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2015年アイドル楽曲マイベスト10〈アルバム編〉

 

クリスマスも終わり、今年も残すところあと5日ですね。

年の瀬になると、今年を振り返る的な意味で各所で様々な年間ベスト的なものが発表されるわけですが、小説に関するものだけでもランキング本が乱立していて、Twitterや個人ブログまで含めると到底チェックしきれません。

で、自分でも今年一年を振り返ってみようと思うんですけど、今回はいま書いておかないと触れずに終わってしまいそうな〈2015年楽曲・マイベスト〉……だと広すぎて絞りこめないので、〈2015年アイドル楽曲マイベスト10〉をやりたいと思います。

読んで字のごとく、今年アイドルが発表した楽曲で自分が聴いたものの中から、シングル10曲とアルバム10枚を独断で選び、今年の10曲、今年の10枚として紹介するというベタベタなやつです。 

まずはアイドル楽曲〈アルバム編〉から。

 

 10.僕とジョルジュ『僕とジョルジュ』

僕とジョルジュ

僕とジョルジュ

 

今やすっかり地下アイドルを象徴する存在となった感のある姫乃たまと、カメラ=万年筆の佐藤優介、シンガーソングライター・金子麻友美による音楽ユニット「僕とジョルジュ」の同名アルバム。

なんといってもこのアルバム、21曲も収録されているにも関わらず、トータル時間は33分程度しかない。ほとんどラモーンズ的なアルバム構成。痺れますね。フレンチポップ風の背徳的な楽曲が多く並んでいるのに、下世話な感じがしないのも大変良い(?)。

9.BILLIE IDLE®『ROCK"N"ROLL IDLE

ROCK

ROCK"N"ROLL IDLE

 

元BiSのファーストサマーウイカヒラノノゾミに、モモセモモ、ヤスイユウヒを加えて結成されたユニット。今年4月のデビューアルバム『IDLE GOSSIP』も荒削りな魅力があって良かったが、アルバムとしての完成度でいえば、5ヶ月というわずかなスパンでリリースされた二枚目のほうを取りたい。

このアルバムもまた、10曲で35分程度と非常にコンパクト。その中でビートロックやテクノポップ風の懐かしくも新しい音が並んでおり、前作以上に"ネオ80's"というコンセプトが前面に打ち出されている。そして何より、全曲驚くほどキャッチーなのが堪らない。

先行シングル「be-bop tu-tu」や疾走感のある「ダーリンにはならない」ももちろん良いが、個人的なイチオシは「平成ロックスター」。〈来年の半分は何もしないで寝ていたいよ〉〈働かないでEveryday〉というフレーズの力強さよ。

8.武藤彩未『I-POP』

I-POP 【Music盤】 (CD)

I-POP 【Music盤】 (CD)

 

昨年4月にソロとしてメジャーデビューし、今月23日をもって芸能活動を休止した元さくら学院(初代生徒会長)武藤彩未の2nd。

前回に引き続き、三浦徳子森雪之丞本間昭光の起用に加え、新たな作家陣も迎えた本作は、80年代アイドル歌謡のエッセンスは残しつつ、一層ポップでカラフルで、2015年にいかにポップスを歌うか、いかに響かせるかということと真摯に向き合っている印象。全8曲33分とこれまた短いが、これ以上のボリュームでは胸焼けしてしまうだろう。それくらい密度の濃い内容になっている。浮遊感のあるシンセサウンドが心地よいエレクトロポップ「パラレルワールド」から、シンプルなロックチューン「OWARI WA HAJIMARI」までとにかく多彩で、しかもどんな曲調であっても、武藤彩未のボーカルが輝いているのが素晴らしい。本当に、もっと売れるべきだった。

7.ゆるめるモ!『YOU ARE THE WORLD』

YOU ARE THE WORLD

YOU ARE THE WORLD

 

ニューウェーブを基調に、ハードコアパンク、テクノ、サイケなど様々なジャンルを呑みこみながら、ポップなアイドルソングを送り出してきたゆるめるモ!の現時点での到達点。プラットフォームとしてのアイドルもここまで来たか、という感じ。

