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風狂奇談倶楽部の活動記録や雑考など

推理クイズ小説『死者の晩餐会』答え合わせ!

さてさてクリスマスも終わったので解答編です。

 

風狂奇談倶楽部の部室こと山手線T駅そばの牛角にて。

 

一条薫「……なんですか、コレ」

白樺香澄「推理クイズ小説じゃない」

一条「いやいやいや、最後の『何を当てさせることを目的とした推理クイズでしょう?』ってなんなんですか。なんで問題が問題になってるんですか」

白樺「うーん、ポストモダン?」

一条「解りもしないくせに言いやがって……で、犯人は解ってる訳じゃないですか。倒叙ものだから。ってことは犯人特定の『詰め手』を当てろってことですかね?でも、だとしたらイージーすぎません?」

白樺「何が?」

一条「黄川田が『事件発生当時、現場である書斎にいた』証拠がショボいな、って言ってるんですよ。どうせ『ウォークインクローゼットの扉がきちんと閉まらないのを知っていた』ことが詰め手になるんでしょ?」

白樺「どういうこと?」

一条「問題は『いつ、どうしてウォークインクローゼットが閉まらなくなったか』ですよ。わざとらしい伏線でしたね、『今朝がたの地震』。クローゼットの扉は、地震によって家の建て付けにゆがみが生じたことで閉まらなくなった。つまり、クローゼットの扉が『立て付けが悪くて閉まらない』ことを知っているのは、今日、招待客として久堂邸にやって来た後で書斎に入った人間だけ。それが動かぬ証拠になるんでしょ?」

白樺「え、待って待って。いや、詰め手はそれで良いよ。でも……黄川田って何?犯人は黄川田なの?」

一条「………え?」

 

 

一条「うーわ!出た、このパターンだ。冒頭のコレ、黄川田の一人称視点三人称じゃないんだ。『黄川田を見ている犯人』の一人称視点なんだ。確かに心情描写には全体通じて一個も主語がない」

白樺「黄川田が書斎にいた間はどこから見てたの?」

一条「……『特に中に何があるという訳でもない』空っぽのクローゼットの中からだ。そうか、犯人は久堂を殺した後で、久堂の携帯から黄川田を呼び出したんだ。で、黄川田が書斎にやってきてアリバイを失うのを見届けるために隠れて現場に残った。あるいはただ単に、事後工作中に思ったより早く黄川田が書斎に来たもんだから慌てて隠れたか」

白樺「そうだね。自分で操作した後だから『携帯にロックはかかっていない』ことを知っていたんだろうね。……でも、久堂を殺した凶器が『黄川田のスカーフ』であることは間違いなさそうだよ?」

一条「……盗まれたんでしょう?『車上荒らしにあった』時に」

白樺「それを一人称視点人物である犯人が知ってるって事は、犯人がやったんだろうねぇ」

一条「ようもぬけぬけとコイツ……。そうだよ、黄川田が一人称視点人物な訳がない。どうして、最年少者として長卓の下座に座ったはずの奴の左右に人が座ってるんですか」

白樺「あっ、よく気付いたね」

一条「じゃあ、この問題はストレートに『犯人当て小説』だったってことですね」

白樺「告知記事のタグに思いっきりヒントを入れといたんだけど、みんな気付いてくれたかな」

一条「下手な『達也が笑う』みたいなことしやがって虫ケラが。……これで終わりですか?」

白樺「終わらないよ。犯人が誰か特定できてないじゃん」

一条「? だから、犯人は一人称視点人物でしょ?」

白樺「名前で言ってもらえないと、伯爵の称号はあげられないな」

一条「要らないですけどね。えっ? 犯人の名前なんて出てきてないでしょ。ずっと叙述トリックで存在を消されてたんだから」

白樺「犯人の名前は作中にちゃんと出てるよ? なんか、読んでて違和感のあるところなかった?」

一条「……うーん。強いて言うなら、久堂の秘書の話になった時、兼白が『女性陣は』って言い方をしたけど、囲む会のメンバーで女性は桂緋椿しかいないから、『陣』って言うかな?って思ったくらいですけど。もしかして黄川田が女性っていう叙述トリックかとも疑ったんですが、それで何かひっくり返る訳でもないし。……そうか、となると犯人が女性なんだ」

