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対決!刑事コロンボVS日高屋チキチキ10番勝負! 第2試合「歌声の消えた海」vsニラレバ炒め定食(執筆者:白樺)

さてさて、コロンボvs日高屋、第二試合は「歌声の消えた海」vsニラレバ炒め定食!

懲りずに遊びに来て下さったあなたに感謝!

 

皆さんは「ニラレバ」と呼んでますか?それとも「レバニラ」

 

中華系チェーン店では、日高屋」「餃子の王将「ニラレバ」

大阪王将」「オリジン東秀」「福しん「レバニラ」を名乗っています。

創業の年代などもバラバラで、法則性はなさそう……(「王将」と「大阪王将」が対立しているのは面白いですが)

 

私は「レバニラ」派なのですが、中国語では「韭菜炒牛肝」

つまり、頭から直訳していけば「ニラレバ」が正しい訳で、日本でもかつてはそちらが完全に主流だったそうです。

 

調べてみると「レバニラ」という「誤用」を全国に広めたのは赤塚不二夫先生だとか!

バカボンのパパの好物が「レバニラ炒め」なんですよね!

 

天才バカボン』の影響で「レバニラ」という言い回しが広まり、今ではグーグル検索でも、

 

レバニラ炒め 約 380,000 件

ニラレバ炒め 約 292,000 件

 

と「レバニラ」が優勢。Wikipediaの項目でも「レバニラ炒め」になっています。

「レバニラ」というのは、一種のズージャ語だったのですね!

 

1970年代。赤塚先生をはじめ、筒井康隆御大や山下洋輔さんといった「ジャックと豆の木」文化人たちが活躍した、「大衆文化」の最も華やかなりし時代を今に伝えるインデックスが、「レバニラ炒め」なのかもしれません。

 

それは『刑事コロンボ』が、アメリカにおける「テレビ文化」の台頭を象徴する番組でありながら、古き良きハリウッド黄金時代へのリスペクトに満ちあふれていることと、よく似ていますね。

 

似ていますよね?似ているんです。

 

つまりレバニラ炒め=刑事コロンボだったのです!!

 

 

新事実が判明したところで、「ニラレバ炒め定食」がやって来ました。(「レバニラ炒め定食を」と注文したら「ニラレバ炒め定食ですね」と店員さんに即座に訂正されました)

 

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ニラレバ炒め定食650円なり。

 

最初に言っちゃいますが、レバーは独特の血の匂いが少し苦手でして。。。

 

ですが日高屋さんのレバーは薄く切ってあって火が中まで入っているのと、おそらく下ごしらえの時におろした生姜で和えてある?ためか、レバーの野趣はそのままに、かなり生臭みが抑えられてあって美味しいです!

厚切りで柔らかいレバーが至高!という方もいるかとは思いますが、万人向けニラレバ炒めとしてかなりレベルの高い一品!

 

ソースは醤油ベースの甘口だれ。塩の濃すぎない、マイルドな味わいの中にオイスターソースのさりげない苦みもちゃんと感じます。(なんて書いて、「入ってません」って言われたら恥ずかしい。。。)

冷めてからも美味しく頂けたので、野菜に血が回らないように、先にレバーを炒めてるんじゃないかな?

『お試しかっ!』で、片栗粉を振って先に強火で火を通していると紹介されたとのこと。そういう一工夫が嬉しいところです!

  

素材の個性を熟慮した仕事の誠実さは、「歌声の消えた海」の脚本にも共通しています。

今回は豪華客船で起こる殺人事件!

しかも本作の撮影は、実在の客船「サン・プリンセス号」のメキシコクルーズにみんなで乗り込んでオールロケで行われたと言うからゴージャスです。

 

※サン・プリンセス号(建造時の名前はスピリット・オブ・ロンドン)はその後何度か所有者を変え、香港のクルーズ会社の客船「オーシャン・ドリーム」として今も現役航行中だそうです!

 

古くは『ナイルに死す』『偽のデュー警部』からミシシッピー殺人事件』まで、ミステリファンは豪華客船が大好き!豪華客船もミステリファンが好き。

見栄えが華やかなだけでなく、ご都合主義な嵐や吹雪や土砂崩れを起こさずにクローズドサークルが作れる、ミステリ書きにとっては非常に使い勝手の良い舞台設定。

ただし、安易に使ってしまうと、得てして「結果、これって豪華客船が舞台じゃなくても成り立つんじゃないの?」という設定倒れに終わりがちです。

 

しかし、脚本家ウィリアム・ドリスキル(のちに「忘れられたスター」を書く人!)は、豪華客船という舞台ならではのさまざまなガジェットを創案、「歌声の消えた海」を見所満点の楽しいお話にしてくれています。

 

例えば、外部の応援を呼べない状況で、一人奮闘するコロンボさん。

天眼鏡で硝煙反応を調べたり、鉛筆を使って指紋を採取したり(こんなやり方があるんですね!)。私たちは彼の姿を追いながら、いつもの『コロンボ』では省略されている細かな証拠集めの手順を見ることができます。

 

〈対決のドラマ〉でなく、〈捜査のドラマ〉に重点を置いていることが、本作の特異なポイントかもしれません。

 

そうは言っても今回の犯人ダンジガーさんを演じるのはロバート・ボーンですから、貫禄は十分!