一曲の中で様々な要素をあわせもつ冒頭の「モモモモモモ!世世世世世世!」から強烈だが、POLYSICSハヤシヒロユキ作詞作曲でテンションの振りきれた「Hamidasumo!」「不意打て!!」、ミニアルバム『SUImin CIty Destroyer』に収録されていたエレクトロパンク調の怪曲「眠たいCITY vs 読書日記」、後藤まりこ作詞作曲の中盤におけるハイライト「id アイドル」、ミドリカワ書房が作詞作曲のフォークトロニカ風ナンバー「夢なんて」、そしてラストの7分にも及ぶサイケデリック・エレクトロ「Only You」まで、一瞬たりとも気が抜けない。ひたすら狂騒的なエネルギーが放出されている。衝撃度では今年ナンバーワンかもしれない。

と思いきや……

6.3776『3776を聴かない理由があるとすれば』

3776を聴かない理由があるとすれば

3776を聴かない理由があるとすれば

 

今年はこれもありました。静岡県富士宮市富士山のローカルアイドルにして、何やかんやあって現在は井出ちよののソロユニットとして活動する3776初のフルアルバム。

Base Ball Bear小出祐介は本作について、「2015年アイドルシーンの最重要作品であり、音楽シーン全体を見渡しても衝撃の大傑作といえるのでないかと思います」と発言しているらしいが、確かにそれくらい言ってしまいたくなるような凄まじさ。井出ちよのといっしょに富士山を登頂するというテーマのコンセプトアルバムで、随所に富士山に関する雑学などをちりばめながら、アルバムトータルタイム3776秒を通じて標高3776メートルを登りきる。

この趣向自体も面白いのだけど、各楽曲がまたとんでもない。ニューウェーブプログレかという複雑なリズムやコードに、屈託のないちよののボーカルで歌われるポップなメロディー。ゆるめるモ!以上の何でもあり感。大傑作であるかはともかく、怪作であるのは間違いない。個人的には「水でできている」と「旅ふぉとセレクション」、そして3月11日に作曲されたというラスト曲「3.11」がイチオシ。

5.BiSH『Brand-new idol SHiT』

Brand-new idol SHiT

Brand-new idol SHiT

 

BiSのマネージャーであった渡辺淳之介と音楽プロデューサー松隈ケンタによって新たに立ち上げられた“二番煎じ”アイドル・BiSH(新生クソアイドル)の1st。

楽曲が良い。歌詞が良い。アイナ・ジ・エンドの声が良い。以上!で済ませてもいいのだけど。ラウドロックメロコア基調の乾いたギターロックが並ぶ珠玉のアルバム。捨て曲なし。四つ打ちダンスナンバー「DA DANCE‼︎」や変態的ニューウェーブ「カラダ・イデオロギー」もカッコいい。BiSの『IDOL IS DEAD』や『WHO KILLED IDOL?』と比べても遜色ない、どころか超えているんじゃないか?それくらいの出来栄えだと思います。

全部良いのだけど、アイドルとしての決意と不安を歌った冒頭の2曲と「サラバかな」、ラストを飾る「Story Brighter」が頭一つ抜けている印象。

ギンギンに拡散なされたアイドルの命は如何に?(「BiSH-星が瞬く夜に-」)

4.でんぱ組.inc『WWDD』

WWDD (通常盤)

WWDD (通常盤)

 

 でんぱのアルバムをこの順位に置かざるを得ないということこそ、今年のアイドル作品が質・量ともに充実した年であったかの証左になりますかね。

2014年にリリースされたシングル楽曲のクオリティが圧倒的だったので、当然アルバムも素晴らしいものになることは予想されていたが、その予想をはるかに上回る名盤。全編情報量のつまった中毒性の高い楽曲ばかりで、とにかく聴いていて楽しいし飽きさせない。ミュージカル調の「でんぱーりーナイト」やでんぱ組らしい王道の「バリ3共和国」、戦国時代をテーマにしたでんぱ組史上最速BPMの「ちゅるりちゅるりら」、清竜人の天才性が爆発した限定シングル収録曲「Dear☆Stageへようこそ」「まもなく、でんぱ組.incが離陸致します」、底抜けに明るい「サクラあっぱれーしょん」など既存の楽曲はもちろん、新曲もどれも素晴らしく、特に「NEO JAPONISM」と「ブランニューワールド」が良い。

前者は、ORANGE RANGEのNAOTO提供曲。レンジ流変態ポップで、NAOTOらしい先の読めない奇天烈な展開とキャッチーなメロディーが最高。レンジは今こそ再評価されるべき。後者は松隈ケンタ提供曲のため、どうしてもBiSっぽさはいなめないが、それが逆に新鮮でスケールの広がりを感じさせる名曲。

