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風狂奇談倶楽部の活動記録や雑考など

風狂的「年末ミステリ・ランキングを振り返って」

2016年12月17日、新宿某所。

そこには、今年度のミステリランキング本を広げながらケーキを啄ばむ、怪しい男たちの姿があった――

 

石井「去年の夏以来の座談会だね」
秋好「そうですね。この間、風狂も『本格ミステリ・ベスト10』の投票権をもらったり色々ありましたが、しがらみ関係なく無責任に語る場をまた設けたいなと思いまして、今回こうして集まってもらったわけです」
石井「ところで、白樺先生がいないけど?」
秋好「去年しゃべり過ぎてパージされた説……。でも、その代わりと言ってはなんだけど、今回は後輩の現役ミス研員3名に来ていただきました」
吉川荒岸霧越「よろしくお願いします」
石井一家言ありそうなメンバーで頼もしい」
秋好「まあメンバー的に、本格ミステリ中心に話していきましょうか。一応各自、今年度のベスト5を選んでもらってきたんだけど――それじゃ荒岸くんから時計回りで」
荒岸「わかりました。風邪のため、あまり喋れませんが」

 荒岸

1.白井智之『おやすみ人面瘡』(KADOKAWA
2.井上真偽『聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた』(講談社
3.市川憂人『ジェリーフィッシュは凍らない』(東京創元社
4.米澤穂信『真実の10メートル手前』(東京創元社
5.法月綸太郎『挑戦者たち』(新潮社)

吉川「俺は5冊も選べなくて、今回は3冊だけ」

吉川

1.青崎有吾『アンデッドガール・マーダーファルス1』(講談社
2.古野まほろ『ねらわれた女学校 セーラー服と黙示録』(KADOKAWA
3.白井智之『おやすみ人面瘡』(KADOKAWA

霧越「逆に僕は5冊に絞れず、6冊選んでしまいました」

霧越

1.白井智之『おやすみ人面瘡』(KADOKAWA
2.小林泰三『クララ殺し』(東京創元社
3.井上真偽『聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた』(講談社
4.青崎有吾『アンデッドガール・マーダーファルス1』(講談社
5.澤村伊智『ずうのめ人形』(KADOKAWA
6.古野まほろ『ねらわれた女学校 セーラー服と黙示録』(KADOKAWA

秋好「僕と石井くんは本ミスに投票したものを読み上げますね」

秋好

1.白井智之『おやすみ人面瘡』(KADOKAWA
2.青崎有吾『ノッキンオン・ロックドドア』(徳間書店
3.深木章子『猫には推理がよく似合う』(KADOKAWA
4.早坂吝『誰も僕を裁けない』(講談社
5.辻堂ゆめ『あなたのいない記憶』(宝島社)

石井

1.青崎有吾『アンデッドガール・マーダーファルス2』(講談社
2.森川智喜『ワスレロモノ 名探偵三途川理 vs 思い出泥棒』(講談社
3.芦沢央『許されようとは思いません』(新潮社)
4.古野まほろ『臨床真実士ユイカの論理』(講談社
5.市川憂人『ジェリーフィッシュは凍らない』(東京創元社

秋好「上手い具合に重なりつつ、それぞれ好みが出ましたね。どこから喋ろうか?」
石井「5人中4人が青崎作品を上げてる」
霧越この前のイベントでも言われてましたね。青崎有吾問題」
秋好「『マーダーファルス1』が2人、『』が1人、『ノッキンオン』が1人か……」
荒岸「誰も『図書館の殺人』を上げてないですね」

図書館の殺人

図書館の殺人

 

秋好「シリーズ中ではベストの出来かもしれないけど、『マーダーファルス』や『ノッキンオン』に比べると、やっぱり裏染シリーズは窮屈な印象。あと、今回はロジックに気になるところがあって(と論理展開についてネタバレで語る)。――で、みんな『ノッキンオン』より『マーダーファルス』派?」

アンデッドガール・マーダーファルス 1 (講談社タイガ)

アンデッドガール・マーダーファルス 1 (講談社タイガ)

 
アンデッドガール・マーダーファルス 2 (講談社タイガ)

