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魔王ベリト閣下でもわかる『胎界主』読書会 第一回——『胎界主』ってこんな話

はじめに

独特の世界設定と入り組んだ伏線でカルト的な人気を誇る尾籠憲一(旧・鮒寿司)先生・作のWeb漫画『胎界主』。

三部構成のうち、現在は第二部が完結し、本編とは独立した短編が連載されています。

そんな中、先週 Pixiv Fanbox では、遂に支援者向けに第三部の全体構成が公開され、ファンの間で(先生の生活ぶりもあいまって)大いに話題になりました。

そんな2020年連載開始予定の第三部を控え、新たな情報も出て来たこのタイミング。

本記事では、『風狂通信 Vol.5.5』に掲載した、特殊ルール本格ミステリとしての側面に光を当て、都内某所で開催された『胎界主』入門読書会記事数回に分けて特別転載

『胎界主』はこれから、あるいは読もうとして挫折してしまった、というあなたも、是非本記事を片手にチャレンジして、第三部に万全の体制で臨みましょう! 

連載目次

基本的には、今回は『胎界主』の全体の概観を与える概説になり、第二回で第1部第1話を、第三回で第19話と第12話を扱う予定です。また、番外編として、読書会の際に用いたレジュメも公開予定!第一回の内容と大きく被るところがありますが、時系列はレジュメの方がハッキリしているので、第一回と合わせてお読み下さい。

  • 第一回 『胎界主』ってこんな話(今回)
  • 番外編 読書会レジュメ(適宜御参照ください)

     

  • 第二回 初見殺しの第1話「使い魔」を読もう

  • 第三回 第19話「絶対失敗神獣グレムリン」/第12話「運ぶ力」/おわりに

参加者(読んでいる順)

  • 彩菱:主催者。ミステリ読みに『胎界主』を布教しようと目論む。
  • 伏見:2部まで読了。読んでいる勢として呼ばれた。
  • 秋好:第3話まで読んだ。
  • 荒岸:第1話でリタイア。理不尽な先輩に拉致された。
  • 白樺:未読。彩菱がTLで話題にしているのだけ知っている。
  • 五月:未読。名前とTwitterで流れてくるキャラ画像だけ知っている。
  『胎界主』を読もう!

彩菱 荒岸くんは遅れるそうですが、胎界主読書会を始めます。『胎界主』というウェブ漫画があるらしい、ということは、ツイッターを見ていれば何となくご存知かと思います。

秋好 円居挽先生*1にリプライを送るときに使用する画像ですよね。

白樺 何が悲しくて二時間レクチャー受けてプロ作家にクソリプを飛ばさなきゃなんねえんだよ(笑)最低の会だよ(笑)

丸太町ルヴォワール (講談社文庫)

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FGOミステリー 惑う鳴鳳荘の考察 鳴鳳荘殺人事件 (星海社FICTIONS)

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彩菱 それはさておき。何でミステリ研の皆さんに『胎界主』をお勧めするのかというと、それは特殊ルール本格ミステリとして読めるからなんですね。

白樺 (レジュメを見ながら)「一見して難解とされがちな『胎界主』」って書いてあるけど……

彩菱 「読んでみようとしたけど……」という人の話を聞くと、「何が起きてるのかわからない」「言及するだけで謎の人たちにRTされて……」という感想が返ってきますね。作風というのかリアリズムというのか、特に初期の何話かは、何も説明してくれない。基本的に登場人物たちは自分がわかりきってることは説明してくれないんですね。

白樺 はいはいはい。わかんないことは知らないし、わかってることは当然改めて説明してはくれない、っていう。

彩菱 ただ後半に行くに従ってかなり読みやすくなっていきます。なので今回は、未読か冒頭で挫折した人向けに、前半部分を読み進めるための補助線の引き方、みたいなものを持ち帰ってもらえればな、と。その上で特殊ルール本格ミステリとして楽しんでもらおう、という趣旨です。

白樺 第一部の最初が読みにくいのは、そもそもそういう狙いなわけね。

彩菱 そう。謎めいたところから段々謎が明かされていく。あと、初期は描き始めだからまだあまりこなれていない、っていうのもあります。

白樺 うまくなっていくんだ。

彩菱 どんどんうまくなっていきます。で、何で今このタイミングかというと、全三部構成のところ、去年の四月三日に第二部が完結したんです。

白樺 そうなんだ。次で終わりなんだ。

彩菱 ただ、第三部が始まるのが2020年という(笑)

一同 (笑)

五月 オリンピック。

伏見 スケールがデカいんですよ。

彩菱 二部が終わってから一年経って、読み方も確立してきている。そもそも二部ってかなり読み易いんだよね。

伏見 二部の後半なんかほぼ少年漫画ですから。

彩菱 二部の後半はシン・ゴジラだっていうとだいたいあってる。

五月 ビームが出て、ゴジラが出て、みたいな……?

