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風狂奇談倶楽部の活動記録や雑考など

問題編だけ公開!「犯人当て朗読劇『降霊館の殺人』」

いよいよ25日は文学フリマ東京ですね!白樺香澄です。

私たち風狂奇談倶楽部のブースは2階Fホール・キ-34。新刊『風狂通信vol.5.5』には、今年9月に上演された、作・白樺香澄の犯人当て小説を戯曲化し、彩菱実唯(いろびし・みい)が主演に立った朗読劇『降霊館の殺人~フランチェスカ毒水の事件簿~』のシナリオを採録しています。彩菱実唯(「私」役)・白樺香澄(フランチェスカ毒水役)の、風狂奇談倶楽部が誇る二大美少女が共演した舞台ですので、2人の知り合いの方はぜひ顔を思い浮かべながら読んで頂けたらと思います。

みんなに新刊買って欲しいので、今回はその「問題編だけを」先行無料公開!

はい。答え合わせしたかったら買ってくれよな!!!ってことです。ぜひぜひ謎解きに挑戦してみて下さい。ちなみに、上演時の正答率は10パーセント以下でした。

 

 

『降霊館の殺人~フランチェスカ毒水の事件簿~』

 

○登場人物

「私」

探偵フランチェスカ毒水の助手。女性。

フランチェスカ毒水

自称・美少女探偵。女性。

鹿内春臣(かない・はるおみ)

出版社社員。死者の霊を呼び出せる「降霊館」に向かう。男性。

平坂夏美(ひらさか・なつみ) 

同。女性。

根国秋親(ねぐに・あきちか)

同。男性。

賽川冬典(さいかわ・ふゆのり) 

同。男性。

泉新介(いずみ・しんすけ) 

3か月前に事故死した鹿内らの会社の社長。男性。

  

 

【問題編】

全員、板付き。

 

「私たちが遭遇した、あの「降霊館」での惨劇についてお話しする前に、まずは私が助手を務める名探偵・フランチェスカ毒水先生をご紹介しましょう。

……と言っても、ここに集まっているような、推理小説や都市伝説なんかがお好きな皆さんには、わざわざ説明する必要も無いかもしれませんね。

フランチェスカ毒水と彩菱実唯のコンビと言えば、あの「早稲田祭、京極・清涼院・蘇部大集合事件」や、「早稲田駅前の昔チカラめしが入ってたテナント何が入ってもすぐ潰れる事件」といった、悪霊の仕業としか思えない不思議な事件を次々と解決してきた女探偵コンビとして、それ自体、都市伝説みたいになっているほどですから。

 

舞台は東京都下、厄払市のはずれ仏滅山の山中。夜。

 

※以下、分かりやすく「私」は、ナレーションとして話している時とリアルタイムで会話に参加している時(台詞は二重カギ括弧でくくられる)で立ち位置を変える。

 

毒水「あーもう疲れた疲れた疲れた疲れた! こんな山の中をいつまで歩かせるつもりよ? 名探偵ぞ? 私名探偵ぞ? みーちゃんと違って私はか弱き頭脳労働者なの!」

「まるで被害者のような口ぶりですが、そもそも私たちがどうしてこんな夜更けに徒歩で山を降りているのかと言えば、急に、」

毒水「世の中、興奮することはいっぱいありますけど、一番興奮するのは松茸狩りに行った時だね」

「と言い出した先生に付き合わされた挙げ句、最終バスに乗り損ねたせいなのですが。」

毒水「みーちゃんが松茸狩りに行こうなんて言い出すからこんなことになるのよ! こんな夏の真っ盛りに松茸なんて生えてるわけないじゃん!謝ってよ! 悔い改めてよ生まれてきたことを!」

「先生の脳内ではすっかり記憶の改竄が済んでいるようです。尤も、あの「三朝庵いきなり閉店事件」のショックからこの2ヶ月、立ち直れていなかった先生が元気になってくれたのは嬉しい限りなのですが。

 

SE:クラクション。車のブレーキ音

 

賽川「どうかされましたか?」

「天の助けと思いました。なにせ歩き始めて3時間、そのワゴン車が通りかかるまで、車とも人とも一度もすれ違うことなどありませんでしたから。『あ、あの!私たちバスに乗れなくて、