アンデッドガール・マーダーファルス 2 (講談社タイガ)

 
ノッキンオン・ロックドドア (文芸書)

ノッキンオン・ロックドドア (文芸書)

 

吉川「『ノッキンオン』は、HOW専門の探偵とWHY専門の探偵って趣向は面白いけど、あまりに小粒すぎません?」
霧越「『マーダーファルス』は異世界ミステリとして、設定が飛びすぎてないのが良かったです。吸血鬼の設定なども地に足がついていて、謎解きに奉仕しているというか。『2』はぶっ飛んでますけど」
秋好「一話目はオーソドックスで綺麗な謎解きだよね」
石井「ミステリ的には『2』より『1』なのもわかるんだけど……ぼくは『2』のケレンとコンゲーム的な面白さにやられたんだよなあ」
吉川「読み物としてはめちゃくちゃ面白い」」
霧越「あんなにアクションシーンを書けるとは思いませんでした」
吉川「意外な才能」
秋好「状況の整理力も抜群ですよね。ホームズにルパンにロイズ保険機構、主人公陣営に教授一派と、三つ巴どころではない複雑な状況を、まったく混乱しないように描いていて巧いなと」
石井「後半はバトルしかないと言う人もいるけど、バトルの中にもしっかりと伏線が張られていたりして、本格マインドがあると思う」
秋好「そういう意味で言えば、『ノッキンオン』は確かに小粒かもしれないけど、アイディアやロジックはどれもスマートじゃないですか?各短編バラエティに富んでいて、枚数も短い中できっちりとまとめているし、読み心地が非常に良い」
吉川「収録作の中だと、「ダイヤルMを廻せ!」はタイトルが良いですね」
石井「二人の探偵がそれぞれ別の事件を捜査するのって「ダイヤルM」だっけ?正直展開は読めるけど、それでも楽しめるのはキャラが立ってるからかな」
秋好「とはいえ、HOW専門とWHY専門という役割分担が成功しているかというと、どうでしょう?結局どっちが解いてもいいじゃんって気はした」
石井「役割分担といえば、三人の探偵役がそれぞれフーダニット、ハウダニットホワイダニットと謎解きを分業している、まほろの「セーラー服と黙示録」シリーズ。今回はその要素は控え目だけど」
秋好「2人が『ねらわれた女学校』を推してますね」

霧越「一本目の「消えたロザリオ」は秀逸なフーダニットです」
吉川「パッと見ではそう見えないのに、いざ主人公たちによって状況が整理されると、非常に単純な問題であったとわかるところが巧い」
霧越「二本目は吸血鬼の条件を色々設定したうえで、最後のドーン」
吉川「あれは笑った」
秋好「本ミスだと『臨床真実士ユイカの論理』が19位にランクインしてるけど、ユイカよりも女学校を選んだ理由は?」

吉川「うーん、ユイカは論理パズルのように感じてしまいました」
石井「いや、僕も二つの真理様相の連結に若干不満があるけど、形式論理を本格ミステリに応用したものとしては初めて真っ当な作品が出たと思うよ」
吉川「初めて(笑)」
荒岸「含みのある言い方ですね」
石井「ある趣向に関しても、麻耶雄嵩の某作の仕掛けを、形式論理によって明るみに出そうとしたのが面白かったと思う」
秋好「じゃあこの流れで『聖女の毒杯』に行きますか」

聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた (講談社ノベルス)

聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた (講談社ノベルス)

 