伏見 ビーム、出ますね。第二部はゴジラが出てきてビームも出る少年漫画。

シン・ゴジラ

シン・ゴジラ

 

彩菱 そこまで終わって、今は本編と独立した短編が毎週連載されてる。

彩菱 だから短編集の方を読むもよし、今から二部まで読んで2020年の第三部に間に合うもよし、間に合わないも良し、という。

秋好 確かにあと一年以上ありますしね。

白樺 いつから連載してるんですか?

彩菱 2005年から連載してるから、もう十年以上やってますね。第一部さえ読み切っちゃえば、第二部は圧倒的にスルスル読めるので、今回は第一部に焦点を当ててやっていきます。

白樺 第二部だけ読むってことは出来ないのね?

彩菱 第二部から読んだって人もいます。でも、第二部冒頭から第一部のラスボスに関するかなり重篤なネタバレがあるのでオススメはしないです。……ただ、第一部については、『胎界主』読者のツイートを見ると「ああ、こいつラスボスだな」っていうのがわかるので……

一同 (爆笑)

五月 インターネット……

白樺 『胎界主』の一部のラストで斜めになった自由の女神が見えて……

彩菱 オーマイガー!オーマイガー!それは違う映画です。

伏見 ぼくも『Fate/Grand Order』は六章までしかやってないですけど、ラスボス知ってますからね。

白樺 悪いファンだなあ。

彩菱 というわけで第一部に焦点を当てるんですけど。第二部になってからも、「第一部のそこ伏線だったの!?」っていう箇所もあって。

白樺 一部にも二部の伏線があるんだ。

彩菱 でもあんまり言いすぎるとわかっちゃうから、なるべくスルーしつつ、「変な伏線回収の仕方をします」とだけいっときます。

白樺 そうか、一部から順に見ていかないとそのカタルシスもないんだ。

彩菱 そうそう。第一部の舞台〈ソロモンヘイム〉は、基本的に私達が生きてるこの世界の、歴史のIFみたいな感じ。第二部舞台〈ロックヘイム〉は妖精とかも住んでいて、完全に異世界ファンタジーものになっていきます。

五月 話は繋がってる?

彩菱 繋がってます。

伏見 『BLEACH』の「死神代行編」と「尸魂界ソウル・ソサエティ編」みたいな。

秋好 あー。

白樺 俺、『BLEACH』本当に読んでないんだよな……

彩菱 僕も読んでない。まあ秋好くんと五月には通じたみたいなんで良かった。

五月 私も面白かったところまでしか読んでないから……(笑)

彩菱 いうなれば、この会は『胎界主』が面白くなるところまで読むためにはという感じですね。

秋好 本格ミステリとして読む前に、どういう話なのか、一応説明してもらっていいですか?1〜3話の解説を聞きながら読みたいというか。

五月 まず前提がよくわかんないから。

彩菱 いいでしょう。じゃあまず第一部を概観して、それから各話を読んでいくことにしましょうか。

主人公〈凡蔵稀男〉

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主人公・凡蔵稀男

彩菱 主人公は〈凡蔵稀男ぼんくらまれお〉っていう、本当に酷い名前で……

五月 あ、「ぼんくら」って読むんだ。

彩菱 登場人物の名前の付け方が全体的に酷くて、第二部では〈タヨト・レンタ・リース〉とか〈ドムドム・ハン・バーグ〉とかっていう名前の人が出て来る。本当にネーミングがひどい。

秋好 覚えやすい(笑)

五月 リーダビリティだ。

白樺 『奇面組』シリーズみたい。

彩菱 この凡蔵稀男が、能力と知略で様々な問題を解決したり、敵と戦ったりします。更に、こいつはかなり複雑な自我の成り立ちをしている、ということが後々わかってきて。「自分が何をしたいのか」がよくわかってない人なんですね。じゃあ自我の礎は何なのか?というのを見つめ直していく話でもあります。

