨二。

彩菱 「出でよ魔王……ベリト」

8

白樺 「ジャムジャムジャムジャム」って来るの?(笑)

彩菱 ジャムジャムって来ます。

9

彩菱 で、テストの点数が上がって喜んでますね。この子は嬉しくなると「オゲーェ!」って言います。

白樺 え、この人重要なキャラなの

五月 小学生だよね?

彩菱 作中ではこの頃小学生です。初期の頃はよく話を持ち込んでくる。

白樺 てっきり、こいつの召喚したのが悪い奴で、殺されておわりなのかと思った。意外とずっと出て来るんだ。

彩菱 「どったの?元気ないね」「戸的とまとクン……」

白樺 あ、この子トマト君っていうんだ。

彩菱 〈トマト実る君〉っていいます。

五月 かわいい小学生。

彩菱 「頼む!フォイゾンが切れかけているのだ」地獄の扉とか云々いってますけど、何の説明もないですね、はい。「じゃ、生き餌買ってくるよ!」

五月 トマト君全然事の重大さわかってない……!

秋好 「共感を掛けた」とか「強い願いを〜」とか、これはどういう意味?

彩菱 これはですね、悪魔っていうのは、基本的に胎界主に直接手を出しちゃいけないんです。契約するのはいいけど。

白樺 トマト君は胎界主なんですか?

彩菱 よくわかんない。かもしれない。

伏見 諸説ある。

白樺 いずれにせよ、召喚したやつにはあんま酷いことしないんだ。

彩菱 そうそう。だからこれから契約を迫るんだけど。「地獄の扉が開いた〜」っていうのは、人間は最初無垢な状態なんだけど、人を殺したり悪事を働いていくと、たましいの〈地獄の扉〉が段々開いていくんですね。で、完全に開き切った悪人は悪魔がフォイゾンを吸って栄養にして殺しちゃってもいい。

白樺 ははーん。悪魔は人食べるんだけど、食べるのは悪いやつじゃないと駄目だよって決まりがあるってことね。で、食べないとこの〈フォイゾン〉が切れて死んじゃうわけね。

10

彩菱 そう。(ページを捲る)「あんの死にかけのジジイがか?」はい、町田とぶつかって町田来ました。

秋好 これが町田か。

彩菱 さっき殺されずに逃げました。

白樺 「あんの死にかけジジイ」って何?

彩菱 ベリトの事です。

白樺 あ、知ってるんだ町田さんは。

彩菱 いや、知らない。外でぶつかって、「あんだてめえ?」「で、でも願いを叶えてくれる人がいるから!」みたいな感じでトマト君が連れてきたんですね。

秋好 そのくだりが省略されてるのか……。もういきなりここに来てるのね。

五月 時間経過がさっきのページからどれだけあったかわかんない……

彩菱 わかんないよねえ……。九頁で「生き餌買ってくるよ」って出てったら、バーン!って町田とぶつかったんですね。

五月 それで「凄いやつがいるから!」って町田を連れてきたんだ。

白樺 町田もよくそれ信じてここに来たもんだよ。何を信じたんだ……

彩菱 で、町田の「逃亡」と「コイン」という願いを読み取ったベリトが、まず黄金を出す。神秘学ではベリトは黄金を司る悪魔だったりするみたいですね。

五月 指を掲げてるのがベリトの全体像?初めてでてきた。

白樺 なるほどね。町田は「久松組から逃げてえよ」つってここに来たわけね。

五月 あと「コイン」。

彩菱 お金が欲しい。じゃあお金はワシの力で黄金をやろうと。逃亡は「誰も追ってはゆけぬ世界」ということで、地獄に落とされてます。だから願いは叶えてるわけですね。

秋好 組からは逃亡できたもんね(笑)

