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風狂通信web

風狂奇談倶楽部の活動記録や雑考など

風狂的〈本格ミステリ・ベスト5〉中間報告(前編)

ランキング 座談会 新刊 本格ミステリ

 

物言えば唇寒し秋の風   芭蕉

 8月12日、夜。早稲田大学学生会館。そこには、ワセダミステリ・クラブの部室を我が物顔で占領する老害たちの姿があった――

風狂殺人倶楽部で新刊ランキングを作ろう!」というなんとなくの思いつきで集まったメンバーたち。さてさて、それぞれの今年のお勧め作品は?

その前に

関原「これもう録音してるの?」
白樺「してるしてる。だからもうこの先はあんまり悪口言えませんよ」
石井「そこは上手く文字起こしの時にね、カットしてもらって」
関原「新刊の話する前にちょっと。ミステリーズ!新人賞が結果出たじゃないですか。で、受賞者が91年生まれで佳作が89年生まれ」
白樺「同年代か……」
関原「それでちょっと新人賞の話を。今年は、新人賞不作の年なんですよね。まず横溝正史賞と鮎川哲也賞が受賞作なし」
石井「そう言えばそうだったね」
関原江戸川乱歩賞は出たんだけど選評が不穏というか」
白樺「あんまりなんだ。かつては〈直木賞を取っても消える作家はいるけど乱歩賞を取って消える作家はいない〉とまで言われたのにね」
石井「全盛期の乱歩賞は落ちても大作家になってるからね。島荘とか綾辻、有栖川……」

関原「去年の『闇に香る嘘』は良かったんですよ。年末のランキングでもいいとこいってたし。で、今年の受賞作についてネットでも選評が公開されてるんですが、有栖川有栖辻村深月は褒めてるけど池井戸潤今野敏は不承不承って感じで」
石井「ミステリとしての評価ともっと広汎なエンタメとしての評価の差ってことかな」
関原「受賞の言葉を見たら、作者も有栖川作品が好きっていうのすごく出してたから」
石井古野まほろの登場人物かな?」
関原池井戸潤の選評第一声が〈不作であった。『受賞作なし』が妥当だったと思う〉。他にも例えばこのミス大賞なんかも、一次選考のコメントで低調だったって言われたりしてる。で、翻ってミステリーズは、受賞者二人がどちらも平成生まれ。受賞者は同賞史上最年少かな?作品自体まだ読めないので判断は保留ですが、ここは同年代として楽しみにしたいかな」
白樺「若さはそれだけで一つの才能だからねぇ……(遠い目)」
関原「面白いのが今年は〈新人賞低調〉の年なんですけど、全体としてはミステリ豊作の年なんですよ。本格ミステリとしていろんな賞の対象になりそうな作品が多い」
石井「でも、逆に言えば〈これぞ!〉っていう絶対的な一冊はまだないかもね」
白樺「確かにあんまり〈豊作〉って言われてもぴんとこなかったです」
関原そんな乱戦の状態だからこそ、誰がランキング作っても絶対にバラけてその人の資質とかが出るから面白いだろうな、って言うのが今回の企画です
石井「とりあえず現時点でのお勧めベスト5を持ってくれば良かったんだよね?」
関原「まずはそれぞれの持ち寄ったベスト作品を語って、そのあとで他に読んだ作品の話なんかも総括的にできればと思ってます。じゃあ、まずは石井くんから」

※ネタバレには気を遣っていますが、物語の展開等を暗示する記述があるかもしれないため、話題にあがっている作品を未読の方はお気をつけください。

石井

1.麻耶雄嵩『化石少女』(徳間書店

1.久住四季『星読島に星は流れた』(東京創元社

3.深水黎一郎『ミステリー・アリーナ』(原書房

4.円居晩『シャーロック・ノート』(新潮社)

5.北山猛邦ダンガンロンパ霧切3』(星海社

 

石井「まず、同率一位が二作。麻耶雄嵩化石少女』と久住四季星読島に星は流れた』。三位が深水黎一郎『ミステリー・アリーナ』」
白樺「『ミステリー・アリーナ』まだ読んでないや」
関原「いや、あとで言いますけど、今年は『ミステリー・アリーナ』絶対来ますよ!」
石井「四位が円居晩『シャーロック・ノート』、五位が、これはシリーズものなんだけど、北山猛邦ダンガンロンパ霧切3』」
白樺「北山先生のダンガンロンパはすごく評判良いよね。去年の『霧切2』もランキング入ってたし」