毒水「(「私」を押しのけて)ごきげんよう幸運な紳士淑女の皆さん! この美少女探偵・フランチェスカ毒水をふもとの駅まで送り届けるチャンスに巡り会えるなんて、ほんとに皆さんラッキーピーポー! なんせ私は名探偵ですからね! ここで恩を売っておけば絶対良いことありますよ? 例えば皆さんが殺人事件の容疑者になっちゃった時には、私が駆けつけてたちどころに無罪を証明してみせましょう! 仮に、ほんとはヤっちゃってたとしてもね? あっはははは!」

「そんなことをまくし立てながら、当然のように車に乗り込む先生に、車内の4人の男女は顔を見合わせ呆気に取られた様子でしたが、」

鹿内フランチェスカ毒水って、あの有名な?」

毒水「そうですあの有名なフランチェスカ毒水です! そしてこちらが私の助手、の、見習い? 風な? まぁオマケみたいなものです。」

『オマケって!』

賽川「ボク、小説読みましたよ! フランチェスカ毒水と彩菱実唯の事件簿!」

「先生の活躍を作品にまとめているのは私なので、これは普通に嬉しかったり。」

毒水「秋からネットフリックスでドラマ化予定です! 助手役に市川実日子、探偵役はスカーレット・ヨハンソンのダブル主演なのでみんな見てね!」

平坂「うっそ、本物? あの、「渡部直巳コットンクラブ立てこもり事件」を解決した探偵さんですよね?」

毒水「『美少女探偵』です!」

「もちろん、そう言い張っているのは先生本人だけで、さすがに見ての通りの体重130キロのダイナマイトボディを美少女と呼ぶのは、キッチンオトボケをノーカロリーと呼ぶような罪深さがあります。ちなみに私はご覧の通り、身長142センチ、体重34キロ、右眼が赤、左眼が青のオッドアイと黒髪ツインテールがチャームポイントの14歳美少女だからみんなよろしくね★」

根国「なぁ探偵さん、申し訳ないが、」

毒水「美少女探偵さん!」

根国「……美少女探偵さん、あんたのお役に立ちたいのは山々なんだが我々はこれから大事な用事があってね。部外者を乗せてく訳にはいかないんだよ」

賽川「まあまあ根国、困ってる人をこのまま放っておくのも寝覚めが悪いだろ。例の条件さえ満たしていれば連れてっても良いんじゃないのか?」

毒水「何かよんどころない事情がおありのようですね?もしや、みんなで死体を捨てに行く途中だったとか?」

鹿内「(笑って)死体を捨てに、か。俺たちがしようとしてることは、まったく真逆ですよ」

根国「我々はこれから、死人を蘇らせるんだ」

賽川「この仏滅山の山中にある『降霊館』の噂はご存じですか?」

鹿内「戦後最大の黒幕と呼ばれた大物政治家が建てた別荘なんだけど、非公式の閣僚会議のためにつくられた離れが曰く付きでね」

賽川「午前零時に3人以上でその部屋に入り、決まった呪文を唱えると、そこにいる誰かと親しい、一番最近亡くなった死者の霊が一人、紛れ込むって言われているんです」

平坂「昔、現職の総理大臣が遊説先で倒れてそのまま死んじゃったことがありましたよね? あの時は、離れでその総理の霊を呼び出して、後継者を決めたんですって」

賽川「所有者の政治家が謎の自殺を遂げ、売り払われてからは買い手もつかず、何年か前に不審火で焼けてしまって今では噂のはなれだけが、ぽつんと建っているんだそうです」

根国「このあたりはモミジが綺麗だから昔は、“紅葉の麗しい館”で『紅麗館』って名前だったそうだが、そんな噂もあって今じゃオカルトマニアの間では、“霊が降りる館”で『降霊館』と呼ばれてるんだそうだ。

毒水「なるほど! お話はよく分かりました! わざとらしい説明台詞をありがとう皆さん! それで、皆さんはいったい、その館で誰の霊を降ろすつもりなんです?」

鹿内「3カ月前に死んだ、俺たちの会社の社長ですよ」

「鹿内春臣、平坂夏美、根国秋親、賽川冬典(呼ばれるたびに当該キャスト、挙手)彼ら4人は同じ出版社の社員で、3カ月前の、彼らの会社の社長・泉新介の交通事故死が、実は殺人だったのではないかという疑念を共有していました。

鹿内さんと根国さんは、年恰好が近くなんとなく印象が似ているメガネ男子。推理小説サークルで量産されてそうな感じです。平坂さんは、初対面でも初めて会った感じがしない癒し系な雰囲気の女性。賽川さんは出版社でのオーバーワークが一目でわかる死んだ目をした男性でした。