11

白樺 星新一でよくあるやつ。

彩菱 で、お腹もいっぱいになって元気になったから、契約を迫るわけですね。

12

彩菱 それで使えんつって殺すのかと思いきや、「これ以上はベリアル派の目を引くし……」「標的の胎界主は少々手強い」といって一旦助ける。

秋好 ベリアル派、さっき説明で出て来たやつだ。

伏見 この辺初見だと「ベリアル派」とか「胎界主」とか全然知らない

彩菱 本当に。一方このベリトはベール派の末席も末席の魔王です。

白樺 そういえば自分で言ってたね「七二魔王の末席を飾る九頁」とか。

彩菱 そうそう。だから、注意深く読めば、何か派閥対立があるっぽいことはわかる。で、この「標的の胎界主」っていうのは稀男のことです。ここで「他の胎界主を身代りにしろ」って言ってるので、もしかしたらこのトマト君も胎界主なのかもしれない……けど実際のところはわからないなあ。

白樺 でもそうか。「来るや来ないやは魔物の勝手七頁」って言ってるし、呼べたって事は胎界主なのかな。

彩菱 いや、そこが難しいところで。この世界は言葉の力がかなり強いから、魔術が出来ればあるていど呼べる可能性があって。だからあくまでベリトの気が向いたから来たということしかわからない。

秋好 で、たまたま多分胎界主じゃないかっていうことね。

13

彩菱 です。で、トマト家に戻りました。

秋好 戻るも何も……

彩菱 で、何やら相談をしている。この眼鏡の男子生徒は「皆本世和志みなもとせわし」っていう酷い名前の登場人物です。

秋好 セワシ君じゃん。『ドラえもん』の。

彩菱 セワシ君です。彼は高校のSF研究会の会長です。

白樺 セワシ君は眼鏡掛けてなかったけどね。

秋好 そうか。トマト君の家庭教師をやっていたけど、悪魔のせいで百点とっちゃったから。

五月 仕事がなくなっちゃったし悪魔を倒す、みたいな。

彩菱 あいつ百点取れるほど頭よくなかったよな……ああ悪魔のせいだったのか、って納得したんです。

白樺 いいよ、こういう在野の秀才みたいなキャラ好きだよ。

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彩菱 次に行きましょう。ベリトがアカーシャ球体がどうとか滔々と説明してるけど、「魔王様に物理攻撃なんか効果ないって言いたいんですね」って理解出来るくらいにはセワシ君は頭がいい

秋好 ちゃんと説明して欲しいところを説明してくれる!で、アカーシャ球体ってなに?

彩菱 アカーシャ球体っていうのは、世界を含む万物を構成していて、生物の回りを取り巻いている、謎のオカルト球体です。ベリトの指先から出てきたやつ。実は、東郷の力の源もこれです。

15 彩菱 「世界の所有者になること」典型的なフラグをしゃべりましたね。
16

五月 「これは胎界主ではない!」胎界主を連れて来いっていわれたけど、そうじゃなかったんだ。

彩菱 です。一応説明すると、彼の見てる世界において所有者になっている幻影を見せられているので、屁理屈だけど「世界の所有者になる」っていう願いは叶えられてるわけですね。

白樺 星新一のやつだ。悪魔が何万人単位でエキストラやってて、そいつが偉い、みたいな演技してるやつあったよね。

彩菱 ありそう。SF研会長のくせに星新一を読んでいなかったわけですね(笑)

秋好 セワシくんはどうなっちゃったんですか、これ?

彩菱 地獄の穴に落とされちゃいました。

秋好 あれ、じゃあSF研究会の会長っていう情報はどこで……?

彩菱 あ、実はこのあとまたちょくちょく出てきます、彼(笑)

一同 (笑)

彩菱 で、ピャーッて走ってったら知り合いのお姉さんとぶつかって、ハッ「強い願いを持つものとぶつかるから……」

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五月 ああ、生き餌を取ってくる〜の時に「肩に共感を掛けた(九頁)」って……

彩菱 これも、フレイザー金枝篇』からの引用ですね。「共感の法則」。

初版 金枝篇〈上〉 (ちくま学芸文庫)

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白樺 ああ、だから町田さんも最初肩にぶつかったわけね。「やっべ逃げなきゃ」っていう強い願いがあったから。

