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風狂奇談倶楽部の活動記録や雑考など

風狂的〈本格ミステリ・ベスト5〉中間報告(中編)

これまでのあらすじ:ウェブ公開するんだからなるべく悪口を言うのはやめようと決めたはずなのに既に池井戸潤先生と久住四季先生にかなり申し訳ない感じになってしまった風狂殺人倶楽部の面々なのであった。

 舞台を学生会館そばの某ミラノ風ドリアの名店に移し、座談会再開! 

 

白樺(承前

1.三宅隆太『スクリプトドクターの脚本教室・初級篇』(新書館

2.小島正樹『浜中刑事の妄想と檄運』(南雲堂)

3.東野圭吾ラプラスの魔女』(KADOKAWA

4.大倉崇裕『福家警部補の追及』(東京創元社

5.村崎友『夕暮れ密室』(KADOKAWA

 

白樺「『浜中刑事』を挙げたので、倒叙つながりで『福家警部補の追及』も」

石井「ドラマにもなったシリーズだね」

白樺「そのドラマ版はオリジナルの刑事課の面々みたいなのが無闇に増やされてて、犯人のドラマが語られる場面や対決のシーンが警察の捜査パートに圧迫されちゃってる、典型的な〈倒叙って銘打っておいてフーダニットがないだけの刑事ドラマ〉にされちゃってたのでスーパー不満なのですが(笑)その前のNHK版も、古畑の『ゲームの達人』の草刈正雄さんが犯人役だって言うから楽しみにしてたのに変な寒いコメディに改変されてて、しかもその短編の〈一番面白い趣向〉がピンポイントで削られててしょんぼりだったので、本当に福家警部補はドラマ化運がない」

秋好「あの、ドラマの悪口はそれくらいにして新刊の話を」

白樺「ああそっか。『追及』は中編二作の作品集ってことで『浜中刑事』と構成が似てるんですけど、こちらは別にこの二編を並べた理由みたいなのはあまりなくて。というか、一話目のベースはコロンボの『愛情の計算』で、二話目の犯人の動機は『別れのワイン』なので、どちらも〈私はこれを人を殺してでも守りたい!……でもそれってただのエゴだったのかな〉みたいな切ない系の話で似てるんですよ」

石井「日本人の好きな浪花節

白樺「大倉先生自身は、ランキングで『仮面の男』を一位に挙げちゃうような通すぎるコロンボマニアなんですが、あんまりマニアを出しすぎるとみんなが引いちゃうと思ってるのか、実作では『別れのワイン』系統のベタな同情できる犯人の話ばかり書いてるのがファンとしては不満なんですよ。犯人が良い人だと対決感が薄くなるじゃないですか。数少ない〈対決〉にこだわった倒叙の書き手なんだから、大倉先生にはもっと人間のクズみたいなゲス野郎をいっぱい出して欲しいんです」

秋好「白樺先生、まだ一個も褒めてないですよ」

白樺「あわわ。良いところもあるんですってば。定番の〈犬が吠えなかった〉ロジックのちょっと新しい使い方を見せてくれたり。あと、福家の裏テーマで〈コロンボに出てきてない職業の人を犯人にしよう〉ってのがあって。例えばフィギュアの原型師とか漫才師、復顔術のプロとかバラエティに富んだ顔ぶれが出てくるのが面白いんです。ちなみに今回の犯人はプロの登山家と動物保護団体メンバーのペットトリマー。……ただ、ないものねだりなんですが、ページ数がこれでも足りないのか、特に二話目の『幸福の代償』はペット業界を巡るサブプロットが事件の本筋から浮いちゃってるように見えて」

石井「せっかく物珍しい設定があっても単なる背景になっちゃってるんだ」

白樺コロンボがそうであるように、事件の舞台や犯人のパーソナリティをもっとトリックや最後の詰め手にまで有機的に絡めてくれると、もっとなんだろう、〈今まで見たことのない〉作品になるんじゃないかなと。これは書き手志望者としての自戒ですけどね。えーと、じゃあ『ラプラスの魔』についてもちょっと喋りたいかな。私は『容疑者Xの献身』で卒論を書いた東野圭吾ガチ勢なので」

石井東野圭吾読んでないな……」

ラプラスの魔女

ラプラスの魔女

 