3.Maison book girl『bath room』

bath room

bath room

 

いずこねこを手掛けていたサクライケンタプロデュースのもと、元BiSのコショージメグミを中心に結成されたアイドルグループの1st。BiS関連多いな。

いずこねこ作品の魅力であった楽曲と世界観のアンバランスさ(?)は薄れ、代わりに一つの統一されたコンセプトに貫かれているような印象。変拍子を多用した現代音楽風の楽曲に耳に残るポップなメロディー、暗く内省的な歌詞、感情を排したような4人の無機質な歌声と、とにかく全てがぶっ飛んでいる。7拍子のクラップに導かれてはじまるリード曲「bath room」、いずこねこ「rainy irony」への返歌ともとれる「snow irony」などももちろん素晴らしいが、白眉はラストの「water」。水の流れる音とピアノの調べにのせたこのポエトリー・リーディングにこそ、ブクガの世界観を端的に表現している。

ちなみに、「water」と「最後のような彼女の曲」はコショージが作詞を担当している。BiSに「FiNAL DANCE」という名曲があって、その中の〈シドヴィシャスもジョンレノンも救えない理想主義者なの?できもしないこと考えてる僕も夢想家さ〉って歌詞が個人的にすごく好きなのだけど、ここの歌詞を書いたのもコショージらしく、なんとなくそこから地続きのような感触もしました。

2.Negicco『Rice & Snow』

Rice&Snow

Rice&Snow

 

 Negiccoの通算2枚目のフルアルバムにして、“アイドル”や“2015年”という枠を取っても素晴らしい、まさしく普遍的なオールタイムベスト的作品。

全13曲の楽曲のうち、初期からNegiccoサウンドプロデュースを手がけるconnieが中心となり、外部からはノーナ・リーヴス西寺郷太田島貴男、Shiggy Jr.らを招き、前作以上に音楽性の幅を広げている。一曲目の元Cymbals矢野博康提供曲「トリプル!WONDERLAND」からすでにアンセム感満載で、その疾走感のまま最後まで駆け抜けてゆく。そして終盤のハイライト「光のシュプール」。作詞作曲はconnie、編曲は田島貴男というタッグ。キラキラと煌めく奇跡のような王道ポップス。完璧。

普段はアイドルの物語性とは距離を置きたいのだが、この感動に関しては15年の集大成ということを考えざるをえない。

1.清竜人25『PROPOSE』

「PROPOSE」通常盤

「PROPOSE」通常盤

 

シンガーソングライター・清竜人とその夫人たちという設定の一夫多妻制アイドルのファーストフルアルバム。

Negiccoと迷ったものの、Negiccoが2015年のアイドルという枠組みを軽やかに超えていったのに対し、本作は2015年のアイドルという枠組みでこそ輝くというか、その中で聴いてこそコンセプトが意味(批評性)を持ってくるものだと思うので、今回の〈2015年アイドル楽曲マイベスト〉ではこちらを一位に選んでみた。

実際、アルバムの完成度としてもまったくNegiccoに劣るところはない。全編ファンクやソウルを基調にしながら、アイドルシーンを一枚で総括するかのような、多彩で、狂ったテンションのポップス群。冒頭の「Will♡You♡Marry♡Me?」「A・B・Cじゃグッと来ない‼︎」「Mr. PLAY BOY…♡」のシングル三連発からしてぶっ飛んでいるが、以降もアルバムリード曲「ハードボイルドに愛してやるぜ」や(清竜人が歌っていること以外は)ど真ん中のアイドルソング「逢いたいYO〜♪」など、とにかく清竜人の非凡な才能がいかんなく発揮されている。ザッツ・エンターテイメントというべきどえらいアルバムだ。

 

次点は、おやすみホログラムおやすみホログラム』、校庭カメラガール『Ghost Cat』あたり。別格として、乃木坂46『透明な色』。乃木坂はほとんどベストアルバムのためランキングには入れなかったが、ひょっとすると今年いちばん聴いたアルバムかもしれない。

おやすみホログラム

おやすみホログラム

 
透明な色(Type-A)(DVD付)

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〈アルバム編〉の発表は以上!

(秋好)