彩菱 そうそう。「強い願いをもつ」っていう、似た者同士だから引かれあって、ぶつかった。

白樺 せめてそこでぶつかってる描写をしといてくれれば……

彩菱 ね(笑)そのあとまたこうやってぶつかるんだから。

白樺 セワシくんは衝突してないから違うって描写をちゃんとして欲しかったね。

彩菱 あくまでただ相談しただけだから違ったわけです。……で話を戻すと……「ノドの手術は……」

白樺 ああ、この人は喉が使えないからフリップ芸をやってる人なんだ。

彩菱 というわけでいますね、ここに!強い願いをもつ人が!で、連れてきたわけです。

4

彩菱 「でかしたぞトマト君!彼女は胎界主だ」

白樺 トマト君カスなの?すぐ人を売る。

五月 人が死んでもそんな堪えない……

彩菱 ここで「胎界主っていったい何なの?」って訊いてるけど、なにも答えてくれてないですね。「では引き換えに十二年間の服従を誓ってもらおう」

白樺 願いは叶うけど十二年間服従してほしい、っていって「それでいいよ」って答えたんだ。どう絶対服従するって話もないのに、こいつもどうなんだ……

彩菱 やっぱり「通訳になりたい」っていう夢がとても強かったってことですね。「ワシは今まで真実しか口にした覚えはないぞ」まあ、詭弁ですね。後の台詞で出て来ますが、悪魔は絶対に嘘をつけないっていう禁忌がある。……まあ、実は一人だけ例外がいるんですけど。

19

彩菱 「フルメタルジャケットハートマン軍曹の行進号令だね」こいつ何歳なんだよ

一同 (笑)

秋好 トマト君、やばい奴ですね。

彩菱 トマト君はナチュラルにやばいです。で、ベリトはここで握手をしてなくて、実はこれには呪術的な意味があったりするんですが、それはさておき。「おろ?皆本部長……」ここで部長だってことがわかりますね。

秋好 お姉さんもSF研の人だったんだ。

白樺 SF研キャラ立ってる人多いなあ。

彩菱 「お姉さんに何を……胎界主ってなんなの?」「『言葉の力』と「誓約」に基づき君は自由だ」

秋好 全然説明してくれない。

彩菱 全然説明してくれないんですこいつ!(笑)眼中にないんです。

白樺 トマト君はもう他の人を紹介して用済みだもんね。

彩菱 ここまでだと、トマト君が主人公だと思ってたって人が結構います。

秋好 僕もそうだと思ってました。

白樺 ここまで生き残ってるっていうことは主人公じゃないの?

彩菱 準レギュラーです。

20

彩菱 嘘については、ここで言ってますね「なぜ魔王様方が「誓約」を重んじ決して嘘偽りを申されないのか…禁忌だからじゃよ」。こいつはさっきの召喚の手続き書を売ってくれた自称占い師の妖精なんですね。

秋好 そういう設定だったのか……

白樺 さっきの「魔王ヨビダ〜ス」を(笑)

彩菱 こいつは「レプラコーン」っていう名前の妖精です。

白樺 レプラコーン……?

彩菱 レプラコーンっていうのは、西洋の妖精の種族名なんだけど、ここでは彼の固有名になっています。「嘘の使用は回避した以上の禍いをもたらす」っていうのは大事な話で、言葉が力を持つ呪術的世界観だということが説明されてます。

白樺 バタフライエフェクト的な。何かを歪ませると、その分もっと影響があるよっていう。世にも奇妙な物語で見た奴。

彩菱 そうそう。嘘をつくとが巡り巡って自分に返ってくるっていう。

秋好 下の説明がよくわからないんだけど。「ベリトじゃない」云々。

彩菱 これは、召喚術を教える時、「バルバトス閣下を呼べ」って言ったのに、トマト君はなぜか敵対派閥に属するベリトを呼んじゃったんですね。だからなにか干渉があったんじゃないか、っていう。