吉川「どういう流れですか」
荒岸「前作でもそうですが、このシリーズはロジックの主眼が「推理の否定」にあるところが面白いですね。今作は後半の展開によってゲームが複雑化し、ロジックもますます重層的になっているように思いました」
霧越「前作のほうが出来は上だと思うんですよ。不可能状況の設定が派手で推理もぶっ飛んでいるし、否定の否定という面白さもあったし。でも今回は物語の見せ方などが凝っていて、より技巧的になっているなと」
石井「個人的には『恋と禁忌の述語論理』のイメージがあって印象悪いんだけど、井上真偽作品の中だとこれまでで一番面白かった」
秋好「僕も後半の展開は良いと思うんだけど、あまりに文章が拙くて、小説としての作り込みが強引じゃないですか?特に前半。それと、前作から感じているんだけど、やっぱり奇跡の証明とハウダニットって相性悪いですよ」
石井「というと?」
秋好「厳密には可能性をすべて潰すことなんて出来ないじゃん。フーダニットのように可能性が限定されている謎解きと違って、どんなに可能性を潰しても、見落としがないとは絶対に言い切れないでしょ。まあそもそも、上笠が何をもって奇跡と言っているのか定義がよくわからないんだけど」
霧越「このシリーズの場合、奇跡の証明っていうのは建前というか口実に過ぎなくて、作者が書きたいのは多重解決とトンデモトリックの乱れ撃ちなんですよ」
吉川「真っ当な推理は前半で披露され尽くして、後半アレな推理ばっかりでしたよね」
石井「僕は意外とそのトンデモが好きでした」
秋好「その面白さは認めた上で、だとしたら設定に問題があるということになると思うんだけど……まあ次に進みましょうか。トンデモ繋がりで、島田荘司屋上の道化たち』の話をしたい」

屋上の道化たち

屋上の道化たち

 

石井「本ミス8位は予想外だった」
秋好「どうした島荘という感じが」
霧越「でも、ミステリファンなら誰しも一度は考えたことがあるだろうネタを、こういう形で作品化してみせた手腕は評価したいです」
吉川「どういうネタ?」
霧越「一言で言うとですね…(トリックの説明を始める)」
吉川「えっ、そんなんで400ページもあるの?」
石井「400ページあるとは思えない軽さだよ」
秋好「核心のネタに関する部分は中盤まで出てこないから」
石井「そう。とある銀行ビルの屋上で、まったく自殺する気のなかった銀行員たちが連続で飛び降りてしまうっていう、ホラーチックな謎から始まるんだよね。「私は絶対に死なないんで!」って言いながら屋上に上がって、「わーっ」みたいな。これはかなり映像化を意識していると思います」
秋好「完全にコント。三回繰り返すのも笑いの基本ですよ」
吉川「それ、面白いですか?」
霧越「正直、読んでるときより今こうして喋っているほうが楽しい……」
秋好「笑えるという意味では、『おやすみ人面瘡』の趣向も笑いました」

おやすみ人面瘡

おやすみ人面瘡

 

吉川「設定が巧いですよね。ちゃんと人面瘡じゃないと成立しない謎解きになっているというか」
秋好「多分ミステリとしてのケレンでは『東京結合人間』に軍配が上がると思うんですよ。個人的にも前作のほうが好きだし。ただ、ごちゃっとして見通しが悪くなった分、今作のほうが設定の使い方なんかはよく練られているなと。最後に明かされる真相も、ベタといえばベタですけど、見せ方の妙か非常に効果的に感じました」
石井「結合人間は最後破綻してるからね」
荒岸「グロ描写がつらいですけど、終盤の多重解決は圧巻でした」
霧越「つらかったですか?むしろあれでリーダビリティを高めていると思いますけど」
石井「白井智之作品はグロって感じがしないんだよなあ」
秋好「グロっていうか、世界観はB級ホラーだからね。飴村行とか『ムカデ人間』とかみたいな。――B級テイストといえば、早坂吝のエロミス×社会派『誰も僕を裁けない』はどうでしょう」

誰も僕を裁けない (講談社ノベルス)

誰も僕を裁けない (講談社ノベルス)

 

荒岸「今年ダントツで嫌いでしたね。社会派っていうのは本来、事件を通して社会問題なり組織の暗部なりが浮かび上がってくるものだと思うんですが、これはまったく逆で、社会問題が最初から提示されていて、それとミステリ的仕掛けを結びつけるために、ものすごく奇怪な事件が設定されているんです」
吉川「本格と社会派の融合って絶対こういうことじゃなくない……?」
石井「社会派っていうか、法学ミステリだよね」
霧越「でもその融合のさせ方は面白くないですか。だって●る館にあのネタを組み合わせるんですよ?」
秋好講談社ノベルスでアレとかアレとかある中、メタ的に●ることを前提にしているところは面白いし、評価したいですよね、って偉そうな言い方になるけど。まさに新時代の講談社ノベルス
石井「一方、『アリス・ザ・ワンダーキラー』は意外と票が集まらなかったね」