事故のことは、私も覚えていました。高速道路で1台の乗用車がタンクローリーに突っ込んだのをきっかけに玉突き事故が起こり、12名の死者と多数の重軽傷者が出たというものです」

平坂「泉社長の車が、あの大事故の原因だとされてしまったせいで、会社やご家族のところへずいぶん嫌がらせの電話があったんです。あまりに社長が気の毒で……」

根国「しかも、警察は薬物摂取で朦朧となっての事故だなんて発表しやがった。泉は昔、弟を薬物中毒で亡くしてるんだ、クスリなんてやるわけがない。誰かに一服盛られたんだよ。そうに決まってる」

鹿内「だったら本人に真相を訊いたら早いじゃないかって、俺が提案したんです。前に雑誌の取材で行った時、この目で確かに見たんです。5人で離れに入ったはずなのに、気が付くと6人になってる! 声だって聞こえた! 平坂も見たよな?」

平坂「ええ! 本当びっくり。『降霊館』は本物ですよ」

毒水「ファンタスティック! 面白いわねみーちゃん! そこまで聞いたら是が非でも、連れていってもらわなきゃ!」

賽川「一つだけ確認したいんですが、お二人は泉社長より最近に、つまり三カ月以内にお友達なんかを亡くされていませんか?もしそうだと……」

毒水「ノンノンノン、問題ナッシング! 死んだ友人などおりませんよ」

根国「というより、友達自体いなさそうだけどな、あんた」

毒水「は―――――っ!? いるし! めちゃくちゃ友達いるし! 私ほどの名探偵になれば国内の主要な名探偵はだいたい友達ですからね。『超推脳KEI』の風丘京!『心理捜査官 草薙葵』の草薙葵!『探偵犬シャードック』の飼い主の人!みんな私の友達です!」

平坂「すごーい!」

鹿内「なぜ古今の打ち切り推理漫画の主人公ばかりと友達に…?」

「ここで揉めて車を降ろされるのも嫌なので、毒水先生の嘘は見て見ぬふりするとして、こうして私たちは、降霊館へと向かうことになりました。

車で10分ほど山へ分け入ったところにあった降霊館は、六角形をした山小屋風

の小さな建物でした。館の前に車を止めると、暗所恐怖症で中に入りたくないと

いう賽川さんを残して、私たちは、先頭の鹿内さんが持つランプの灯りを頼りに

館に入りました」

鹿内「カギは、かかっていないはずです」

「廊下はなく、扉を開けるとすぐに、閣僚会議室だったという部屋になっています。調度品は何もありませんが、敷いたままのじゅうたんや天井の装飾は、なるほど大物政治家の別邸らしく豪華なものでした。

私たちは鹿内さんの指示で、部屋の真ん中で輪になるように立ちました。霊の通り道を確保するためらしく、扉は開け放たれたままです」

鹿内「さあ、いよいよ零時だ。俺がこの明かりを消したら、目をつぶって今から教える呪文を3回、心の中で唱えてください。この館を設計した有名なドイツの黒魔術師が書き残したものです。いいですか?

『シオチイン メーラソミゲチ ラナツヤノ イテンゲ
イマウンバ チイデヤ カダヒンメー ラシナルシ』

唱え終わったら、目を開けてください。上手くいけば、明かりを消している間、泉社長の霊に会えるはずです」

「そう言って、鹿内さんは明かりを消しました」

 

実際に舞台の電灯を消す。

 

「真夜中の山の中ですから、部屋は目を開けているのか閉じているのかもわからないような闇に閉ざされます。言われたとおりに目をつぶり、心の中で呪文を3回、暗唱しました。

そして目を開け、あたりを見回します。目が暗闇に慣れるまでは少し時間がかかりましたが、ぼんやりと人影が見えてきました。人影の数は――私以外に4つ。入った時と変わっていません。一目でそれと分かる毒水先生の巨大な影の他に、男性らしき人影が2つ、女性の影が1つ。

沈黙が続きます。まだ儀式は続いているのでしょうか。私はふと、先生が無理やり車に乗り込んでしまったのでちゃんと名乗ってすらいないことに気付きました。『あっ、申し遅れました』私が自己紹介すると、しかし返ってきたのは怒鳴り声でした。