白樺 ベリトって呼ばせよう、っていう。

彩菱 そうそう。ここまで注意深く読むと、悪魔が派閥抗争をしていることがわかるようにはなってますね。

白樺 そうだね。さっきベリトさんも何々派って言ってたし、少なくとも二つの対立する派閥があることはわかるね。

伏見 バルバトス閣下は何派なんですか。

彩菱 多分、メフィストの配下なので、ベリアル派だったと思います。

白樺 ベリトさんもそんなこと言ってた気がする。「これ以上の直接行動はベリアル派の目を引く(11頁)」って。

彩菱 「五千円返せ!」あの魔道書、五千円もしたんですね。

秋好 でも、五千円で買えるんだ(笑)

彩菱 小学生にとって五千円は大金だから。とはいえ、彼はかなりいいところの坊ちゃんです。

白樺 確かに、彼の家けっこう大きかったもんね。この歳で家庭教師ついてるし。

21

彩菱 (めくる)ところ変わって鮒界市立公園墓地。やっと主人公の稀男が出てきます。ここ、片目つぶっていのちの緒を見てるんです。緒が縮んでないからこいつ本当は死ぬ気ないな、ってやってる。

秋好 え?どういうこと?

彩菱 トマト君がいきなり来て「話聞いてくれないと死ぬぞ」って……

白樺 そのシーンどこにあった……?

22

彩菱 ないけど、(めくる)ここを読むに、レプラが「この本を持って稀男のところに行けばなんとかしてくれるよ」って言ったっぽい。──でアドバイスくらいしてやる、と完全自殺マニュアルを手渡した。

完全自殺マニュアル

完全自殺マニュアル

 

秋好 そのシーンを描いてほしい。

白樺 せめて「僕を助けてよ!」って言ってるシーンくらい描いて欲しかった

五月 レプラが本を渡すところとかね。

秋好 何で間を省いちゃうのか。

伏見 全部倒置法でしか喋れない。

白樺 あれじゃない?魔王にとられてんじゃない、間の一ページくらい

一同 (笑)

彩菱 で、この禍々しい本を読んだ稀男が、なんやかんや説明するんですね、この間に。「本当にそんなこと書いてんの?」「閉じろ閉じろ」「そんなこと信じられないよ」「この本によればだな……」この流れ、ひどいでしょ(笑)

白樺 あ、シーンの間になんか重要な話してるんだ……

彩菱 そうそう。これ話としては「どうやってベリトを追い返すか」っていうことを相談してます。

白樺 はあはあ。「この本によればこうこうこうだよ」「どこに書いてんのこの本白紙じゃん」「あー開くなこの本頭ガンガンするから」って……

五月 白紙なのにちゃんと読める……?

伏見 これはネクロノミコン的なもので、強い力がないと読めないんですよ。

ラヴクラフト全集 (1) (創元推理文庫 (523‐1))

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五月 強いパワーが必要なんだ。

彩菱 読むと世界観が広がり、世界観が広がると次のページを読むことができる、っていうような感じです。

白樺 そういう本があるっていうのは全然いいんだけど、「そんなのどこに書いてんの」の「そんなの」が俺たちにもわからないのどういうことなんだよ(笑)

彩菱 その説明がこれから入ります。「この本によればだな……」

秋好 説明の順番がおかしいよね……

23

彩菱 (めくる)ここでアカーシャ球体がどう、という話をしていますが、結局ベリトはトマト君の想像力によって召喚されて初めてああいう形を取っている、と。

五月 ひとりでに来たわけではない。

伏見 ベリトはもともとああいう形なのではなくて、人間の頭の中にあるイメージに宿って現れてるんです。

白樺 「悪魔ってこうなんだろうな」っていうミームによって、ってことか。

伏見 白石晃士監督みたいな。

白樺 『貞子 vs 伽椰子』もそういう話だったもんね(笑)

貞子vs伽椰子

貞子vs伽椰子

 

彩菱 本当にそうで、この〈悪魔〉はキリスト教的な悪魔ではないっていうのが、後で言及されます。キリスト教的「悪魔」像に仮託してこの世に現れる、ヤバい能力を持った化物なんです。