ダンガンロンパ霧切 3 (星海社FICTIONS)

ダンガンロンパ霧切 3 (星海社FICTIONS)

 

石井「じゃあ、下の方から語っていきますと、まず『ダンロン霧切3』。僕はこのシリーズだと、今名前出た『霧切2』がコンゲーム小説として非常に良くできていて一番好みです。『3』は正直、本格としては『2』ほどではないかな、って感じなんだけど、さすが〈物理の北山〉が書いてるだけあって、トリックが地味ながらなかなか技の利いたバカネタで面白いです。えっと、今回はネタバレは……」
関原「この場では大丈夫です。まずいところは伏せ字にするので」
石井「じゃあ、世界観の話とかを。これは『シャーロック・ノート』とも関わってくるんだけど、名探偵が複数いる世界の話なんですね。〈探偵図書館〉ってところに登録してる探偵が、事件を解決するたびにランクアップしていって世界的な名探偵になってくって設定なんですね。で、〈トリプルゼロランク〉っていう最高位の名探偵が4人いるんだけど、そのうち3人が陰謀を巡らせてるらしいって話なんです。それがいよいよ3巻で本格的に対決っていう」
白樺「かなりラノベ的な話なんですね」
石井「で、『シャーロック・ノート』も設定は似てて、〈日本探偵公社〉〈現衛庁(げんえいちょう)〉っていう複数の探偵が所属する組織があるんですけど」

関原「そういう言葉遊び好きですよ」
石井「探偵が制度化、組織化された世界の話なんです。他にも古野まほろの聖アリスガワ学園だとか、そういう〈制度化された探偵〉ものがまた増え始めてるのはどういう流れなのかな、と。この辺りはいずれ改めて考察してみたい」
関原「確かに最近多いですね」
石井「この作品は前半部分は学園裁判で、言うならルヴォワールシリーズの縮小版みたいな感じなんですけど、違うのはあっちは真相なんかどうでも良いってスタンスだけど……」
関原「『シャーロック・ノート』は想定される必勝法というか、〈解〉が存在するんですよね」
石井「ただ、この裁判は〈裁判官〉がおいそれとは説得されない。そこで積み上げられるロジックの厳密さはさすがというか。やっぱり円居さんは法月-麻耶スクールの人なんで」
関原綾辻-有栖川スクールではなく」
石井「で、真ん中の話はエピソード1というか、主人公が探偵養成学校に入る経緯が紹介されてます。これが倒叙ものなんですよ。やりとりの頭脳戦も上質だし、一つスマートな仕掛けも用意されてるので」
関原「ダイイングメッセージなんかも気が利いてますよね」
石井「あと、ラスボスとして爆弾魔の降矢木残月っていう人がいて、この人はあの降矢木家の末裔なんですけど。クライマックスはデパートを舞台にコンゲームを繰り広げるっていう。ちょっとそういうテイストも『霧切』シリーズに近いものを感じました」
関原「戦術も面白いし、そこに過去の事件なんかも絡んでくるのが上手い。読みやすいし、円居晩入門書としてお勧めしたい作品」
石井「あと、犯罪者と探偵は紙一重だってテーマが語られるって点でも、この二作は近いものがあって。さっきも触れたけど、『ダンガンロンパ霧切』では世界最高の探偵の四人中三人が、犯罪被害者の復讐の手助けをするような形で犯罪に荷担してる。『シャーロック・ノート』も、どうやら身内に敵がいるらしいってことを匂わせるところで終わります」
白樺「〈正義〉の揺らぎや〈力〉を持ってしまうことの業、みたいなテーマは、例えば9・11以降のハリウッドのアメコミ映画なんかで量産されて、その界隈ではもう語り尽くされた感がありますが、同様のテーマが日本のミステリ界で語られ始めてるっていうのは世相の観測として面白いですね」

石井「で、『ミステリー・アリーナ』。三位に置きましたが、これ一位でも良いと思います」

ミステリー・アリーナ (ミステリー・リーグ)

ミステリー・アリーナ (ミステリー・リーグ)