アリス・ザ・ワンダーキラー

アリス・ザ・ワンダーキラー

 

秋好「本ミスだと30位か。全編アリスのモチーフを巧くパズルに落とし込んでいるし、最後に仕掛けもあって悪くない作品だと思いますけどねえ」
吉川「異世界ミステリとしてはどうですか?」
石井「うーん、こぢんまりしているわりに、設定の作り込みが荒いかな」
秋好「でも、今年アリスの世界を使った作品は、他に『クララ殺し』や森川智喜『トランプソルジャーズ 名探偵三途川理 vs アンフェア女王』なんかがありますけど、その中ではいちばん出来が良いかと」
石井「霧越くんは『クララ殺し』を2位にしてるね」

クララ殺し (創元クライム・クラブ)

クララ殺し (創元クライム・クラブ)

 

荒岸「クラブの投票でも2位に選んでいます」
霧越「これはもっと評価されるべきでしょう。前作『アリス殺し』の焼き直しと受け取られてしまっていますが、同じ設定を用いながら新たな驚きを提示しているのは凄い」
秋好「とはいえ、基本的には同じじゃん」
霧越「まあ、そう言ってしまえばそうですが……。でも、実は●●●●だったという真相など見所は多いです」
秋好「石井くんは、『トランプソルジャーズ』ではなく『ワスレロモノ』なんだ」

トランプソルジャーズ 名探偵三途川理 vs アンフェア女王 (講談社タイガ)

トランプソルジャーズ 名探偵三途川理 vs アンフェア女王 (講談社タイガ)

 
ワスレロモノ 名探偵三途川理 vs 思い出泥棒 (講談社タイガ)

ワスレロモノ 名探偵三途川理 vs 思い出泥棒 (講談社タイガ)

 

石井「うーん、『トランプソルジャーズ』は、途中のババ抜きまではいかにも森川智喜らしい捻くれ具合で面白かったけど、最後が尻すぼみだからなあ……」
吉川「それを言ったら、『ワスレロモノ』もでは?」
石井「確かに、『ワスレロモノ』も中盤がクライマックスなんだけど、その中盤の無限ループ倒叙があまりに凄まじくて、これは推さざるを得ないなと」
秋好「今年の森川は他にも『トリモノート』『レミニという夢』を刊行していて、青崎有吾と並ぶ働きぶりなんだけど、いまひとつ精彩を欠いていたような」
石井「如何せん三途川理シリーズ以外が小粒なんだよね。『レミニ』の謎解きなんて言葉遊びというかほとんど駄洒落だし」
秋好「みんな『スノーホワイト』クラスを期待しているから。ハードルを上げてしまっているんですよね。それに対して、『ジェリーフィッシュは凍らない』は新人補正がかかっているように感じました」

ジェリーフィッシュは凍らない

ジェリーフィッシュは凍らない

 

石井「僕は5位に投票したけど、正直5位以上はあげられないな」
荒岸「『そして誰もいなくなった』をアップデートしている点は評価したいなと」
石井「『そし誰』というか、どっちかっていうとアレだよね。そういう初期新本格っぽさは好ましいんだけど、構成が若干とっちらかっていた印象」
秋好「クローズド・サークルにおけるサスペンスや驚きの演出など、確かにもっと面白くなった気はします」
石井「あとキャラがなあ……。読み心地としては、去年の久住四季『星読島に星は流れた』を思い出した」
秋好「またそうやって暴言を飛び火させる……。でもキャラがきつかったのは間違いないですね。まず女性キャラの口調が全員ほとんど一緒で、基本的にヒステリックなのが気になりました。あと、刑事二人の役回りがわかりにくい。素直に日本人刑事をワトソン役にして、視点も固定させちゃったほうが良かったんじゃないかなあ」
石井「あ、一人だけ日本人が出てくるのも『星読島』っぽい」
荒岸「いや、それは外国を舞台にした作品でよくあるパターンですから」
霧越「結構楽しく読んだんですけど、一箇所だけ明らかにアンフェアな記述ありません?」
石井「どこどこ?」
霧越「ここです(当該記述を指差して読み上げる)」
秋好「あー、細部を覚えていないけど、確かに……」
霧越「まあその点を除けば、新人賞受賞作としては水準以上だったかと」
秋好「では、ここからはまだ語っていない作品で、一人だけ推しているものに触れていきましょうか。まずは荒岸くん、『真実の10メートル手前』」