白樺 アイデンティティを確立する話でもあるのね。

伏見 そこがややこしいところで、主人公が「自分が何をしたい」っていうのを台詞で言わないんですよ。傍からすると、こいつ何やってんだってなる。本人的には自分の中の葛藤と戦ってる。

白樺 ちょっと不思議なバランスなんだねえ。

秋好 そもそもこの人は誰で、何をしている人なんですか。

彩菱 第一部の舞台である地方都市〈鮒界市〉で、墓守をやっている準地方公務員です。この人は二つ能力を持ってます。一つは、〈いのちの緒〉にまつわる能力。片目で相手を見ると、〈いのちの緒〉っていうのが見えるんですね。

秋好 ああ、確かに見えてた。

彩菱 〈いのちの緒〉が縮んでると「こいつもうすぐ死ぬな」というのがわかる。

白樺 寿命がわかるのね。

彩菱 で、この〈いのちの緒〉を指でヒュッとやると、相手を〈亡くす〉ことができます

白樺 亡くす、って何だよ……

彩菱 正確には「〈胎界〉に送り返す」という言い方をしているんだけど、要は殺すということです。

五月 完全に両儀式さんじゃん……

空の境界(上) (講談社文庫)

空の境界(上) (講談社文庫)

 

 彩菱 とはいっても、あんまり緒が硬いと切れないこともあります。流石に能力として強すぎるので、世界の仕組みが違う、異世界が舞台の第二部ではこの能力は使えなくなります。これが第一の能力。この能力も、「こいつまだ死なねえな」ということを知ることが出来るので、策を立てる上で役に立ちます。でも、ミステリ的に面白いのは二つ目の〈運ぶ力〉の能力です。偶然的事象を必然に変えることができます。まあいってしまえば、ダンガンロンパ』の〈超高校級の幸運〉です。

【PS4】ダンガンロンパ1・2 Reload
 

五月 なるほど。両義式かつ超高校級の幸運……

白樺 出た、やめてよ。なんで僕の知らない作品で喩えるの?

彩菱 つまり、蓋然性プロバビリティの犯罪*2を確実に遂行することが出来る、という奴です。

五月 〈超高校級の幸運〉ってどっちの?

彩菱 基本的には『2』の方です。『1』みたいな感じで常時働いてはいるけど、メインとしては偶然を自分の思った通りに操作する方ですね。

 秋好 各々が各々の知っているもので喩えている……

白樺 ちょっと日高屋で喩えてよ。

彩菱 実は行ったことがなくて……

五月 ないの!?

白樺 もうだめだ。こんな趣味が合わないとは思わなかった……(笑)

伏見 日高屋でいうと、定食についてる漬け物を選べる能力

一同 (笑)

白樺 すごいね、あの変なきゅうりの奴要らないもんね(笑)

彩菱 この人が「マナ1%使用、たくわん食べたい」っていうとたくわんが出て来る。……という感じで、こうした能力を使って敵と戦っていく特殊ルール本格ミステリ、あるいは異能バトルと思って読んでいくのが良いと思います。

白樺 寿命がわかる屠れる偶然を必然に出来る。……強すぎない?むしろボスじゃん。

彩菱 他にも色んな能力持ったやつが出て来るので、そこは一筋縄ではいきません。ミステリとしては弱いので今回は採り上げなかったけど、時間停止能力者と戦ったりもします。

秋好 それでも甲賀忍法帖』の主人公級に強いじゃん。

甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)

甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)

 

白樺 『忍法帖』系のボスキャラでいそうだ。八人いる内の七番目くらいのやつ。

彩菱 第二部のラスボスは、稀男と同じ〈運ぶ力〉を持っています。更に〈正す力〉という能力も持っている。

白樺 というと?