 

関原「『ミステリー・アリーナ』は僕の中ではもう一位ですから」
白樺「なんで読まなかったんだろう。悔しいな……」
石井「これは早い段階で解る設定なんでネタバレじゃないんですが、舞台としては年末のお楽しみ番組があって、推理クイズショーなんですよ。今年は〈ミステリーヲタ大会〉ですって言って、犯人当て小説を冒頭から読んでいって、早押しで犯人を推理してくださいっていう」
白樺「ちょっとメタっぽい設定なんですね」
石井「で、集まってるのは濃いミステリオタばっかりなんで、最初っからひねくれた読みしかしないんですよ」
関原「しかも賞金が20億円とかかかってるんで、みんなわりと序盤からばんばん答えちゃう」
石井「〈どうせ語り手が犯人なんだろ!〉とか。参加者が14人いるから、つまり叙述トリックのどんでん返し14連発なんですよ。登場人物に男か女か解らない奴が何人もいたり。でも、ともすればただの楽屋落ちになりかねないこのワンアイディアを、ちゃんと誠実に考え抜いて作ってあるのが偉い。……ただ、ないものねだりをすると、どんでん返しが完全に叙述トリック一本勝負なのがちょっと単調で、そこにロジックの展開も欲しかったかな」
関原「でも、確かに犯人特定自体のロジックは薄いけど、前の人の推理を否定するための伏線が精緻に張られてるし、中盤でいきなり〈実は密室でした!〉って新たな条件が飛び出したりして、物語が進むごとに制約が厳しくなる中で、最後まで読者の想像をフェアに裏切れるのはすごいと思いますよ」

石井「それで、同率一位の……じゃあ、波乱を呼びそうな方から。『星読島に星は流れた』」

白樺「読んでびっくりしたんですよ。〈孤島に集められた学者たち〉〈その孤島に建つ研究所と、ずっとそこに閉じこもっている『若すぎる博士』〉って言われて、〈あれ?これはすべてが何かになるのかな?何かのアルファベットになるのかな?〉と思ってたら、何のてらいもなくラストシーンまでその作品とほぼ同じ構図で終わるっていう衝撃的な」
関原「僕は白樺先生ほど嫌ってないですよ」
白樺「あっ、言っておきますけど、私だってこの作品がまんま先行作の劣化コピーだから怒ってるんじゃないですよ?怒ってるのはキャラ描写についてですよ」
関原「ああ……」
白樺「本当に私、ヒロインキャラみたいなのが、料理が下手で周りからからかわれるみたいなくだりが出てくるとダメなんですよ」
関原「毎回、エリスだっけ?食事作るのは女の人で、男連中は煙草吸ってふらふらしてますからね」
白樺「なんか、この作品全体に言えることなんですけど、描き方が無神経で杜撰な感じがするんです。とりあえずオタクスラング喋らせとけば笑ってもらえるだろみたいな感じとか。特に女性の描き方がジェンダー的な視点にあまりに無神経でカンに障るというか……。こういうのがなんで苦手かっていうと、読んでる私まで一緒にその差別に巻き込まれるのが怖いんですよ。この本読んでたら、後ろからいきなり通りがかりの上野千鶴子に飛び膝蹴りを食らわされるんじゃないかって背中が気になるんですよ」
関原「それは被害妄想ですよ。でも、僕もタフなニートってキャラはどうかと思ったな」
石井「確かに、キャラが魅力的かとか、そういう点では言い返すことはないけど、最近、変に尖った作品ばっかり読んでたから、この作品があまりに何のトゲもなくオーソドックスなミステリだったことに好感を持ったんだよね。今でもこんなミステリが書かれるんだなって」
関原「別に孤島に天才が集められてもいいんですよ。孤島の連続殺人とか最高じゃないですか。……でも、この作品はそうならないでしょ。事件もそんなに起こらないし、サスペンス性もそこまでないし」
白樺「お膳立てに対して、確かに事件自体は地味ですよね」
石井「登場人物にもそれほど危機感がないから、サスペンスが盛り上がらないってのもあるかも」
白樺クローズドサークルものへの批判でよくある、〈人が死んでるのに冗談言い合ったり出来る訳ないだろ〉ってやつが首をもたげちゃうんですよね。たぶんそれって、もっとばんばん人が死んでサスペンスフルだったら、むしろ癒しみたいに機能してくれて気にならないんでしょうけど、今回は物語がオフビートだから、お遊びの部分が悪目立ちしてる感はあるかもですね」
石井「あと、ベタはベタだけど、やっぱり最後に明かされる仕掛けの壮大さ?それは読んでてカタルシスがあるよ」
関原「でもなんだろう、びっくりするには説明過多な気もするんですよ。全体として書き口が平明な分、話の転がし方がちょっともたついてるかなってところもいくつかあったし。ペットボトルのくだりとか」
白樺「自分が書く時にも注意したいことなんですけど、推理パートの説明の重複って、やっぱり物語の進行にストップかけますよね。例えば主人公が発見したことを一緒にいた数人に話す→その場で後から合流した人に話す→犯人を名指しするシーンで全体に向けてもう一回話す、で計三回も同じ情報が出てくるとか」
関原「それが、例えば犯人に向けて罠を張るみたいな〈情報が共有されていない〉ことを利用した仕掛けがあるならともかく、この作品では別にそういう意味もないし……。ただ物語を引っ張るためだけに情報を伏せとくみたいな場面が散見するのが気になったな」
石井「一位にしたのになんか文句ばっかり言っちゃって申し訳ないし、別に『星読島』以外にもこの問題を孕んでいる作品はたくさんあるんだけど、石持浅海作品じゃないんだから、一人くらい作中の人物がちゃんとした倫理観を持ってくれてても良いんじゃないかな、とは思ったんだよね。この犯人は、いわば何の恨みもない人を駒として使って殺したわけじゃん。そのあたりに誰も何も言わないまま流されていくのが怖かった」
白樺「その問題ってミステリだけじゃなくて、今のあらゆるエンタメ作品に通じる根深いものだと感じてて、後々私も話そうと思ってました」
関原「『星読島』はこのあたりで。なんか、最近のミステリ全般への問題提起をこれ一冊にぶつけちゃったみたいな感じで申し訳ない気もしますね。良いところもあるし、サービス精神も感じる作品なんですが」