白樺「まぁミステリとして特筆すべき作品ではないんですけど。宣伝もすごいされてたし、読んでなくても内容はなんとなくご存じかと思うんですが、ラプラスの魔的な人が出てくるんですよ」

秋好「でしょうね」

白樺「で、ミステリとして、小説としてどうなのっていう点に関しては、最近の東野先生はもはや〈原作屋さん〉なので。今回もちゃんと〈夏休みの大作邦画の原作〉として文句のない出来だなぁと。リーダビリティは無論、はんぱない人ですから。天下の東野圭吾ですもん、そりゃ面白いですよ」

石井「毎回、一定以上の面白さはあると」

白樺「ただ問題点としては……いや問題というか、東野圭吾はやはり〈流行作家〉であって、時代の流れをちゃんと読んできてるなっていうのがあって。この話でも東野先生はいつもの〈犯罪を通じた男女の絆〉話を書いてるんですけど」

秋好お家芸ですからね」

白樺「男の子と女の子が主役的に出てくるんですが、彼らは天才脳外科医に脳を改造されて、ものすごく観察力と計算が立つ、ものすごく〈勘の冴えた〉人になってるんですね。で、そのほとんど予知能力な勘の鋭さを使って、男の子は自分の家族を殺した奴らをどんどん殺していくんです。事件は全部、完全に不幸な偶然って処理されるんですけど、同じくらい勘の鋭いヒロインだけが〈あっ、アイツがやってんな〉って気づいて止めるために追いかけると、そんな話なんですよ」

秋好「え、ロードムービーなの?」

白樺「そういう訳でもないんですけど。で、主人公二人は、自分の努力じゃなくて一種天才であるっていう設定。それから、だんだん明らかになっていく家族殺しの犯人像っていうのが、〈この人の一族は代々先天的に脳に欠陥があるから生まれながらの悪党なんです〉って描かれ方なんですよ」

石井「お、横溝正史かな?」

白樺「修行みたいな要素なく主人公が最初から強いって設定も、〈敵は共感する必要のないモンスターだから迷わず駆逐しろ!〉って割り切りも、最近の漫画やネット小説じゃメインストリームじゃないですか。私は正直、どうかと思うんですよ?特に〈悪役にも向こうなりの正義があるんだ〉的な視点が完全に欠落したプロパガンダみたいな作品ばっか読んでると脳が腐るぞって危惧してるんですけど……。ただ、そういう流れを敏に読み取ってミステリに仕立てるって手腕は、東野先生なのかあるいはブレーンがいるのか解らないですけど、やっぱり達者だなって。えーと、これ最後フォローになりました?」

秋好「悪口を言うためにランキングに入れるのやめてもらえます?でも、エンタメとしての〈東野圭吾力〉は解る。数読むと改めて凄さを感じるというか」

白樺「あとはこれを今回の一位に推そうかなっていうのが、『スクリプト・ドクターの脚本教室・初級篇』」

スクリプトドクターの脚本教室・初級篇

スクリプトドクターの脚本教室・初級篇

 

石井「ミステリーなんですか?」

秋好「確かツイッターでも話題になってたやつですよね」

白樺「これはあの、映画の脚本のアドバイザーを長くやってらっしゃる三宅さんという方がまとめた、脚本の〈問題の見つけ方・直し方〉と〈良いところの伸ばし方〉みたいな本で、脚本教室の先生を務めたりされてるのでご本人の実体験に基づくエピソードがいくつか出てくるんですが、これがサイコサスペンスなんですよ」

石井「へええ」

白樺「例えば、すごいジェントルマンな男の子の話。彼は筋金入りのフェミニストで、ちょっと荷物持ってあげたりとかどこ行くにも女性を立てて優先するとか、そういう気の利く、クラスの女の子から言わせたら〈女心が解ってる!〉良い子だったんですって。でも、その彼の書いた脚本は、女性キャラがいつも紋切り型というか、ぜんぜん生き生きしてない」

石井「二一世紀に〈○○ですわよ〉みたいな?(笑)」

白樺「かな?(笑)あんなに女性の気持ちを考えて優しい彼がなんで女性を上手く描けないんだろうと思って、その子の話を聞いていくうちに、彼が子供の頃、年の離れた姉から〈女性はか弱いんだから〉を盾に無条件に服従させられて暴行されてたみたいな過去が掘り出されるんですよ。だから彼は未だに無意識に〈姉に/女性に気に入られないと〉って恐怖感に支配されてて、その恐怖ゆえに女性に正面切って向き合えないでいたんだってのが明らかになるんです」