彩菱 「どの流れに運ぶのが正しいのか?」がわかる能力です。

秋好 「偶然を必然に変える時に、その必然がどのルートを通るのが一番正しいのか」がわかるってこと? 強い……

〈胎界主〉世界の情勢とあらすじ

彩菱 第一部の舞台は〈ソロモンヘイム〉の鮒界市です。〈ソロモンヘイム〉っていうのは我々がいるこの世界だと思ってください。このソロモンヘイムでは、西南戦争で歴史が分岐してるんですね。西南戦争で殺されなかった〈東郷〉っていう武士がいて。

白樺 西郷じゃなくて(笑)

彩菱 そう(笑)で、こいつが西海道を立て直してほぼ独立国家にしちゃって、日本をほぼ裏から支配しているばかりか、アジアの覇権も伺っていると。

秋好 東郷が勝ったんだ。

彩菱 勝った、というわけではないんだけど。生き残って、覇権を手にしちゃった。一方で、実はこの世界は悪魔に三等分に支配されてるんですね。

白樺 ……この世界は、っていうのは、全地球が?

彩菱 そう。この辺りの設定は、よくある陰謀論からとってきてて。

白樺 この勢力の裏側にはフランスがついてて、こっちはイギリスが操ってて……みたいなのの極北をいった感じのね。列強の代わりに悪魔がいて。

彩菱 あるいは「国連は悪魔に支配されてる」みたいな、よくあるやつ。この悪魔三大勢力の筆頭が〈ルキフグ派〉。

白樺 いわゆるルシファーね。

彩菱 に、仕えるとされる悪魔かな。次いで〈ベール派〉、最後に〈ベリアル派〉と。

白樺 聞いたことがある悪魔たちだね。

彩菱 こいつらは劇中に出て来ない三大主。それぞれ部下である、アスタロトベルゼブブ、メフィストフェレスの三君主が、各派の事実上のリーダーですね。

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魔界の三君主。左からアスタロト、ベルゼブブ、メフィストフェレス

白樺 天皇に対する摂関みたいなものか。こいつらが実際には世界を操ってるのね。

彩菱 そう。実際には、各派閥の地上代行組織である〈ヘッド〉を通して、という形だけど。それで、アジアはベール派が元々支配してたのを、東郷が崩そうとしている、という過渡期の話です。

秋好 東郷と悪魔は敵対してるんだ。

彩菱 この東郷の連中は特殊能力を持ってます。初代当主の東郷善っていうのが、精通する前から一日五人のペースで女を抱いていて数万人規模で子供がいる。しかもそいつら全員が能力を持っている

白樺 山田風太郎みたいになってきた(笑)まあでも英雄色を好むって言いますからね。ニュータイプみたいな連中が「東郷軍」みたいな感じになってるわけね。

彩菱 それがレジュメに書いてある「サイキック薩摩ヤクザ」ですね。

一同 (笑)

秋好 急に『ニンジャスレイヤー』感が(笑) 

彩菱 実際そうなんだもん!(笑)こいつらは瞬間移動も出来るし、パイロキネシスで物燃やしたりもできるし、物や街を破壊したりもできる、っていう能力を持っている人達です。

白樺 そういう奴らが悪魔に喧嘩を売っている。独立だ!と。

彩菱 そう。片や、〈ロックヘイム〉っていうファンタジー世界がある。ここは〈リョース〉っていう管理者が支配していて、悪魔と冷戦状態にある。

白樺 この〈ロックヘイム〉っていうのはこの〈ソロモンヘイム〉とは別次元の別世界なわけね。

秋好 『BLEACH』でいう尸魂界みたいなもんか。

白樺 「デジモン」のデジタルワールドみたいなもんでしょ(笑)

彩菱 ともかく、ここに〈ピュア〉っていう胎界主がいるんです。

五月 聞いたことある名前だ。TLで良く出て来る。

白樺 この〈胎界主〉っていうのは、どういうものなんですか?

彩菱 あのね。これまた難しいんです。まず、稀男も胎界主です。

伏見 みんな難しい。

彩菱 そもそもこの作品では、〈たましい〉を持つ人間だけが新しい物を創り出すことが出来る、っていう世界観なんですね。人間とその混血だけが〈たましい〉を持っている。

白樺 悪魔はもってないのね。

彩菱 だから、悪魔はその気になれば人間を滅ぼせるけど、そうすると何も作れなくなっちゃうから、人間を巧いこと下僕化しようとしている。

白樺 家畜化しようとしてるんだ。

伏見 『天元突破グレンラガン』でいうところの〈螺旋力〉みたいなものです。

白樺 はいはいわかってきた。『キルラキル』でいうところの……

彩菱 はいはい(笑)で、作中で定義が出てこないから、正確なところはわからないんだけど、〈胎界主〉っていうのは、ある意味「世界を〈完結〉させ得る可能性を秘めた人間」だと思ってください。