真実の10メートル手前

真実の10メートル手前

 

荒岸「正直4、5位は話題にしたくてのランクインなのですが(笑)ミステリとしては小粒ってのは否定できないんですけど、よねぽ好きとしてはまず『満願』的な幻影城リスペクト的なラインを継続して書いてくれた嬉しさと、そこに古典部シリーズの基本ラインである「一般に受け入れられた物語を推理によって読み替える」っていう作風を組み合わせてきたことで贔屓しちゃいました。あとは去年の三冠よりは評価したいんですけどね」
秋好「うーん、そこを評価するのはわかるけど、全体的に登場人物の心理が納得しがたかったな。謎解きのために不自然な言動をさせているのに、その謎解き部分に旨みがないというか……。直木賞の選評と概ね同意見でしたね。同じタイプの作品なら、個人的には青山文平『半席』のほうを推したい」

半席

半席

 

吉川「どういう話ですか?」
秋好「時代小説短編集なんだけど、主人公の徒目付が武家に関する事件を調査して、隠された動機を探り当てるホワイダニット・ミステリでもあるのね。江戸時代でなければ成立しない事件に、江戸時代でなければ成立しない動機がしっかりとリアリティをもって描かれていて、特別驚きがあるわけではないけど、非常に心地よく読みました」
石井「あと荒岸くんは、『挑戦者たち』を5位に」

挑戦者たち

挑戦者たち

 

秋好「このミス12位、本ミス15位、ハヤミス8位……いや、傑作だと思いますが、これを選ぶのはどうなのか(苦笑)」
荒岸「普通の意味でのミステリではもちろんないですけど、〈読者への挑戦〉を通して本格ミステリへの批評になっていますし、本格ミステリの愉悦に満ちていると思います。「挑戦状アレルギーの弁」を読めるだけでも、この作品の価値は十分です」
秋好「読書会すれば良かったじゃない」
荒岸「本当はやりたかったんですけど、あんなブログ読んでしまったあとだと流石に……」
秋好「では続いて、霧越くんが選んだ『ずうのめ人形』」

ずうのめ人形

ずうのめ人形

 

霧越「「ずうのめ人形」という都市伝説にまつわるホラーなんですけど、ミステリ的な趣向もあって、本格好きにも読んでもらいたいです」
秋好「ハヤミスでもクラブの投票で8位に入れてますね」
霧越「はい。ハヤミスだと『ぼぎわんが、来る』が国内篇の新人賞に選ばれていて、澤村伊智が正当に評価されているようで嬉しかったです」
秋好「で、僕だけあげてる『猫には推理がよく似合う』」

猫には推理がよく似合う

猫には推理がよく似合う

 

石井「去年も深木章子推してたよね」
秋好「『交換殺人はいかが?』ね。ここ最近の深木作品はどれもいいですよ。でも、どこが良かったというのが説明しづらいなあ。まあ、構成が捻くれていて、フーダニット・パズラーとして非常にテクニカルな作品ですね。そしてもう一作、『あなたのいない記憶』」

あなたのいない記憶

あなたのいない記憶

 

荒岸「ワセミスも推薦コメントを寄せていますが、これは本格ですかね?」
秋好「本格かはともかく、意欲作であることは間違いないでしょ。記憶を題材にしたミステリは過去にいくらでもあるけど、虚偽記憶をああいう使い方して、しかもそこに●●ネタを仕込んでいる点が新しい。まあ、現実的にはどう考えても不可能なんですが。『涙香迷宮』とどっちに投票するか最後まで悩んで、結局若手作家推しでこちらに」
吉川「『涙香迷宮』は絶対おれが好きじゃないやつだと思って読んでないんですよね」