石井「すげえ!え?これ連城?泡坂?」

白樺「そうなんですよ、だからこれ実質『幻影城』なんですよ」

秋好「あれみたいだね、『法月綸太郎の本格ミステリ・アンソロジー』に、一編だけ精神科医が書いた症例集みたいなのから採用されてたの覚えてる?「偽患者の経歴」ってやつ。それはノンフィクションなんだけど、ちゃんと〈意外な行動の理由〉みたいな話が展開して、本格として読めるってことで入ってるんですよ」

白樺「この本読むと怖くなるのは、自分だって周りにバレちゃうかもしれないわけですよ。 自分の作品のちょっと歪なところから、自分も気づかないような心の闇の蓋がパカッと開いちゃうかもしれない怖さ。もちろん、物語分析の本としてもとっても面白いのでお勧めです」

秋好「じゃあ、最後は僕の番ですか」

秋好

1.深水黎一郎『ミステリー・アリーナ』(原書房

2.麻耶雄嵩『化石少女』(徳間書店

3.鳥飼否宇『絶望的 寄生クラブ』(原書房

4.北山猛邦『オルゴーリェンヌ』(東京創元社

5.早坂吝『虹の歯ブラシ 上木らいち発散』(講談社

 

秋好「一位と二位は被ってる(前回参照)のであっさりと。まず、『ミステリー・アリーナ』は現代本格の一つの到達点です」

白樺「そこまで!(笑)」

石井「確かに楽屋落ちをここまで極めるとね」

秋好「この手の趣向をここまで突き詰めたのはすごい。オールタイムベスト級ですよ」

石井「でもやっぱりロジックが欲しかったな」

白樺「そういうのはこの先ね、魅力的な〈先行作〉が一個生まれると、さらにそこに何かを付加してやろうってフォロワーがやって来ると思いますから」

秋好「2007年でいうところの『首無の如き祟るもの』。この先『女王国の城』級が出なければ今年はこれで決まり!で、二位の『化石少女』。これは別にオールタイムベストとかじゃないけど、さっきも言ったように技巧に見るべき点は多いし、『あぶない叔父さん』と比べれば遥かに……」

石井「もしかして『あぶない叔父さん』って『化石少女』の評判を相対的に上げるために書かれた作品なの?

秋好「で、三位なんですけど。実は今年、鳥飼否宇が三冊出してるんですよ。どれも割と良いんだけど、今回は『絶望的 寄生クラブ』!」

絶望的――寄生クラブ (ミステリー・リーグ)
 

石井「絶望的に面白いの?」

秋好「(無視)『本格的』や『官能的』でもお馴染みの増田米尊さんが出てくるシリーズですけど、これは別々に発表された三作プラス書き下ろしを無理やりまとめた連作短編集になってます。個々の話はどれも完全にバカミスで、まず「処女作」って短編は、増田さんのパソコン上に急に現れた誰が書いたか解らない小説を巡る話で」

白樺「え、ホラーなの?」

秋好「自分の書いた学会発表用の文章データがいつの間にか謎の小説に変わってしまっていたって話が一つ。その小説自体が作中作になってて、そこでは一度も性交していないのに妊娠した女性っていう謎が展開するんです」

石井「それで「処女作」か……」

秋好「〈想像妊娠かな?〉とか色々言われるんだけど、間違いなく妊娠してる。これはフーダニットとハウダニットですよね(笑)」

白樺「誰が彼女をdone itしたのかと」

秋好「で、そんな話をしてたらもう一つ謎が乗っかって。彼女が急に流産しちゃうんですよ。で、誰が赤ちゃんを殺したのかって話になると。で、なんだこの小説はと。それで、内容が童貞っぽいから、童貞の増田さんが無意識で書いたんじゃないかと疑われて悩んだりするんですよ」

石井「無意識で(笑)童貞をこじらせたすえに生まれてしまったハイドが」

秋好「で、何がすごいかってこの話、最終的に〈これはノックスの十戒に則って書かれてるんだ!〉ってなって、完全に十戒に従って解かれるんですよ」

石井「『ノックス・マシン』かな?」

秋好「そんな感じで、バカミスでエロミスなんですけど、どれももの凄く趣向として凝ってるんです。他の作品も軽く触れておくと、次の「問題作」っていうのは、急に何かにキレだした男が、急に携帯ショップに立てこもって、でも別に金とかも取らずにそのまま自殺しちゃう。そこで急に〈読者への挑戦〉が出てきて」