根国「おい! 何やってるんだあんた! 馬鹿か!」

鹿内「悪い根国、俺がちゃんと伝えてなかったから」

毒水「私のかわいい助手をいきなり馬鹿とはなんだ! 最高裁まで争うぞこの野郎」

根国「馬鹿に馬鹿って言って何が悪いんだ!」

毒水「馬鹿っていうやつが馬鹿なんですー! だから私は人の悪口を言う時は『美少女!』っていうことにしてます、この美少女!」

根国「おいイカれてんのかこいつ!」

平坂「みんな落ち着いて! ちょっと一回灯りつけて!」

 

舞台、明転(鹿内のランプの灯りがつく)

 

「鹿内さんのランプが、私の、根国さんの、先生の、平坂さんの顔を順番に照らします」

根国「(「私」を指さして)この馬鹿がしゃべりだしたせいで降霊は失敗だ。だから私は嫌だったんだ」

鹿内「すいません、霊が降りるまでは誰も声を上げちゃいけないんです。伝えそびれちゃって……申し訳ない」

毒水「ふん、わがままな霊ですこと」

平坂「根国くん、彩菱さんは悪くないでしょ? 知らなかったんだから」

根国「はぁ? お前、何言ってんだ。そもそも……」

鹿内「あーもう! 俺のせいだよ全部。今夜はもう帰ろう」

「そう言って出て行った鹿内さんの背中を追うように、私たちは降霊館を出ました。そして、」

 

賽川がナイフで刺され死んでいる。

 

平坂「きゃー!!」

根国「おい、嘘だろ賽川!」

鹿内「しっ、死んでる!!」

「車から転げるように、賽川さんが倒れて死んでいたのです。頭にナイフが突き立てられていて、悲鳴を上げる間もなく即死しただろうことは一目で分かりました」

毒水「体温は殆ど下がっておらず、指先の死後硬直も始まっていない。殺されたのは、つい今しがたのようね」

平坂「そんな……いったい誰が!?」

鹿内「俺たち以外に、この山にだれか潜んでる、ってことだよな?だってさっきからずっと、俺たちは5人で行動を共にしてたんだから」

根国「鹿内、館を真っ先に出て行ったのはお前だよな?」

毒水「彼じゃないわ。血は乾き始めてるから、刺されて3、4分は経っているはずよ。殺されたのは、私たちがあの暗闇の中で降霊の儀式をやっている間でしょうね。ちなみに、犯人が館に入る前に殺した可能性は否定できる。みんなに続いて最後に館に入ったのは私だもの。その時、賽川さんはまだ生きていたわ」

『だとすると、犯行は誰にも無理ですよ。私のせいで降霊が失敗して、鹿内さんが灯りをつけるまで人影の数はちゃんと私以外に4つ、あったんですよ』

鹿内「俺も見た。明かりを消した後も、確かに5人でいたはずだ。さすがにみんなが目をつむっていた30秒程度じゃ外に出て、殺して、戻ってくるのは厳しいだろう。その倍以上、1分半はないと。明かりを消して30秒後の時点では全員、あの会議室にいた。それは断言できる」

毒水「おいおいおい、あんたの両目はミートボールか? それとも脳みそがラザニアでできてんのかな?」

鹿内「人のことを美味しそうな感じにディスるな!」

毒水「ここは降霊館。霊が降りる館なんでしょ? 5人のうち1人が欠けていたはずなのにそこに5人いたなら、――1人は霊だったに決まっているじゃない」

根国「じゃあ、人影の一つは泉だったっていうのか?」

毒水「みーちゃん、あなたが見た人影は、私を除いて女が1つに男が2つ、だっけ?」

『え、あっはい!』

鹿内「おい待ってくれよ、じゃあ男2人のうちどっちか社長の霊で、俺か根国が犯人だっていうのかよ!?」

毒水「それとも、泉社長以外の方があの部屋に現れる可能性がおありですか?皆さんの近しい他の誰かがこの3カ月以内に亡くなったとか? あり得ませんよね、当然そんなこと、お互い確認した上でこのメンバーでここに来ているはずですから」

鹿内「それは……そうだけど、」

根国「そもそもここは絶海の孤島でも雪崩で通行止めになった山荘でもないんだ。どうして外部犯の可能性を疑わないんだ?」

毒水 「――なぜって、もう犯人が分かっているからですよ。犯人は一つ、決定的な失策をした。ここらで決め台詞といきましょう!

じっちゃんは、いつも一人!」

平坂「じっちゃんかわいそう!」

毒水「間違えた! 犯人は、この中にいる!」

 

暗転。

問題編、了。