涙香迷宮

涙香迷宮

 

石井「ミステリ部分は取ってつけた感じだけど、暗号に関しては超絶技巧だよ」
吉川「あ、おれ暗号ミステリ好きじゃないので」
秋好「それは仕方ないな……。でも、このいろは歌の凝り具合は凄まじいですよね」
石井「うん。だけど、このいろは歌、実際は涙香じゃなくて竹本健治が作ってるわけでしょ?そうやって冷静に考えると、作中で「超人的」とか「どうしてこんなふうにうまく作れるのかしら」とか言われても、自画自賛が過ぎると思えてしまう……」
秋好「まあ、そう書きたくなるのもわかりますよ。確かに超人的だもん。竹本健治の新たな代表作になるのは間違いないでしょう。じゃあ次、石井くんが投票した『許されようとは思いません』」

許されようとは思いません

許されようとは思いません

 

石井「連城的逆説が味わい深かった。アホみたいな理由で人を殺すところ」
霧越「連城的な構図の逆転を、巧く綺麗にまとめましたという感じがして、面白いは面白いんですけど、そこまで強く推すほどでもないかなと。「ありがとう、ばあば」とか、展開が見え見えじゃないですか?」
秋好「見え見えでも巧いとは思います。表題作のホワイダニットも良かったですね。ただ確かに、無難にまとまってる感は若干ありますね」
石井「ぼくの3位もわりと相対的なものだからなあ」
秋好「それじゃ最後に、本ミスのベスト20の中から、5人とも選んでいないけど語っておきたいものがあればお願いします」
石井「10位の深水黎一郎『倒叙の四季』は白樺先生激おこ案件」

倒叙の四季 破られたトリック (講談社ノベルス)

倒叙の四季 破られたトリック (講談社ノベルス)

 

秋好「知ってた」
石井「そんなに怒るほど酷くもないけど、まあ可もなく不可もなくというか」
秋好倒叙の見どころの一つに、どこから完全犯罪が綻びるのか、探偵がどこから犯人を追いつめるのかっていうのがあるじゃないですか。この作品でも一本目なんかは、決め手となる物証に意外性があって面白かったんですけど、二本目以降、犯人が馬鹿すぎて、「ああ、これがあとで手掛かりになるんだろうな」っていうのが見えてしまうんですよね」
荒岸「とってつけたような操りの構図とさらにとってつけたようなその解決がなんとも言い難い……。ただ操りのせいでサスペンス的な面白さがなくなったと思う。白樺先生激おこも納得。ベスト10内だと、残る平石貴樹松谷警部と向島の血』はどうでした?」

松谷警部と向島の血 (創元推理文庫)

松谷警部と向島の血 (創元推理文庫)

 

秋好「相撲連続殺人ということと、シリーズ集大成で最後にあの人が出てきたことしか覚えてないな……。でも、去年も同じこと言ったけど、地味ながら複雑な構図を巧くまとめあげていたと思います。あとは――」
石井七河迦南わたしの隣の王国』?」

わたしの隣の王国

わたしの隣の王国

 

霧越「趣向だけという感じが」
秋好「イベントで杉江松恋さんも仰っていたけど、ファンタジーパートが壊滅的に面白くなかった。この小説はそこが肝だと思うんですが」
石井「現実パートの事件も、面白いことを試みてるとは思うんだけど、如何せん盛り上がりに欠けるよね」
霧越「もっと面白くなりそうでならない、惜しい作品でした」

終わり

秋好「それでは、これにて座談会を終わりたいと思います」
石井「おー、2時間ちょっとで終わった!」
秋好「やはり去年5時間かけても終わらなかったのは白樺先生の喋りすぎが原因か」
吉川「何をそんなに喋ってたんですか?」
石井「『ジュラシック・ワールド』と比べて『××××××』は恐竜が出てこないから面白くないとか」
荒岸「ひどい」
秋好「まあこんな感じで、来年もまた何か出来たらいいですね。本日はどうもありがとうございました!」
一同「ありがとうございました!」

(文責:秋好)