白樺 「すげえ人間」なんだ。

彩菱 です。ただ「すげえ人間」だから能力があるというわけでもないし、能力があるから〈胎界主〉だというわけでもない謎の概念です。で、悪魔たちはその中でも本当に世界を完結させ得る〈真の胎界主〉を探しています。

五月 ベストオブ胎界主。

白樺 なるほどね。人間の中にもすげえ奴が一杯いるらしいんだけど、その中でも一番すげえ奴を探してるんだ。

彩菱 言ってしまえば「超人」を探してるんです。ピュアと稀男はその可能性があると認定されて悪魔たちに目をつけられてます。ピュアは悪魔と全面的に対立してて、ソロモンヘイムに刺客を送り込んで、悪魔の陣営や稀男と戦ったりする。

白樺 この第一部の時点でもこの〈ロックヘイム〉の話は出て来るんだ?

彩菱 「そにピュアっていうヤバい奴がいて、〈骸者ムクロモノ〉と提携してるらしいぜ」っていう話は出て来る。

秋好 ムクロモノ?

伏見 ぼく最初ずっと「ガイシャ」だと思ってました。

彩菱 僕もそう思ってたけど、よく読むとムクロモノが正しいみたい。こいつらは要するに、ヴァンパイアとかゾンビとかのアンデッドです。

白樺 西洋不死モンスター的な奴らね。

秋好 派閥が多すぎる……

白樺 これ、『仁義なき戦い』でいうとどういう……?

彩菱 あ、第一部第一話は仁義なき戦い』パートもあります。大体。

秋好 広島ヤクザ抗争だったのか

白樺 わかってきたわかってきた!

五月 全然わかんない……

仁義なき戦い

仁義なき戦い

 

彩菱 第一部ではそのピュアの追手が襲ってきて、そいつらと戦う。最後に「よっしゃこれからロックヘイムにカチコミ掛けるぞ」つって第二部に。

五月 なるほどね。

秋好 〈ロックヘイム〉の人達にも〈いのちの緒〉はあるんですか?

彩菱 無いです。いのちの緒っていうのは、ソロモンヘイムへの滞在ビザみたいなもんなんですね。

白樺 なるほど。だからそれをヒョイッてやるのは、送り還すってことになるんだ。強制送還みたいなものなんだ。

彩菱 そうそう。で、〈ロックヘイム〉ではいのちは全部〈リョース〉っていう神獣が一元管理してるんで、ビザは要らない。だから〈いのちの緒〉はない。

五月 じゃあソロモンヘイムにいる時は悪魔にも〈いのちの緒〉はあるんだ。

彩菱 ある。ただ、悪魔は稀男の理解を越える精神を持っているので、その緒を見ることは出来ないです。

白樺 わかってきたわかってきた。じゃあソロモンヘイムを支配しているベルゼブブとかが山王会なんだ。

一同 (笑)

白樺 で、ファンタジー界が花菱会で、東郷とかが大友組……

秋好 合ってるのそれ?

五月 なんでみんなヤクザに喩えるの?(笑)

伏見 あんまピンと来ないですね……

白樺 『アウトレイジ』見てないの!? 

アウトレイジ [Blu-ray]

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 彩菱 取り敢えず対立構造はこんな感じ。悪魔がいて、東郷がいて、その間で主人公が揉まれていくというのが、第一部のおおまかな流れになります。

第一部はこんな話

彩菱 第一部は大きく三期に分けるとわかりやすいと勝手に思っていて。第1話『使い魔』から第14話『壊す力』までが第一期。ここは稀男が能力を自覚的に使いこなせるようになり、自我の仮の礎を捨てざるを得なくなるまでを描いています。第一期では、基本的に鮒界警察の夜沼聖子やぬませいこ警部補──ぼくこの人大好きなんですけど──と署長の獅子屋が持ち込む暗殺課題を解決していく形になります。警察の癖に暗殺を依頼してくるんですね(笑)

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夜沼警部補と上司の獅子屋所長。

白樺 え、この人墓守だけどそういう仕事もするの?