白樺「そんな訳のわかんない話なのに(笑)いきなり挑戦されちゃう」

秋好「〈この男はなんでこんなことをしたのでしょう?〉」

石井「しらねえよ!」

秋好「いきなりホワイダニットになるんですよ。しかもこの小説は、上下に分かれてレイアウトされてるんですけど、下は全部注釈なの。円城塔みたいな。〈この『俺』とは~である〉みたいに全部注釈で出てくるんですよ。で、次の「出世作」。これは官能小説です」

白樺「官能ミステリ、じゃなくて?」

秋好「別に謎も何もなくベッドシーンが続くだけなんですよ。で、終わった後に〈読者への挑戦〉が」

(一同、笑)

石井「何に挑戦するつもりなんだよ……」

秋好「問題は〈この男のフルネームはなんでしょう?〉」

白樺「狂ってる(笑)確実に狂ってますよ作者は」

秋好「しかも、ちゃんと本文に仕掛けがあって、伏線も丁寧に張られています。で、最後の「失敗作」で、急にこの小説、メタフィクションの様相を呈してくるんですね。それまでずっと増田さんは〈誰かに見られてる〉みたいなことを言ってるんですが、ここで急に〈作者・鳥飼否宇〉の存在が持ち上がってくるんです。こんなバカミスでエロミスなのに、奇想を凝らした紛うことなき現代本格なんですよ。かなり実験的な試みが出てきて」

白樺「鳥飼先生の他の二作はどうなんですか?」

秋好「『生け贄』は割とクラシカルな、閉鎖的な村が出てくるような作品です」

生け贄 (講談社ノベルス)

生け贄 (講談社ノベルス)

 

白樺「横溝、三津田的な?」

秋好「どっちかというと三津田かな。土着の宗教が出て来たり。鳥飼否宇だから描き方は軽いんだけど。そういうものとしてそれなりな。すごい大ネタがあるわけじゃないけど、及第点は余裕で超えてる感じ。それと、今年鳥飼否宇で真面目にランキングに入るのは、たぶん『死と砂時計』 」

死と砂時計 (創元クライム・クラブ)

死と砂時計 (創元クライム・クラブ)

 

石井「真面目に(笑)」

白樺「『絶望的』はアヴァンギャルドすぎて入らないと」

秋好「『死と砂時計』は架空の犯罪者収容所を舞台にした連作短編集で、死刑反対の世論が盛り上がる中、死刑執行が出来ない国から金を貰って死刑を代行してる施設の話なんです。一編目は完全に法月の「死刑囚パズル」」

白樺「その設定だと、「死刑囚パズル」の別解集みたいな話かと思ったけど」

秋好「他の回はそれぞれ趣向を凝らしてあるからそうはならないんだけど、一編目は本当に明日殺される囚人が殺された謎で」

白樺「そういうの好きですよ。「暗い箱の中で」の別解を書いた「赤い糸の呻き」とか傑作でした」

秋好「ただ、一編目はその内容で三~四〇ページくらいしかないので、伏線しかなくて見え見えというか……。『死と砂時計』自体、全体通しての完成度は低くないんだけど、飛び抜けた作品は無かった印象。だから今回個人的に推したいのは『絶望的』(笑)」

石井「後半戦までに読んでおかきゃ」

白樺「すごく読みたくなりましたね」

秋好「四位は北山猛邦の『オルゴーリェンヌ』。これは少年検閲官シリーズの二作目です」

石井「前作を読んでおく必要はある?」

秋好「いや……うーん、でも読んでおいたほうがキャラや世界観は解りやすいかな。書物がない世界なんですね。物語が悪いものとされてるから、歌ものの音楽も禁止されてるし書物もない、って世界観で。で、二作目の『オルゴーリェンヌ』は孤島が舞台で、オルゴール職人たちの館で連続殺人が起こるんですが、全部けっこう凝った不可能犯罪。でも、さっき〈物理の北山〉って言いましたけど、僕は北山の物理あんまり好きじゃないんです。不可能犯罪は出てくるんですが、トリックが全部まあどうでもいいかなって感じで。〈物理の北山」〉と言いながら、面白いのは物理トリックじゃなくて叙述トリックだとか、ちょっとメタっぽい〈首切りの理由〉だったりするじゃないですか」