白樺 確か『ももへの手紙』もそういう話だったな。最初に会った人にとって一番馴染みのある姿にならないと、妖怪たちは存在は姿を現せない、っていう。

ももへの手紙

ももへの手紙

 

彩菱 「大昔から人々の〜」っていうのも正にそういうミームの話です。だから「僕が還れって命じれば還っちゃうのか……」に繋がる。

白樺 でも「ソロモンの六芒星」を床に描いてその中に誘い込めつってんのか。悪魔も馬鹿じゃないんだから……(笑)

彩菱 そう!それをどうやるか?っていうのがこっから先の話です。

白樺 そういう事だよね。面白そう。

24

彩菱 ここで稀男は助けず帰そうとするんだけど、「助けてくれないの?」って。

五月 「助けて」にこだわりがあるから……

彩菱 言われたら助けてしまうんです。冒頭でも、娘に「助けて」って言われてる。

秋好 その「助けて」ルール、いつごろわかるの?

彩菱 第一部第一期が終わる頃には薄々。

白樺 そこから読み返せば、「ああ助けてって言われてスイッチ入ってんな」って解りそうだね。……早速「このワシを強制送還するだと?」って言われてる。

彩菱 悪魔は表層思考を覗けるんです。

五月 お前の狙いはこれだ、っていうのが理解出来ちゃうんだ。

白樺 ヘクソンさんと同じでしょ。『クレヨンしんちゃん暗黒タマタマ大追跡』の。

彩菱 ラスプートンです。『ルパン三世 ロシアより愛をこめて』の。

白樺 うんうん。

秋好 喩えるな(笑)

一同 (笑)

白樺 え、観てないの?(笑)

25

彩菱 「その妖魔、多少は頭がキレるようだな」妖魔っていうのは稀男のことです。稀男は妖精の血が混じってるので、ベリトはトマト君の記憶映像を見て妖魔と勘違いしている。「死をくれてやる事は禁じられている」っていうのは、悪人じゃないからです。

伏見 十分悪人だと思いますけどね……

彩菱 たましいの地獄の扉が開いてなければ悪人じゃないので……

五月 開かないの?あんなに身内二人も売ってるのに(笑)

彩菱 この後出てくる主要メンバーのルーサーも、暗殺任務に十年ぐらい従事しているのに開いてないので……

白樺 逆によく町田は開いてたね……。どんだけ悪いことしてたんだ……

彩菱 基本的には「悪いことをしたら地獄に堕ちる」っていう社会通念に依拠しているから、どの程度自分を悪と思っているかに依ります。で、「すいません僕じゃないんですあの妖魔が……」「このワシに嘘を吐きかけるのか!」

白樺 これはさっきの「嘘が禁忌」の話と繋がってるね。

彩菱 ここでブチ切れて「なぜこのような人間にだけたましいが、胎界主になれるのだ」って言ってますが〈たましい〉がテーマの一つだというのがクロースアップされてますね。

26

   ここで荒岸、登場

荒岸 すみません、遅くなりました。

彩菱 一話がもうすぐ読み終わるところです。本編に戻ると。稀男が来て、ベリトも余裕がなくなってきてますね。

27

彩菱 トマト君が「還れ」って言おうとしたので、急にベリトも態度を軟化させて「とはいえ私も召喚者に対する敬意が……」小者ですね(笑)「アイドルにしてやろう」。

伏見 そんな夢を持ってたんですよ(笑)

彩菱 このトマトくん、この後六年生になるまでブクブク太っていきます(笑)

伏見 でも「デブショタ」っていうジャンルありますよ。

白樺 わかる〜。

彩菱 アイドルとして輝ける年数が短すぎる!……といった感じで懐柔しに掛かっている。この「栗島たまきだって」〜っていうのは、さっきの声が出なかった女の子のことです。

白樺 あの人栗島たまきっていうんだ。

彩菱 「当然君にだって夢を叶える権利はある!」グッ!

五月 どっちを信じるんだ……!