彩菱 うん。第一期はトラブルシューター物です。

伏見 オカルト探偵もの短編集みたいな感じです。

白樺 霊界探偵時代ね。

秋好 幽☆遊☆白書』の初期みたいな。

彩菱 段々そこから、東郷家や悪魔の追手との戦いにシフトしていく。

白樺 銀魂』とかもそうだよね。どんどん話がでっかくなる。

幽★遊★白書 1 (集英社文庫(コミック版))

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銀魂-ぎんたま- 1

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彩菱 そうなる前段階が第一期。いよいよ話がでっかくなっていって、第二部までの主要メンバーが揃うのが第15話から25話これが第二期です。〈ロックヘイム〉からピュアの刺客がやってきたりします。それから、悪魔の暗殺リストトップ3に載ってる〈塔の男〉タロット・アスっていうのがいて、こいつとも戦うことになります。こいつ、強力な魔法使いで──作中では〈魔法則師〉って言いますが──なんやかんやあって稀男たちはこいつの下僕になります

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〈塔の男〉ことタロット・アス。チート級の魔法則師だが、憎めない。

秋好 なんやかんや(笑)

五月 なんやかんやあって下僕になる(笑)

白樺 タロット・アスさん強いわけね。

彩菱 強いけどどこか抜けてる、っていう憎めないキャラです。

伏見 あと何故か乳首にモザイクがかかってる

白樺 そうなんだ……それはどういうアレなんですか?

伏見 Googleのポリシーに引っ掛かるらしい。

彩菱 広告出して貰えなくなっちゃうから……

秋好 ちゃんとした理由があるんだ(笑)

白樺 それ、なんかに使えないかな。最近ちょっとモザイクに興味があって……

一同 (失笑)

彩菱 ……それでタロット・アスの下僕になって、間接的にアスタロトの部下になります。お前らでピュアをぶったたきに行ってこい、ってことになるんですが……派閥抗争ってヤですねぇ。メフィストフェレスが割り込んできて、すごい妨害を受けるんですね。お前たちには行かせねえよ?俺の部下に行かせるから。てか俺の下僕になれ、みたいなことを言われて、一旦地獄に送られちゃう。でも、まあ、その、タロット・アスの下僕を思う真摯な気持ちに打たれたメフィストが、じゃあお前らいいよ、行ってこい行ってこいと認める。それで何とか地獄から生還して、正式にピュア討伐の任務が下る……というのが第二期の流れです。

伏見 ここから仲間集め編が始まります。

白樺 梁山泊だ。

秋好 『指輪物語』でいう「旅の仲間」。

彩菱 ですです。第二六話と第二七話がその第三期仲間集め編です。二話しかないのかと思うかもしれないけど、良くみると第二六話は全部で全一五篇に分かれています(笑)

一同、ざわつく

白樺 え、一話って一話じゃないの!?

彩菱 前半は一話は一話なんですけど、段々、前編・後編、前中後編、と……

秋好 ああ、第一話前編、第一話後編、みたいな。

白樺 何々編、みたいな感じになっていくわけね。

彩菱 で、第二六話に関しては、更に予選と本戦に分かれていて。

白樺 ……予選と本戦?

彩菱 こっから急に物凄いバトル漫画になります。作中人物が「少年漫画のテコ入れじゃねえか」っていうくらいに違う話になります。

秋好 暗黒武術会か……

白樺 急に暗黒武術会始まるんだ(笑)

彩菱 ベール派が東郷に脅かされてるって話しましたね?この頃にはもう完全に弱体化してて、ルキフグ派に吸収合併されることになるんですね。三派は冷戦状態にあるから、バランスを崩さないように、残り二派に戦力を譲渡することになる。どこにも渡せない奴らは〈召喚島〉に集めて派手に殺し合わせて数を減らしましょう──っていう感じでバトルロワイヤルになります。予選で減らすだけ減らした後は、賞金を賭けた本戦が始まる。これは余興です、参加しなくてもいいです、みたいな感じ。何処にも譲渡出来ないくらい強い奴らが集まってきてるので、じゃあそこでロックヘイムで一緒に戦ってくれる仲間を誘おうと、稀男たちが参加する──という流れになります。……なんだけど、第二期で仲間になったルーサー・ナッチェスっていう関西弁インディアンがいて。この人は胎界主・レックスの息子なんですね。

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頼れる男・ルーサーと、その父にして胎界主・レックス

彩菱 レックスも暗殺リストトップ3に載ってる人で。こいつの能力は、指から凄いビームが出る、それと別に〈たましい〉に着火して任意のタイミングで爆弾に出来る。

白樺 任意のタイミング?