石井「解る解る」

秋好「本作だと、〈なぜ検閲官が島にいる時に殺人が起こったのか〉というのが一種のメタな謎として機能していて」

白樺「〈なんでコナン君が泊まる旅館では毎回殺人が起こるんだ問題〉的な?」

秋好「それにプラスして、本作は多重解決ものでもあるんですけど、〈なぜ多重解決か〉に物語上の必然性がちゃんと用意されてるんですよ。かつ、最後の解決がある新本格作品のパロディになっていて」

白樺「設定したガジェットに対して真摯というか、盛りだくさんですね」

秋好「ただ、ちょっと長すぎるっていうのは難点かも。島に行くまでにけっこう長いくだりあったりして。事件が起こってからも、北山猛邦の不可能犯罪にあんまり興味が湧かないんで少しかったるい(笑)ただ、幻想的で狂気的な〈オルゴーリェンヌ〉というアイディアは素晴らしいです」

白樺「あとでちょっと喋りたいんですが、長編の事件が起こるタイミングって重要 ですよね。展開しない物語についていけなくなるラインがある。ちょっと幻想やSFの要素入った説明しなきゃならない作品は特に」

秋好「五位は早坂吝の『虹の歯ブラシ 上木らいち発散』。『ミステリー・アリーナ』がなければもっと上でも良いと思ったんですけど。この〈虹の歯ブラシ〉っていうのは、主人公の上木らいちは女子高生で売春してて、日替わりで別の男を部屋に呼ぶんで一週間七人分の七色の歯ブラシが置いてあるって話です」

虹の歯ブラシ 上木らいち発散 (講談社ノベルス)

虹の歯ブラシ 上木らいち発散 (講談社ノベルス)

 

石井「なるほどねぇ……」

白樺「なるほどねぇじゃないですよ」

石井「上木らいち発散って言うのは何が発散されるの?」

秋好「うーん……?最後に一応発散といえるような事態は起きるんですが……。この作品は連作短編集で、まぁ各短編傑作、とは言わないですけど、〈エロを絡ませる〉って縛りを設けた上で、ちゃんと本格を成立させてるのが偉い」

石井「エロいのがエラい」

秋好「最初の事件は、裸の女性の死体がコピー機の読み取るところに俯せて倒れてて、胸のコピーが無数に印刷されてる。で、いかにも怪しい社長が出てくるんだけど、このコピー機は自動印刷ができないから、これだけの枚数のおっぱいのコピーを手動で取るには十時間くらいかかるって話になって(笑)容疑者のアリバイが成立するんです」

白樺「でも、事前に用意することは出来なかったんですか」

秋好「それが、コピーに徐々に現れていく死斑がちゃんと記録されていたから、確実に死後にここで撮られたことが証明されるんですよ」

白樺「えー!」

秋好「他にも、エロがちゃんと舞台設定に溶かし込めてるというか、上手く必然性が作れてる上に、ちゃんと使い方が一ひねりされてるんですよ」

白樺「確かに言われてみれば、書かれてる絶対数が少ない分、エロトリックってまだまだ開拓の余地がある分野な気がしますね」

石井「『絶望的』もそんな感じだったね」

秋好「そして、最後の「赤は上木らいち自身の色」って短編で、それまでの全ての事件が伏線として収束するんですよ。最後の一個手前にちょっと謎めいたSFみたいな掌編が挟まれて、最後は〈上木らいちとはなんだったのか〉みたいな話になります」

石井「ええー?」

秋好「そこから多重解決的な構造になり始めて、かつここで謎を解くのは〈作者〉なんですよね。〈第一話のこの描写から、つまり○○だ。いや、第二話にはこんな風に書かれている〉って感じで」

白樺「なんか今回、秋好君の勧める作品はその辺りに共通点がありますね。〈メタ〉と〈多重解決〉の二つが2015年上半期のキーワードなんでしょうか?」

秋好「まあ現代本格のテーマというか、単に自分がそういうのが好きなだけかも(笑)」

 

店員ミラノ風ドリアをお持ちしました」

 

石井「食事も来たことだし、いったん中断しましょう」

 

そんなこんなで、ふたたび次回(後編)に続く!