石井「じゃあ最後に、『化石少女』。白樺先生はこれも不満みたいだけど」

化石少女 (文芸書)

化石少女 (文芸書)

 

白樺「不満じゃないですよ!『さよなら神様』読んだ後で『化石少女』読んだから〈あれ?〉って思っただけで、『あぶない叔父さん』の後に読んでたら大傑作と思ってましたよ」
関原「僕は連作短編集としての完成度で言えば、『さよなら神様』より『化石少女』の方が上だと思いますよ」
白樺「確かに、『さよなら神様』は後半が傑作揃いだから読後感はもの凄く良いけど、言われてみれば前半のネタ振り部分はもっとタイトでも良かったかな、と思ったりします」
関原「それに、『メルカトルかく語りき』の延長線上の作品として『化石少女』はよりコンセプトが明白だし。そういう技巧的な面の完成度と……」
石井「某短編のダイナミックなバカミス感ね」
白樺「あれは私も好きです!「加速度円舞」なんかに近いような視覚的な面白さ。麻耶先生のバカトリックは華があるんですよね。『翼ある闇』とかももちろんそうだし。『あぶない叔父さん』はそういう意味での華がなかった気がします」
石井「フォーマット崩し的な、探偵役の設定へのこだわりはいかにも麻耶さんだし。あとごめんなさい、この作品に関して冷静な判断ができないのは、出張に行く途中のバスで読んでたらやけに主人公に感情移入してしまって〈辛えなぁ……〉ってしみじみ感じちゃって」
白樺「あれってなんだっけ、親のしがらみで逆らえないんだっけ?『隻眼の少女』もそうだけど、そういういかにもラブコメが始まりそうな設定から始まって、一切男女間に絆が芽生えないのが麻耶先生ですよね」
関原「絶対恋愛に展開しないっていう」
白樺「女性に幻想を抱きがちな童貞への、既婚者からのメッセージなんでしょうか?」
関原「あと、一個一個の短編の技巧で言えば、けっこうトリッキーなことをやってるのに、麻耶先生だと〈案外常識的な話だね〉みたいに評価してもらえない」
白樺「それ毎回言ってるよね(笑)普通のミステリ短編集だったらもっと褒められてもおかしくない短編がないがしろにされがち問題。『貴族探偵』の「ウイーンの森の物語」とか」