彩菱 昔、悪魔たちが三派閥合同でヘッドを投入して、トップ3殺るぞ!って本気で作戦やったのね。で、刺客が戻ってくる確率はレックス担当が一番多かったんだけど、戻ってきた後に家とか拠点とかでみんな爆発したんですね。

白樺 帰して爆弾にしたんだ。

彩菱 そういうことができる。更に、これは本当に厭な能力なんだけど──一瞬で女性を手籠に出来る能力を持ってるんですね(苦笑)

伏見 見られただけで孕む。

白樺 え、そうなの!?

彩菱 や、孕みはしないけど、女性の本能に働き掛ける能力を持ってるらしくて。

白樺 あー、アレクサンダー大王とかもそんな能力があったっていいますもんね。

彩菱 こいつも何百年にわたって自分の肉体の年齢を止めてて、世界中にたっくさん子供がいます。でも、三十歳までの誕生日に三回会いに来て、こいつは駄目だ、と思ったら要らねえって消し炭にしちゃうんですよ。

白樺 ビームでやられちゃうんだ。

彩菱 そうやって殺してても、多すぎてとうとう養育費が足りなくなった。それで優勝賞金目当てで参加したんですね。

五月 養育費は払ってたんだ……

白樺 凄いね。片っ端から消し炭にするけど、良い奴にはちゃんと金やってたんだ。

彩菱 三十歳になるまでは養育費やるよ、つって。で、ルーサーもルーサーで、そんな息子を片っ端から殺している親なんて野放しに出来ないし、鮒界市にももう一人いるんですね、ルーサーの息子が。

白樺 たちわりいもんなぁ。

彩菱 で「誰か何とかせないかんやろ」ってレックスを殺しに来ている。こういった感じでそれぞれ思惑を持って始まる。

秋好 (レジュメをめくって)そのあとジョジョの奇妙な冒険」みたいな展開があるね。ブラックジャック対決?

彩菱 よし、戦力も集めたし勝った!帰ろう!って鮒界市に帰ってくるんだけど、和解したはずのメフィストフェレスから刺客が送り込まれてきて。ブラックジャックで勝たなければここは通さんぞみたいなことを言ってくる。対する稀男は「ま、俺は運ぶ力があるから余裕っしょ」とナメてたら、実は使われていたトランプが〈絶対公正のプレイング・カード〉っていうやつで。

白樺 「偶然を必然にするやつキラー」があるわけですね。

彩菱 そう。ある胎界主が作った「絶対に運の要素を排除するカード」だったんですね〜。

五月 ほう。

一同 (笑)

彩菱 トランプなのにあらゆる運の要素を排除しちゃうという……

白樺 百歩譲ってさ、人にそういう能力があるのはいんだもう。モノじゃん

彩菱 この世界は胎界主が心を籠めれば本物が作れるっていうのがあって。

白樺 胎界主しかそういう物作れないからこそ、各界の強い連中は胎界主やべえなって思ってるわけね。

彩菱 そうそう。

秋好 「絶対公正のプレイングカード」っていいですね。

白樺 最初期の『遊戯王じゃない、これ?(笑)サイコロ転がすと割れて七だ!っていう回なかったっけ?

五月 ナイフ刺すやつしか知らない……

白樺 もうゲームじゃない(笑)

彩菱 あ、ナイフ刺すやつこのあと第一話で出て来ます

白樺 それゲームじゃなくて 『SAW』 だからねもう(笑) 

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 続きはこちら

 次回は、いよいよ最初にして最大の難関、第1話「使い魔」をみんなで読んでいく模様を御伝えします。お楽しみに!

fukyo-murder.hatenablog.com

 

*1:推理作家。代表作に『丸太町ルヴォワール』。 ツイッターアカウント @vanmadoy で時折『胎界主』の話をする。

*2:不確実性を計画に採り入れ、敢えて不発の可能性を残す事で立証を困難とするトリック。未必の故意。かもしれない犯罪。