白樺「『久堂汀青を囲む会』ってどんな会なんだろうね?久堂がメンバーを選ぶ基準にしたらしい『希有な繋がり』てなんなんだろ?」

一条「みんなちょっと変わった名前ですよね。色の名前が入っているのが共通点で。兼白辰巳、黄川田智、桂緋椿……あっ、あっ!そうだ。久堂汀青も含めて全員、名字がカ行から始まって名前がタ行から始まるんだ。名字がカ・キ・ク・ケ、名前はタ・ツ・テ・トが揃ってて、犯人を含めた会の人数が5人ってことは……」

白樺「女性で、名前が『こ/ち』から始まって、かつ名前のどこかに『色』が入ってる。そんな人物がどこかで誰かに呼ばれてなかったかな?」

 

一条「……『こん中・ちなみ』でしょう?犯人の名前。色が入っている決まりから言えば漢字表記は『紺中ちなみ』」

 

>ああ、ちなみに言っておくと今夜は谷戸辺くんは欠席だ。

>つばき、お前に言った訳じゃない

>俺、兼白さん、けーひさん、こん中の誰かが犯人だって言うのかよ

 

白樺「正解です!つまりこの問題は『隠されている犯人のフルネームを当てる』という問題でした!いやー、一条ちゃんもまだまだだね」

一条「よくそんな『フェアプレイに徹しました』みたいな顔できますね。犯人=黄川田に地の文がグイグイ寄せに行ってるじゃないですか。名前に仕掛けがある囲む会のメンバー以外は、町矢(マティア)に谷戸辺(ヤコブ)に榛名馬(バルナバ)ってやけにキリスト教臭くて、晩餐が舞台になってて、完全に犯人をユダに比しようとしてるわけでしょ。イスカリオテのユダは宗教画ではだいたい黄色い衣装をまとって描かれるから、ユダ=黄川田って結ばせようとする気まんまんじゃないですか」

白樺「知らないよ。たまたまそういう名前の人が多い地域だったんじゃないの?」

一条「そんな珍名だらけの地域ありませんよ!不自然でしょ!」

白樺「お前、同じこと西澤保彦先生にも言えんのかよ!?」

 

おしまい! 不平不満、疑問、別解はツイッター @kasumishirakaba まで!

 

おまけ↓

一条「かなり初期の段階で、『黄川田智』は会員の『黄川田』の配偶者なのではないか、という別解が届いていましたね。『黄川田智』と『黄川田』が別人田という解答」

白樺「こちらがまったく想定していない切り口で、びっくりしました。一応、『晩餐会の参加者は会員と秘書だけ』という設定から、『犯人が黄川田夫人だとすると、黄川田夫人も会員』→『黄川田が容疑者として挙げた中に夫人がいないのはおかしい』というところで潰せるかな、とは思うのですが」

一条「『黄川田智』はあくまで戸籍上の名前=〈法的に正しい名前〉として使われているだけで、黄川田夫妻が対外的に夫婦別姓を取っており、夫人を旧姓『紺中』と呼んでいた可能性はいかがですか?」

白樺「確かに、黄川田夫人が結婚前からのメンバーだとすれば、夫が『ち』から始まる下の名前なのだとすればカ行とタ行の法則も成立するから、そこまで指摘されていたら正解と認めざるを得なかったと思います。『考えてもなかった筋の通った答え』が飛び出すのが推理クイズの面白さですね。多くの方にお付き合い頂きましてありがとうございました!」

 

おしまい!