28

彩菱 ここで「おばんで〜す」と栗島さんが出て来る。そしたらベリトが急に「そうかこいつが強大な運ぶ力の持ち主」

秋好 いったい何を言ってるんだ……

彩菱 つまり、妖魔だと思っていた男が、実は運ぶ力の胎界主だったことに気付いた。のみならず、あろうことかベリトが「誓約してこい」って言われた標的だった事に思い至った。あまりにも良いタイミングで栗島さんが登場したので、それが呼び水になったんでしょう。トマト君も、トマトトレーナーも、ハタと我に返って、「還れベリトォ!」。

白樺 これ、栗島さんは何で来たの?

彩菱 稀男に来てね、って言われたので。このタイミングで来られたら、トマト君も「この人を売るわけにはいかない」と。

五月 そういう良心はまだあるんだね。さっき揺らいでたけど、こいつは売っちゃいかんと思い、「還れベリト」って。

29

彩菱 です。さて、ではどこに六芒星を描いたのか?……建物の外に描きました

五月 あー。大きすぎて見えないのか。

彩菱 トマト君がベリトに怒られてる隙に、建物の外に大きな六芒星を描いてた。

白樺 最初に地球全体に大きな六芒星を描いておけば良いわけね、極端な話(笑)

伏見 六芒星を逆向きに描く事で……

一同 (爆笑)

彩菱 外側を内側にする(笑)

白樺 逆向きの六芒星ってなんだよ(笑)

秋好 でもこのくだりも言葉での説明はないんだね。

白樺 六芒星の真ん中にどう立たせるか、っていうので悩んでる描写もなかったし、ふうんそうなんだ、でおしまいになっちゃいそう。

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彩菱 でも第一話の見所は実はそこで。で、無事送還できました、と。稀男が愚痴ってますね「魚と女が嫌い!」って。稀男は女性恐怖症なんですが、この深い理由は後々わかってきます。

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彩菱 というところで、みんなで六芒星を消してます。

五月 消さなかった方が便利じゃない?

彩菱 でも、悪魔はもう中に来てくれないから。ベリトは「外に描かれた」っていうだろうし、他の人達も「なんで描いてあるんだ?」って話題になっちゃう。

五月 流石にバレるか。

白樺 結局、たまきさんは声出るようになったし、本当に良かったねってオチだ。

彩菱 ベリトが無能でよかった(笑)

秋好 「俺達の真実」はどれなんですか?

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彩菱 これです(めくる)。「わあ僕夜明けって始めてみた」

白樺 そんなこと有り得る?

五月 小学五年生だから徹夜したことないんだよ。小学生の記憶力だし……

彩菱 俺もはじめて徹夜したの多分中学上がってからだなあ。

白樺 毎正月とか初日の出見ないの?

彩菱 そこはどうでもいいんだよ(笑)ここの「俺が良い人だからじゃねーの」っていうのも結構重要な台詞で、彼は少なくとも「良い人」で在ろうとしている。で、ジュースを買おうとするとポッケに十円玉と百円玉しかない。親の形見の四葉のクローバー落としちゃったんですね。

白樺 さっきからずっと持ってたもんね。

五月 ポケットに穴が開いちゃったのか。

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彩菱 そんな感じ。で「探すほどの大切なモノでもない」。

秋好 結局いつ落としたんですか?

彩菱 描いてないけどいつの間にか落としてた。というわけで、第一話でした。

白樺 説明されながら聞くと、すごい読み切りでありそうな感じがする。

五月 流行ったら連載にしましょう、みたいな。

秋好 もうちょっと説明しないと載らないでしょう。

五月 難しかった……。後から説明されるやつと、されないけど多分こうなんだろうな、っていうのが両方あるから更に。

伏見 一話読むのに30分掛かった。

彩菱 そのまま続きも読みたいんだけど、時間が限られているので、ミステリ的に面白い回を次は読みましょう。

秋好 その前に荒岸くんに町田のシーン読ませてあげて(笑)

 

次回予告

次回は、よりミステリとしての魅力に焦点を当てるため、イッキに飛んで第19話「絶対失敗神獣グレムリン」と第12話「運ぶ力」を扱い、マトメに入ります。

*1:現在は提供終了。