石井「あとちょっと、番外編として一つ語りたい作品があって。野田秀樹の『エッグ』。これはミステリじゃないんですけど。国立劇場の建て直し中に、屋根裏から寺山修司の未発表原稿が発見されて、野田秀樹がそれを翻案上演しようとする。原稿の内容は東京オリンピックに向け、〈エッグ〉というスポーツにいそしむ人々を描くという内容だったが……って話なんですが、この冒頭にある仕掛けがものすごいので、ぜひネタバレされないうちに観て欲しい作品。あと、もちろん野田秀樹だから、言葉遊びと伏線の妙も楽しめますよ」

エッグ/MIWA: 21世紀から20世紀を覗く戯曲集

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 白樺

白樺「じゃあ次は私かな?」

 

1.三宅隆太『スクリプトドクターの脚本教室・初級篇』(新書館

2.小島正樹『浜中刑事の妄想と檄運』(南雲堂)

3.東野圭吾ラプラスの魔女』(KADOKAWA

4.大倉崇裕『福家警部補の追及』(東京創元社

5.村崎友『夕暮れ密室』(KADOKAWA

 

白樺「そしたら一つ目はこれかな。小島正樹先生の『浜中刑事の妄想と檄運』。倒叙もので評判も悪くなかったので読んだんですが……。まず、すみません、〈倒叙〉ってジャンル自体の広さの問題があって。私は犯人の視点がメインの犯罪小説寄りの倒叙か、犯人と探偵の論戦がメインの対決型の倒叙が好きなんですが、この作品は倒叙と言いながら、探偵役側の視点がメインで捜査を描くのが主体なので、そういう意味で倒叙ものと思って読むと肩すかしを食らうかもしれません」
関原「白樺先生以外はみんなそんなに倒叙に厳しくないから大丈夫だと思うけど……」
白樺「解説で飯城勇三先生も書いてるんですけど、なんでこの作品が倒叙かって言うと、倒叙のフォーマットだから書ける叙述トリックとかどんでん返しとか、そっちの技巧的な面に挑戦した作品なんですね。特に二話目はかなり凝った仕掛けがあって。……その技巧が勝ちすぎてバレバレってのはあるんですけど(笑)あと、一話目と二話目が犯人像・トリック・動機と色んな面で対になるように設定されているのが、二編まとめた小説集として秀逸ですね。パッケージとして綺麗というか」
石井「『化石少女』的な作品集としての完成度の評価ね」
白樺「あと、探偵役の設定なんですけど、この浜中さんって人は別に取り立てて優秀な人じゃないし、本人は田舎の巡査を無難に勤め上げて駐在所で一生を終えたいと思ってるんですよ。でも、この人めちゃくちゃ運が良いんです。たまたま困ってる人に声をかけたらそいつが大物窃盗犯だったりするんで、気がついたら県警一の名刑事として捜査一課にいるんですよ。で、たまたまルミノール反応の液を持ってる時にすっころんだら、ピンポイントで隠された凶器にぶっかかって証拠が見つかったりするんです」
石井「もうコントだね(笑)」
白樺「たぶん、『迷宮課』シリーズなんかにも通じる、キリスト教圏的な〈罪は必ず裁かれる〉っていう倒叙ミステリの思想を具現化したのがこの主人公なんですね。神の使いとしか思えない強運の名探偵」
関原「そういう批評的な価値もあると。山田正紀なんかも、神の言葉が聞こえる主人公が出てくる『神曲法廷』とか、〈神〉にこだわった作品を書いてますね」
白樺「もちろん不満もありますけどね。証拠の隠滅とかに関して犯人の心理が上手く描けてないとか。出来の悪い二時間ドラマみたいなご都合主義があったりとか」

浜中刑事の妄想と檄運 (本格ミステリー・ワールド・スペシャル)

浜中刑事の妄想と檄運 (本格ミステリー・ワールド・スペシャル)

 

 

関原「ちょっとごめんなさい、そろそろ閉館時間なので、場所を変えましょう」

ということで、いったんお開き。

次回(中編)に続く!

fukyo-murder.hatenablog.com