初っぱなから白いスーツに赤の開襟シャツという冗談みたいな格好で現れてもなんだかサマになっているのはさすがです。

 

羽毛クッション越しに背中から正確に心臓を撃ち抜いて射殺するという、「職業:中古車ディーラー」って嘘だろ!って技を見せてくれるダンジガーさん。

中盤の凶器の弾道を検査するシーンで、コロンボさんがダンジガーさんに銃を撃たせるんですが、ここで遠景のカットになって、「撃つ時にダンジガーさんの腕が微動だにしない」って描写があるんですね。

ここは気を抜いてるんじゃなくて、明らかにそういう演出。コロンボさんはここで、ダンジガーさんの銃の腕前を確かめてるんです。「反動に耐えられてるな、これは撃ち慣れてるぞ。さてはナポレオン・ソロだな」とバレちゃう訳です。

 

そして何よりニラレバ、もやしがたっぷりでシャキシャキです!

自分で野菜炒め作っても、水分で蒸れてしなしなになっちゃってこんな風にシャッキリポンとはならないんですよね。やっぱり中華は火力!でしょうか。

もやしの功績を一切無視した「レバニラ炒め」という名称に異を唱えたのは確か、東海林さだお先生でしたね。私もそう思います!

 

そう、脇役のキャラクターの面白さが、物語に華を添えてくれるものです。

本作で言えば、ダンジガーさんに罪をなすりつけられそうになるロイドくん。吹き替え版では上田忠好さんの、気弱で人の良さそうな演技が絶品!倒叙もののテンプレ台詞である「型通りの捜査です」を、本当に無実の奴に言う珍しいシーンもあります。

 

また、ダンジガーさんの怖い奥さんも良いキャラ。冒頭、ダンジガーさんが、(犯行に使うはずだった)手袋を奥さんが入れ忘れたことに気づく一連のシークエンス。あの1分ほどのやりとりで、この夫婦の力関係が理解できてしまう名場面です。

 

定食部分にも言及しておきましょう。

ごはんは写真の通り、普通盛りでもかなりガッツリ!

歯ごたえの楽しいきゅうりのお漬け物もたっぷりです。

しばらく考えても何の出汁かすら解らない中華スープは、ぼんやり優しい味。

昼休みにクラスで一人サリンジャーを読んでた眼鏡のあの子の感じがあります。

 

「歌声の消えた海」も、本編の枠を超えたシリーズ史的に見てみましょう。

コロンボには実は、セルフオマージュとも言うべき、先行作からの引用が数多く見受けられます。例えば本作におけるキャラクターの配置、

 

権力を持つ妻-浮気性の夫-夫の浮気相手(被害者)-彼女に思いを寄せる男

 

という構図は、「黒のエチュードからの引用でしょう。本作ではさらに、犯人が意図的に、自分は何の恨みもない「被害者に思いを寄せる男」に罪をなすりつけるという趣向が追加されています。こうしたシリーズ史的な引用と発展を探していくのもファンの楽しみの一つ。

ところで「黒のエチュード」は、他にも「ビデオテープの証言」で、「権力を持つ妻と浮気性の夫/妻の目の前で提示される、『ビデオに映った決定的証拠』」というプロットが踏襲されていますし、

 

「音楽家による愛人殺し」という設定は『古畑』の「絶対音感殺人事件」と『実験刑事トトリ』の第三話で。

「愛人殺し/被害者に思いを寄せていた男が容疑者になる」という展開は『相棒』の「殺人講義」で。

「ガス自殺に見せかけるも、被害者が大事にしていたペットまで一緒に死んでいたことから疑念が挟まれる」という手がかりは『福家』の「愛情のシナリオ」と、大山誠一郎先生の「彼女がペイシェンスを殺すはずがない」(NOT倒叙!)で。

 

といった具合に、ずば抜けて「引用率」が高い一作なのです。

……ぶっちゃけ、フォークさんのお友達で名監督のジョン・カサヴェテスさんが出てる割にオチが見え見えの小粒な回で何故そんなに人気があるのかは解らないのですが。。。(出来が悪いからこそ、「俺ならもっと上手くやれるぜ!」とクリエイター魂に火を点けるのかしら?)

また、今作のダンジガーさんの「ある場所にずっと居たように見せかけ、途中で抜け出して被害者を殺害する」というアリバイトリックは、ドリスキルさんの代表作「忘れられたスター」のそれと全く同じものであることも、作品史として指摘しておきましょう。(こうした、各脚本家さんの「トリックの手癖」を俯瞰するのもなかなか面白いですよ!) 

 

さて、今回はずいぶん長くなっちゃいました。

 

さっそく結果発表に移りましょう!

 

勝者は………ニラレバ炒め定食!!

 

今回も、甲乙付けがたい名作対決でした。しかし、「レバーが苦手な私に、レバニラ炒めの美味しさを教えてくれた」という点を評価させて頂きました。

「歌声の消えた海」は、捜査メインの物語運びの中で、せっかくのロバート・ボーンさんが目立てていないこと、クッションの羽毛や亜硝酸アミルのカプセルといった物証が「見つけてくれ」と言わんばかりであまりに安易であることが、「刑事コロンボの魅力」を伝えるには少しばかり力不足に思います。(※ネタバレ反転「医務室にアレルゲンの羽毛の枕が置いているはずがない」という手がかりは上質なものですがネタバレ終わり)。

おっと。そうは言っても、「舞台が豪華客船である」ことを十二分に活かしたプロットの立て方がミステリ心を満足させてくれる、見所たっぷりの作品であることは間違いありませんよ!必見の一作です。

 

ところで、日本語だとグーグル検索してもコロンボ関連のページしか引っかからない謎の工具「カーチスクリッパー」。

綴りに当たりをつけて“curtis clipper”で調べると、ネット販売しているページが出てきましたよ!

 

今回は話が横道に逸れすぎて、ずいぶん長くなっちゃいました。次回からは自重……できるかな?

 

第三試合は「二枚のドガの絵」vsW餃子定食一点豪華主義対決!

See you next match!!